鍼灸師はやめとけ?後悔する理由と現役鍼灸師が語る本音
更新日 2026年02月09日 公開日 2026年02月05日

文:藤岡嵩大(鍼灸師/あん摩マッサージ指圧師)
「鍼灸師はやめとけ」「後悔した」、そんな言葉を目にして、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
鍼灸師は、収入や将来性を理由に否定的に語られることがある仕事です。一方で、やりがいを感じながら安定して現場で活躍している鍼灸師がいるのもまた事実です。
この記事では、鍼灸師が「やめとけ」と言われる理由を整理しつつ、向いている人の特徴や「やめる」以外の現実的なキャリアについて、現役鍼灸師の視点から詳しく解説します。
これから進路を考える方や、今まさに悩んでいる方の判断材料として、参考にしていただければ幸いです。
目次
鍼灸師が「やめとけ」と言われる理由4選
ここでは、「鍼灸師はやめとけ」と言われる主な理由を4つに厳選し、それぞれについて現場の実情を踏まえて解説します。
収入が安定しにくい
鍼灸師が「やめとけ」と言われる理由として最も多いのが、収入が安定しにくく、生活に不安を感じるケースがあることです。鍼灸師の平均年収は約350〜450万円といわれており、国家資格の専門職としては決して高い水準とはいえません。
とくに、資格取得後に就職する鍼灸院や整骨院では初任給が控えめな場合が多く、手取りで見ると家賃や生活費の支払いに余裕がもてないと感じる人もいます。また、ボーナスがない職場も多く、昇給のペースも緩やかです。
一方で、独立して経営が軌道に乗れば、年収1,000万円を超えるケースもあります。つまり問題は「鍼灸師=低収入」ではなく、働く環境やキャリアをどう設計するかに難しさがあるといえるでしょう。
市場が小さく競争が激しい
鍼灸師が「やめとけ」と言われる理由の1つに、市場規模に対して競争が激しいという業界自体の問題もあります。
とくに都市部では鍼灸院や整骨院が密集している一方で、鍼灸を継続的に受ける患者数は少なく、「院の数に対して患者数が少なく、供給過多になりやすい」のが現状です。そのため、新規開業をしても集客に苦戦し、十分な売上げを確保できないまま撤退してしまうケースも少なくありません。
こうした背景には、鍼灸そのものの認知や理解がまだ十分に広がっていないという課題があります。「興味はあるが少し怖い」と感じる人も多く、腕があれば自然に患者さんが集まるという世界ではないのが現実です。
技術の習得・継承が難しい
鍼灸は東洋医学を基盤とした伝統医療であり、流派や考え方、施術方法が多岐にわたるため、「ここまでできれば一人前」といった明確な到達ラインが見えにくいのが実情です。
また、職場によって技術習得の方針や質には大きな差があり、そもそも体系だった研修プログラムが整っていないケースも多いです。そのため、現場に出てから「見て覚える」形になりやすく、習得できる技術が指導者の力量に大きく左右されます。
その結果、職場を変えると治療方針や技術が大きく異なり、これまでの経験がそのまま活かせないこともあります。年数を重ねるほど「今の職場でしか通用しない技術」が増え、気づけばキャリアの選択肢が狭まっていく点も、「鍼灸師はやめとけ」と言われる理由の1つです。
他業種への転職が難しい
鍼灸師は国家資格をもつ専門職ですが、そのスキルや経験が施術分野に特化しているため、一般企業への転職で直接評価されにくいのが現実です。
例えば、施術技術や東洋医学の知識は、別業界では即戦力として扱われにくく、「実務経験なし」と見なされてしまうケースもあります。その結果、年齢を重ねてから別の仕事に挑戦しようとすると、未経験スタートになることへの不安やハードルを感じやすくなります。
キャリアの幅を考えた準備をせずに働き続けると、転職が難しいと感じやすくなる点も、「鍼灸師はやめとけ」と言われる背景の1つといえるでしょう。
それでも鍼灸師になるメリット

ここまで鍼灸師は「やめとけ」と言われる理由を紹介してきましたが、逆に働くうえでの大きな魅力もあります。ここでは、私が感じる鍼灸師として働くメリットをわかりやすく紹介します。
仕事にやりがいを感じやすい
鍼灸師の大きな魅力の1つは、患者さんから直接「ありがとう」と言ってもらえる場面が多いことです。自分の施術によって体調が改善したり、症状が和らいだりする様子を間近で感じられるため、自分が人の役に立っているという実感を得やすい職業です。
また、患者さんの変化に応じて施術方針を工夫したり、新しい技術を取り入れたりすることで、日々成長を実感できるのもやりがいの1つです。
柔軟な働き方ができる
鍼灸師は働き方の選択肢が広いのも大きな魅力です。就職先は鍼灸院や整骨院だけでなく、美容サロン、病院、介護施設、スポーツチームなど多岐にわたり、自分のライフスタイルや関心に合わせた職場を選びやすいのが特徴です。
また、パート勤務や時短勤務、出張施術なども可能なため、子育てや家族の状況に合わせて働くことができる点も大きなメリットです。柔軟に働ける環境が整っているため、長く安心して続けやすい職業といえるでしょう。
独立・開業の自由度が高い
鍼灸師は独立や開業の自由度が高く、自分のペースで仕事を組み立てられる点が大きな魅力です。1人で施術を完結できるため、職場特有の人間関係のストレスから解放されることもあります。
さらに、施術方針や料金設定を自分で決められるため、自分の理想のスタイルで働くことが可能です。成功すれば収入の上限も高く、給与や雇用条件に縛られず、努力次第で大きく稼ぐこともできます。
鍼灸師に向いている人の特徴

鍼灸師は価値観や考え方が合えば、大きなやりがいを感じられる職業でもあります。ここでは、鍼灸師として長く続けやすい人の特徴をわかりやすく紹介します。
コミュニケーションが得意な人
患者さんは不調と同時に不安も抱えて来院するため、話を丁寧に聞き、不安を和らげるコミュニケーションは施術と同じくらい重要です。何気ない日常会話の中に、本人も気づいていない本音や不調のヒントが隠れていることも少なくありません。
また、施術の考え方や身体の状態をわかりやすく伝える力は、信頼関係の構築につながります。施術と会話の両方を大切にできる人は、患者さんから継続的に支持を得やすい傾向があります。
観察力が鋭い人
鍼灸師の仕事では、問診だけでなく、姿勢や歩き方、顔色の変化といった細かなサインに気づく観察力が重要になります。患者さん自身が自覚していない違和感を見逃さず、状態を多角的に捉えることが、適切な施術や判断につながるからです。
実際に私自身、患者さんの挙動の違和感から異変に気づき、結果としてパーキンソン病の早期発見につながった経験があります。こうした「何かおかしい」という小さな違和感を見逃さず察知できることは、鍼灸師として大きな強みになります。
清潔感のある人
鍼灸師は患者さんの身体に直接触れる仕事のため、身だしなみや雰囲気から生まれる安心感がとても重要です。清潔感を欠くだけで、技術以前に信頼を損ねてしまうこともあります。
また、清潔感は服装だけでなく、ベッドやタオル、施術空間の整い方にも表れます。こうした環境づくりは施術の一部であり、安心して身を委ねてもらうために欠かせません。
そのため、日頃から清潔感に気を配れる人は、鍼灸師に向いているといえるでしょう。
「やめる」以外にもあるキャリアの選択肢

鍼灸師として働く中で行き詰まりを感じると、「もうやめるしかない」と思ってしまうこともあるかもしれません。しかし実際には、働き方や関わり方を少し見直すだけで、これまでの経験を活かしながら続けられる道はあります。
ここでは、「やめる」という選択だけにとらわれない、鍼灸師の現実的なキャリアの選択肢を紹介していきます。
同じ鍼灸師の中で分野を変えてみるという選択
鍼灸師としてつらさを感じている場合でも、必ずしも「鍼灸そのもの」が合っていないとは限りません。実際には、今取り組んでいる分野が自分に合っていないだけ、ということもあります。
鍼灸には、痛みの施術だけでなく、自律神経症状、婦人科系、不妊、美容鍼灸、スポーツ、メンタルケア、高齢者へのケアなど、さまざまな分野があります。分野が変われば、施術の考え方や患者さんとの関わり方、求められる技術も大きく変わります。
「やめる」前に、同じ鍼灸師のキャリアの中で別の道を探してみることも、現実的で実践しやすい選択肢の1つです。
働き方を調整するという選択
鍼灸師は、フルタイムで働くことだけが正解ではありません。体力面や家庭の事情、将来の方向性によっては、働き方を調整することで無理なく続けられる場合もあります。
実際には、パートや業務委託といった雇用形態を選んだり、他の仕事と組み合わせて副業として鍼灸に関わる道もあります。勤務日数や施術時間を調整することで、身体的な負担を減らしながら経験を積むことができ、気持ちにも余裕が生まれます。また、空いた時間を学びや準備に充てることで、将来的な選択肢を広げることにもつながります。
「続けるのがつらい」と感じたときは、やめるかどうかだけでなく、働き方を見直すという視点をもつことも大切です。
他資格や経験と組み合わせる選択
鍼灸師の強みは、施術そのものだけに限りません。これまでに身につけた資格や経験と組み合わせることで、活躍の幅を大きく広げることができます。
たとえばトレーナー経験があれば、コンディショニングや運動指導と組み合わせたサポートが可能になりますし、介護・福祉の現場経験があれば、高齢者ケアや在宅分野での需要にも応えやすくなります。
鍼灸師としての土台に、別の強みをかけ合わせることで、「施術だけに依存しない働き方」を築くことができます。今までのキャリアを無駄にせず、活かす視点をもつことも、「やめる」以外の現実的な選択肢です。
「独立する」という選択
勤務鍼灸師として働いている場合、将来的に「独立する」という選択肢があります。すぐに開業する必要はありませんが、勤めながら経験や準備を積み、タイミングを見て独立するという道が現実的でしょう。
「いずれは自分の院をもちたい」と考えているなら、今の勤務経験も独立に向けた準備期間と捉えることで、「やめる」以外の前向きな選択肢として考えることができるでしょう。
まとめ
「鍼灸師はやめとけ」「後悔する」と言われる背景には、収入の不安定さや市場規模、技術習得の難しさなど、無視できない現実があります。理想だけで飛び込むと、ギャップに悩む人が出てくるのも事実です。
一方で、鍼灸師には人に直接役立つ実感や、柔軟な働き方、年齢や経験を強みにできる魅力があります。向き不向きはありますが、価値観が合えば長くやりがいを持って続けられる仕事でもあります。
鍼灸師が自分に合うかどうかは、他人の言葉ではなく「自分がどう生きたいか」で決まります。迷いながらでも考え行動することが、後悔のないキャリアにつながっていくはずです。
著者プロフィール

藤岡嵩大
鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師
京都仏眼鍼灸理療専門学校にて、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師3つの国家資格を取得。卒業後、病院での研修や漢方鍼灸治療院での勤務を経て、地元熊本に鍼灸治療院を開業し、地域に根差した治療院を経営している。また、Webライターとしても活動し、専門的な知識を活かして健康や医療分野の記事を執筆している。













