褥瘡(床ずれ)予防のための栄養管理~亜鉛で症状の改善を~
公開日:2021.04.21
文:篠塚 明日香
(管理栄養士・分子栄養学カウンセラー)
高齢者など、介護を要する人が寝たきりになり寝返りがうまくできなくなると、褥瘡のリスクが高まります。
既に褥瘡ができてしまった場合は、清潔にする、軟膏を使うといった「体の外から」のアプローチも大切ですが、それだけではよくならないケースもあるでしょう。
よくならない原因のひとつに「皮膚の再生に必要な栄養素が不足している」ということが考えられます。「体のなかから」のアプローチには「亜鉛の積極的な摂取」がおすすめです。
この記事では亜鉛が褥瘡に効果的な理由と、食事で亜鉛を摂るポイントを解説します。
褥瘡予防のために栄養管理を。身体の中からできるアプローチ
褥瘡とは、皮膚の圧迫により血流が悪くなったり、摩擦によって皮膚が弱くなることなどがきっかけで赤くただれたりする、または、傷ができて壊死してしまった状態を指します。
褥瘡が簡単に治らない原因としては次の2点が挙げられます。
②患部に細菌が感染してもその細菌を排除できないこと
こまめな体位交換をして圧迫を取り除く、患部を清潔に保つといったことをしてもなかなか治らないという悩みを、セラピストや介護者のみなさんは感じているのではないでしょうか。
適切な対応をしているのにも関わらず「褥瘡が治りにくい」「褥瘡をすぐに繰り返してしまう」。その理由のひとつとして考えられるのは、栄養不足です。
傷ついてしまった皮膚の修復には、たんぱく質や亜鉛などが必要なのですが、これらはどちらも高齢者が不足しがちな栄養素となります。
とくに亜鉛は皮膚の再生にとって重要なものとされており、その特性を利用したのが「亜鉛華軟膏」です。亜鉛華軟膏は褥瘡だけでなく、外傷や火傷、皮膚炎など様々な皮膚トラブルに使われています。
栄養素「亜鉛」の働きと高齢者に不足しがちな理由
では、なぜ褥瘡の改善に亜鉛が有効なのでしょうか? 少し、亜鉛の働きを解説します。
たとえば舌には味を感じる細胞がありますが、比較的短い周期で新陳代謝するため、亜鉛不足による味覚障害を起こしやすいとされています。
他にも傷の治りが遅くなったり、脱毛症状が出たりすることも。また、免疫細胞の増殖にも亜鉛が必要ですので、不足すれば免疫力低下を起こし感染症にかかりやすくなります。
高齢者に亜鉛が不足するふたつの原因
次に、高齢者はどうして亜鉛が不足してしまうのかということを見ていきましょう。高齢者で考えられる要因はふたつあります。
ひとつ目は、食欲と消化力の低下です。亜鉛は肉や魚、貝類などの動物性食品に多く含まれるのですが、加齢によって食欲が低下していると、どうしてもこれらの食品を十分に摂取できなくなります。
また、亜鉛を吸収するためには胃酸の助けが必要ですが、加齢とともに胃腸機能が低下して胃酸の量が減少してしまうため、亜鉛の吸収も低下すると考えられます。
ふたつ目は、服薬による影響。降圧剤や利尿剤、糖尿病の薬のなかには、亜鉛を吸着して排泄してしまうものがあります。食事量も少なく消化力が低下しているところにこれらの服薬が長期間にわたり行われれば、亜鉛が不足することは容易に想像できます。
褥瘡予防・改善における食事のポイント
亜鉛が多い食品には次の7つが挙げられます。
・牛肉
・牡蠣
・スルメイカ
・チーズ
・高野豆腐
・納豆
・アマランサス など
まだ自分の力で食事がきちんととれるのであれは、こういった食材をこまめに食べることをおすすめします。
しかし、食欲が低下してしまっている場合も多いでしょうから、そのような場合は「煮干し粉」や「あご粉」がおすすめ。魚を丸ごと粉状にしてあるので、亜鉛だけでなくたんぱく質や鉄などのミネラルも摂取できる優れものです。
お味噌汁やスープ、お粥などに少し足すだけでいいので簡単です。大さじ1杯の煮干し粉で、卵1個分と同量のたんぱく質をとることができます。
魚そのものを食べるのは時間も咀嚼力も必要ですが、粉状ならそういった負担も少なく済みます。調理の手間も省けるので、介護する側にも使いやすい食材といえるでしょう。
汁物を食べるのが難しいときは、市販の補助食品を活用しよう
しかし、それも難しいくらい食欲が低下している場合は、市販の補助食品を利用するといいと思います。亜鉛やたんぱく質を強化した食べやすいゼリーなどが売られていますので、10時や15時の間食に取り入れてみてはどうでしょうか。
もしも亜鉛の吸収を阻害する薬を飲んでいる場合は、食事の時間と補助食品の摂取時間をずらすことで、亜鉛の吸収をよくすることが可能です。
栄養状態というのは、ある日、突然悪くなるものではなく、少しずつじわじわと低下していきます。褥瘡に限らず、疾病すべてにいえることですが、発症する前に低栄養を予防することがとても大切です。元気がない、笑顔が減ったなどのサインを見逃さずに、事前のケアをしていきたいですね。
それから、亜鉛不足は血液検査の血中濃度から推測することが可能です。高齢者における褥瘡予防の観点からも、医師に相談して調べてもらうといいでしょう。
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管理栄養士・分子栄養学カウンセラー
1977年、茨城県に生まれる。管理栄養士、分子栄養学カウンセラー。東京家政大学短期学部栄養科卒業後、老人介護保健施設での給食管理の実務を経て管理栄養士となる。現在は、フリーランスとして分子栄養学のセミナー開催やエステサロンでのダイエット指導、企業商品の考案などにも携わる。
所属:合同会社スリップストリーム
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