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命と生活を守る作業療法士の視点~被災後の暮らしと災害復興~

公開日:2018.09.07 更新日:2018.09.21

作業療法終了後の生活

私たち作業療法士は、対象者の生活をより長期的な視点でイメージすることが求められます。これらは、対象者に予測される不利益を予測・予防するとともに、引き続き心身の健康を維持し、その人らしい生活を送っていくために重要な役割と言えるでしょう。

しかしながら、誰もが予測し難い事態にまで想像を及ばせるのには限界があります。自然災害は、まさにその一例。地震や豪雨は、いつどこでやってくるかわかりません。自宅で被災するとは限らず、外出先のスーパーや病院で被災するかもしれないし、旅先で被災する可能性も考えられます。

このような時、病気や心身に障害を抱えながら生活を送る人々は、残念ながら弱い立場に置かれやすく、命を奪われるリスクの高さも否定できません。私たち作業療法士は、対象者の生活を災害から守ることはできるのか。今回は、私自身の被災経験と作業療法士としての視点を織り交ぜながら考えてみたいと思います。

災害後の混乱

災害は、家族・仲間・住まい・普段何気なく送ってきた日常を一瞬にして奪います。同じような被災内容でも、一人ひとり「受け止め方」が異なるのも特徴です。一見、誰よりも明るく元気に振る舞っているように見えても、住まいや家族を失った悲しみを必死に抑えて過ごしている人も少なくありません。被災住民が抱える問題とその背景は、複雑かつ時の経過によって形を変えていきます。

生活不活発病と燃え尽き症候群

地域の学校や公民館に開設される避難所。避難所生活は、平時から環境の変化に弱く、日常生活に何らかの支援を必要とする障害者や高齢者への影響は計り知れません。避難所の環境は、どこを見回しても「バリア」だらけ。狭く風通しの悪い空間は、プライバシーも守られにくく、自由に動く・動こうとする機会を奪いがちです。こうして多発するのが生活不活発病です。
 

身体の一部に起こるもの 全身に影響するもの 精神・神経の機能に影響するもの
関節拘縮
筋萎縮
筋力低下
皮膚萎縮
褥瘡
静脈血栓
など
心肺機能低下
起立性低血圧
消化機能低下
食欲不振
便秘
尿量減少
など
抑うつ
せん妄
感覚機能低下
知的活動低下
興味・関心低下
自律神経機能低下
など

 
また、生活の復旧に没頭する最中、燃え尽き症候群を引き起こしてしまう人も多々見られます。燃え尽き症候群は、被災住民だけではなく、ボランティアや自治体職員などの支援者側も気をつけなければなりません。コミュニケーションがやや冷たく感じられたり、イライラや攻撃的な言動が見られたりしたら要注意。心のエネルギーが空っぽになり、絶望や虚無感へと陥る前に、お互いの心と身体に目を向ける必要があります。

一つひとつ日課を取り戻すこと

災害後、被災住民の健康状態を悪化させる一因として考えられるのが、将来の生活に対する見えない「焦り・不安」です。

「いつ住まいを再建できるのか」「いつまで避難所生活が続くのか」。災害の規模が大きく、被害範囲が広ければ広いほど、生活の見通しを立てることが難しくなり、住民の焦りや不安を煽ります。
そのような中、普段の「日課」を取り戻すことは、非常に大きな出来事となります。お風呂に入ることができた、歯を磨くことができた、いつもの散歩コースを歩くことができた……等々。毎日「あたりまえ」にできていたことを取り戻せたという大きな感動には、悲観的な気持ちを和らげる力があります。

たとえば、東日本大震災で在宅被災者となった男性は、お風呂に入れるようになった日のことを「風呂に入れるということは、また一つ、日常を取り戻せたということである。日常を一つ取り戻せた家族に笑顔が戻った。祖母のイライラも目に見えて解消されていった。今にして思えば、家族がもっと早く日常を取り戻せていたら、他の被災住民に対しても余裕をもって優しく接することができたのだと思う」と手記に綴っています。(※)

ソーシャルキャピタルと災害復興

住民同士のつながりの強さ(ソーシャルキャピタル)は、災害を受けた地域住民の生活再建を助けるとともに、共助・互助への意識を高めコミュニティの回復に寄与すると考えられています。日頃から人間関係が豊かな地域では、災害後の心理的ストレスを減少させ、PTSDや抑うつといった疾患の発症を抑制、あるいは改善させる可能性が高いとされています。

普段から家族や友人関係、近隣住民との付き合いがなく、他者への信頼や助け合いの意識に乏しい場合は、災害後の二次的被害にまで問題が及ぶ可能性を視野に見守っていく必要があるでしょう。

万が一に備えて

いま、それぞれの現場で向き合っている対象者が、万が一、被災してしまったら。
「周囲の人に助けを求めることができるだろうか」「避難所で辛い思いをしないだろうか」「頑張りすぎて燃え尽きてしまわないだろうか」……そんな視点で考えを巡らせておく必要があるのではないでしょうか。

作業療法士は、対象者の命と生活を災害から守ることができるのでしょうか。
実際に災害が起きてからよりも、平時の意識が鍵を握っているのでしょう。災害に学ぶ教訓は、自分自身の暮らしや経験に落とし続けてこそ、主体的な行動に変化をもたらします。

※ 引用元:三陸こざかなネット制作 東日本大震災を乗り越える親子の記録集

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