【2024年度診療報酬改定】訪問看護で働くリハビリ専門職への影響・ポイントを解説

更新日 2024年08月05日 公開日 2024年08月05日

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文:安部直子(看護師資格保有・医療ライター)

診療報酬とは、検査や治療など、実施した行為の対価として医療機関に支払われる費用です。診療報酬が改定されるたびに、算定方法や業務内容が変わることもあり、現場で働く人たちは負担に感じるかもしれません。しかし、制度の変更は医療サービスの質の向上だけでなく、医療従事者が働きやすい環境を整えることにも大きく関わってきます。

この記事では、訪問看護の分野における2024年診療報酬改定のポイントについて詳しく解説しますので、この機会にぜひ理解を深めてください。

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【2024年度診療報酬改定】訪問看護で働くリハビリ専門職への影響・ポイントを解説

2024年の診療報酬改定が注目される理由

診療報酬は2年ごとに改定されますが、2024年は3年ごとに行われる「介護報酬」「障害福祉サービス」の改定と重なったため、6年ぶりのトリプル改定となりました。

2024年の診療報酬改定の背景には、さまざまな課題や目標がありますが、団塊の世代が75歳以上の高齢者になる「2025年問題」もその1つです。超高齢化社会が到来することで、医療や介護の需要が増加すると予想されるため、社会保障の整備が急務となっているのです。

また、2020年1月に日本で初めて新型コロナウイルスの感染症が確認されたことで、医療、介護、障害福祉サービスを利用する患者さんや利用者さん、それらに従事する関係者は深刻な状況に直面。それを受けて新興感染症への対応や、デジタル化の加速、予防医学の強化など、新たな医療体制の確立が求められています。加えて、2024年4月には「医師の働き方改革」が施行され、これまで医師が行っていた業務の一部を薬剤師や看護師などが役割を共有する「タスクシェア」や、事務作業やデータ入力を別の職種が引き受ける「タスクシフティング」などの取り組みが推進されています。

現在、食材料費・光熱費などの物価高騰が続くなかで、賃上げ対応・人材確保などの課題を抱える企業が増え、社会情勢は見通しのきかない状況です。しかし、そうした状況だからこそ国民が安心・安全に医療を受けられる体制の構築は、必要不可欠なものだといえるでしょう。2024年の診療報酬改定は、そうした多くの課題に対応する役割も担っており、それだけに大きな注目を集めています。

(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要(医科全体版)」/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001252076.pdf

訪問看護における診療報酬改定のポイント

現在は、質の高い訪問診療・訪問看護を確保するため、在宅医療提供体制の見直しが進んでいます。

ここで対象となるのは、医療保険を利用して治療を受けるがん、心不全、難病の患者さんなどであり、高齢者以外の小児や成人も含まれます。しかし、同時改定となった介護報酬改定にも共通の目標や項目が多く存在するため、要介護の高齢者を受け入れている施設では、診療報酬改定の項目と介護報酬改定の項目を混合してしまうかもしれません。

実際の現場で、診療報酬改定と介護報酬改定の内容を明確に区別するのは難しい側面もありますが、介護報酬と診療報酬は互いに関連して機能することが求められています。患者さんや利用者さんに質の高いケアを提供し、医療者自身のやりがいにつなげるためにも、診療報酬改定の内容を確認し、理解を深めておきましょう。

なお、ここで紹介する診療報酬改定は医療保険を利用した内容であるため、おもに訪問看護ステーションでの業務が該当します。

(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【在宅(在宅医療、訪問看護)】」/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001251538.pdf

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適切な訪問看護の提供

診療報酬改定では、緊急の指定訪問看護が適切に提供されるよう、「緊急訪問看護加算」の見直しも行われました。患者さんやご家族からの依頼に対し、主治医の指示に基づいて緊急訪問をした場合、日数に応じた算定となり、月に15日目以降の訪問は加算が減額されます。なお、緊急に訪問看護を実施した場合は、内容や対応を訪問看護記録書に記録するとともに、訪問看護療養費明細書に算定理由を記載する必要があります。

(出典:令和6年度診療報酬改定の概要【在宅(在宅医療、訪問看護)】/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001251538.pdf

24時間対応体制確保の推進

訪問看護ステーションにおける「24時間対応体制加算」も見直しとなった項目の1つです。

これは、看護業務の負担軽減の観点から、看護師の勤務間隔の調整や休日の確保などの取り組みを行った際に加算される制度で、特に注目したいのが「24時間対応体制の連絡相談について」です。24時間対応体制の連絡相談は、原則的に訪問看護ステーションの保健師・看護師が担いますが、今回の改定では夜間や休日の連絡を受ける業種が、看護師等以外の職種でも差し支えないと示されました。ただし、マニュアルの整備や、緊急時に保健師や看護師が対応できる体制の整備といった要件を満たす必要があります。

このような改定に至った経緯には、緊急を要さない相談内容により職員に負担がかかっていた実情があります。厚生労働省の報告書を見ると、訪問看護における利用者さん、ご家族などからの電話相談は1事業所あたり16.7回/月で、早朝・夜間は7.5回/月、休日は6.7回/月です。そのうち最も多いのは体調に関する内容(72.9%)ですが、訪問日時の確認や時間の変更に関する連絡も35.6%を占めており、緊急を要さない連絡を受けるケースが一定数存在していることがわかります。

なお、24時間対応体制を確保するための取り組みには、利用者さんやご家族への説明と同意が必要です。さらに、対応マニュアルの整備や、緊急時の訪問看護が可能な体制づくりなども求められるため、事業所によっては引き続き保健師や看護師が対応する可能性があります。しかし、利用者のニーズに応えながら、医療従事者の負担軽減にもつながる今回の改定は、安定した医療を提供するための重要な取り組みといえるでしょう。

(出典:厚生労働省「訪問看護(改定の方向性)」/https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001164130.pdf

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在宅医療の充実

在宅医療の需要増加が見込まれる現在、入院から在宅医療へとスムーズに移行するためには、入院早期からリハビリテーションを開始することが重要だと考えられています。そのため、患者さんの日常生活動作(ADL)の低下防止を効果的に行うための取り組みとして、以下の2項目が新設されました。

・リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算の新設
入院した患者さん全員に対し、入院後48時間以内にADLや栄養状態、口腔状態などの評価を行い、土日や祝日を含む早期からリハビリテーションの開始を行う

・急性期リハビリテーション加算の新設
動脈ライン・中心静脈ラインやシリンジポンプ、人工呼吸器などを使用している重症者に対して、病態に応じた早期からのリハビリテーションを行う

(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅱ(急性期・高度急性期入院医療)】」/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001224803.pdf

入院早期からリハビリテーションを開始すれば、患者さんの筋力低下や関節拘縮、廃用症候群などの予防につながり、退院後の自宅での生活に適応しやすくなります。また、入院中から専門的なリハビリテーションを受けられるため、患者さんやご家族にとって、リハビリテーション技術を学ぶ良い機会となるでしょう。

加えて、「訪問看護管理療養費」の見直しにより、在宅看護に関わる専門の研修を受けた看護師を配置している場合は、機能強化型の訪問看護ステーションとして評価されます。対象となるのは、褥瘡や人工肛門のケア、看取りなどに関わる専門看護師や認定看護師、気管カニューレや胃ろうカテーテルなどの交換が行える特定看護師が配置されている事業所です。こうした動きから、今後もさらに質の高い在宅医療の提供が期待されるでしょう。

(出典:令和6年度診療報酬改定の概要【在宅(在宅医療、訪問看護)】/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001251538.pdf

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賃上げに向けた動き

医療従事者の人材確保や賃上げに向けた取り組みとして、訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)と(Ⅱ)が新設されました。これらは、2024年(令和6年)度に+2.5%、2025年(令和7年)度に+2.0%のベースアップを実現するための特例的な対応です。対象となるのは薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師、看護補助者、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、臨床検査技師などの医療従事者。賃金アップは今後2年間にわたって行われる予定ですが、配分は事業所ごとに異なります。

なお、ベースアップは、年齢や勤務年数に応じて給与が増える定期昇給とは異なり、全従業員の基本給が一律に上がる点に特徴があります。

(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要(医科全体版)」/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001252076.pdf

医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して商品やサービスをフォーメーション(変化・変形・変容)させることで、医療DXは「病院や薬局などの医療現場でデジタル技術を活用し、サービスの効率化や質の向上を目指すこと」を意味します。

コロナ禍において、医療領域におけるデジタル化の遅れが顕在化したことを受け、今回の改定では「医療DX推進体制整備加算」が新設されました。具体的には、マイナ保険証の活用や電子カルテ情報共有サービスの設備体制などが評価される仕組みとなっており、訪問看護レセプトのオンライン請求開始に対応した、訪問看護指示書の様式変更なども進められています。

新しいシステムに慣れる必要はあるものの、医療のDX化が進めば業務の効率は格段に上がります。例えば、患者さんや利用者さんの病歴や、リハビリテーションの進捗具合などの確認がスムーズになり、多職種との情報共有・連携がしやすくなるでしょう。また、紙での書類作成の手間が省けるなど、日常的な業務の負担軽減にもつながるはずです。

(出典:厚生労働省「医療DX推進体制整備加算の算定要件について」/https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/001257261.pdf

これからの訪問看護でリハビリテーション専門職に求められるスキル

今後はますます在宅医療への取り組みが加速し、提供するケアの質の向上も期待されます。

末期の悪性腫瘍や心不全、呼吸器疾患などの患者さんは、人工呼吸器の使用や点滴を行いながら在宅医療に移行するケースが増えるでしょう。かつては入院を余儀なくされていた医療的ケア児も、自宅での生活が可能になる環境が整ってきました。

また、在宅ターミナルケアにおいては、看取り加算が新設されたことで、住み慣れた自宅で最期を迎える人が増えると予想されます。

そうした個々の患者さんやご家族に向けて、ニーズに沿ったきめ細かいケアを提供するには、医師や看護師、介護支援専門員(ケアマネジャー)など、他職種との連携が欠かせません。必要な情報を適切に共有し、スムーズに連携していくためにも、コミュニケーション力や言語化能力、医療DXに関わるデジタルスキルなどの向上に取り組みましょう。

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診療報酬改定の内容を理解し、質の高いケアを提供しよう

超高齢社会を迎えたわが国では、医療・介護サービスの需要が急増し、限られた医療資源や人材を上手に活用するための取り組みが求められています。

そうした社会状況を踏まえるなら、2年に一度の診療報酬改定による業務内容の変化は避けられず、現場で対応に追われることがあるかもしれません。しかし、制度の改定は、質の高い医療サービスの提供や、医療従事者にとって働きやすい仕組みを実現するのに欠かせないものです。

今後もますます訪問看護におけるリハビリテーションの重要性は高まり、求められる役割も変わると予想されます。そうした変化に対応するためにも、日々専門性を磨いて、スキルアップしていくことが大切です。

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著者プロフィール

安部 直子

看護師資格保有・医療ライター

新見女子短期大学(現・新見公立大学)看護学科を卒業後、大学病院で働きながら通信制を利用して看護学学士を取得。民間病院でも勤務し、2022年よりフリーライターとしての活動を開始。病棟・外来・救急など25年間の看護師経験を生かし、「ことばで寄り添う医療ライター」として、幅広い層に役立つ情報を発信している。

監修者プロフィール

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