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介助によって機能を維持することが可能
~福辺流介助術

公開日:2020.03.09 更新日:2023.03.14


文:福辺 節子
理学療法士/医科学修士/介護支援専門員

前回は「全ての介助者が使用できる介助術」についてのお話をしました。今回は、「介助によって機能を維持することが可能」をテーマにした介助術をご紹介します。
 

1.生活の中の動きは常に本番。介助の質も量も満たしてくれる

例えば、車いすで施設に入所して生活をしている人がいるとします。その人は、1日に何回程度立ったり座ったりする動作を行うでしょうか? 食事、トイレ、入浴、整容、レクリエーション、行事など、施設の入所者なら1日に20回前後は行っているはずです。
それに対して、老人保健施設や訪問リハで、対象者が理学療法士とともに行う立ち上がり練習は週に10~20回といったところでしょうか。言うまでもなく生活の中での立ち上がりの機会のほうが、理学療法士との練習よりもはるかに回数が多いのです。
また、同じ“立ち上がり”をしていても質が違います。機能訓練室で行う練習での“立ち上がり”は、専門性は高いかもしれませんが、いわば疑似体験です。生活の中での動きというのは、“その人のADL(日常生活動作)の目的”そのものになります。介助の質においても、量においても、対象者の日々のADL、家族や看護、介護のスタッフが日々行っている介助は大きな意味があるのです。
 

2.生活に訓練を持ち込まない

ただ、日常の生活の中での動きに意味があるからといって、日常生活を機能訓練にするという意味ではありません。
「生活リハビリテーション」という言葉を作ったのは、三好春樹さんという理学療法士。「生活リハ」という言葉は、現在では市民権を得ていますが、ときどき三好さんの元々の意図とは異なって使われているように感じることがあります。
「生活リハ」は「日常生活の中に機能訓練を取り入れよう」という意味ではないので、生活を機能訓練の手段にするのは間違いです。機能訓練は「手段」であって「目的」ではないからです。
対象者が立ち上がるのは、立ち上がってベッドから車いすに移乗するためです。車いすに移乗するのは、食事やトイレに行くためです。決して訓練のためではありません。
日常生活を対象者の可能な限り、思う通りに、その人のやり方で自由に過ごしてもらうことが重要で、それは運動能力だけではない被介助者の最大限の能力を使ってもらうことによって可能となります。機能訓練を目的に、ADLを行うのは主客転倒です。

日々の生活の場面で、対象者に「〇〇さん、これもリハビリだから頑張ってね」と言ったり、ましてや「立たないと、何もできなくなるよ」などと脅迫したりしてはいけません。周りの介護や看護スタッフ、ご家族が対象者に対して使っていないか、注意をしてください。
介助(介護・医療)の目的は、利用者や患者の思いを叶えることであり、対象者にその人らしい生き方、人生を最後までおくってもらうことであるはずです。
 

3.介助の重要性

介助が適切であれば、対象者の機能を維持していくことはさほど難しいことではありません。機能を上げることも可能です。
維持期の対象者の改善は困難とされていますが、“できるADL”までの改善は適切な介助の提供によって比較的容易にできます。その変化は、「対象者ができないことができるようになった」のではなく、「これまで使われていなかった能力を介助によって引き出した」からです。また、これまで加齢や症状の進行で仕方がないとされてきた機能低下も防ぐことができます。
反対にその介助が不適切なものであれば、対象者の機能はあっという間に落ちていきます。それほど、毎日の生活での動きは被介助者の機能を維持、改善していくのです。つまり、日常生活での一回一回の介助をもっと意識することが必要です。
「この介助の一回一回が繋がって、この人の機能が維持されていく」、そう思いながら日々の介助に取り組むスタッフがいれば、お年寄りはもっと生き生きし、スタッフもやりがいを感じることができるでしょう。
毎回の介助やセラピーは、ケアプランやリハ計画、介護計画に沿って施行するのはもちろんですが、それよりももう少し高次の、介護やリハの目的、対象者の生活や人生の目的までを思い描きながら介助を行うことが重要です。そうすればケアの軸はぶれず、毎回の変化をきちっと出せるようになるでしょう。

とはいえ、対象者に良い方向への変化がなければ、ケアをする側のモチベーションは維持ができません。変化があっても、その変化に気づくアセスメント能力がなければ、同様です。周りのスタッフに適切な介助をしてほしければ、セラピストはスタッフに、自分たちの介助で対象者が変化することと、それに気づくことを伝えなければならないのです。
 

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福辺 節子

福辺 節子 (ふくべ せつこ)

理学療法士・医科学修士・介護支援専門員
一般社会法人白新会 Natural being代表理事
新潟医療福祉大学 非常勤講師
八尾市立障害者総合福祉センター 理事
厚生労働省老健局 参与(介護ロボット開発・普及担当)
一般社団法人 ヘルスケア人材教育協会 理事

大学在学中に事故により左下肢を切断、義足となる。その後、理学療法士の資格を取り、92年よりフリーの理学療法士として地域リハ活動をスタート。「障がいのために訓練や介助がやりにくいと思ったことは一度もない。介護に力は必要ない」が持論。現在、看護・介護・医療職などの専門職に加え、家族など一般の人も対象とした「もう一歩踏み出すための介助セミナー」を各地で開催。講習会・講演会のほか、施設や家庭での介助・リハビリテーション指導も行っている。

<著書>
イラスト・写真でよくわかる 力の要らない介助術/ナツメ社(2020)
生きる力を引き出す!福辺流 奇跡の介助/海竜社(2020)
マンガでわかる 無理をしない介護/誠文堂新光社(2019)
福辺流力と意欲を引き出す介助術/中央法規出版(2017)

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