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在宅リハビリテーションでセラピストが求められるもの~Tさんのケースを通じて(1)~

公開日:2021.01.14 更新日:2021.06.21

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文:福辺 節子
理学療法士/医科学修士/介護支援専門員

新型コロナで高齢者を取りまく環境が厳しくなった2020年3月ごろから、私のもとにはご家族からの相談が目立ち始めました。

  • □ 面会禁止の間にレベルが落ちて歩けなくなった
  • □ 久しぶりに会うと、家族の顔がわからなくなっていた
  • □ 車イスへの移乗が難しくなってオムツになっていた
  • □ 認知症状が進み、大きな声をあげて介護拒否が出現した
  • □ 嚥下ができなくなってミキサー食になった など

なかには入所中に面会できないまま、親御さんが亡くなられたご家族もいました。

「もう一度、立てるようになるだろうか。家に連れて帰りたいけれど、できるだろうか。自分はどうしたらいいのだろうか」

ご家族の悩みはつきません。そんな状況の中で、私たちはセラピストとして何ができるのでしょうか。

そこで今回から2回にわたって、私のもとに送られてきた手紙と実際の介護記録から、Tさん親子の感動的な成功体験をご紹介したいと思います。Tさん親子のケースは、これから在宅介護をされようとするご家族に大きな勇気を与えてくれるに違いありません。

そして、家で介護を受ける要介護者とその家族のために、セラピストが在宅で何をすべきか、ヒントをもらえるはずです。

 

Tさんからのお礼の手紙

2020年9月2日、私のもとにこんな手紙が届きました。

在宅リハビリテーションでセラピストが求められるもの ~Tさんのケースを通じて~在宅リハビリテーションでセラピストが求められるもの ~Tさんのケースを通じて~
※タップすると拡大できます

そこには寝たきり状態だった父親が、福辺流介助術で立ち上がることまでできるようなったことへのお礼がつづられていました。コロナ禍の2020年6月に心不全で入院したお父さまは、退院するときは寝たきりで気力も失った状態。

息子であるTさんは、あるきっかけで私の著作を読み、福辺流介助術を実践してくださったということでした。

Tさんからご提供いただいた実際の介護記録を引用しながら、在宅での介助のポイントを探っていきます。

 

Tさん親子のプロフィール

Tさん:介護者である66歳の男性。長男、自営業
Tさんのお父さん:93歳の男性。入院前から円背が強く1メートル歩行に10秒ほど要するも、基本的ADLはほぼ自立。

2020年6月18日 うっ血性心不全、心房粗動(頻脈)で、Y県立病院に入院。点滴と酸素吸入による治療を行う。新型コロナウイルスの影響で面会不可。

 

Tさんのお父さんの入院から退院まで

ここからは、Tさんの介護記録からの抜粋です。
入院中の状況や退院後の変化が詳細に記されています。

6月26日

リハ開始

7月3日

点滴外れ、食事開始

7月8日

介護認定審査で初めて父親と面会。 →介護度4の認定

7月10日

看護師より「ご飯を食べるときと歯を磨くとき以外はテレビも見ずにただ寝ているだけ。おしっこもうんちも教えないしおむつをしている状態。今のままで退院したら介護が大変。

病院に転院させてもう少しリハビリをしてから家に帰ったらどうか」とのアドバイスを受けるが、現在の状況を考えると反対に一日でも早く家に連れ帰らないと回復しない気がするので、できるだけ早い退院を要請しよう、と考える。

6畳間の床を畳からフローリングに替え、電動ベッドと車いすを設置。

7月19日

前日に腰を痛めて動けなくなったと連絡が入る。介護タクシーを使い、ストレッチャーにて退院。ケアマネージャー、ヘルパーよりオムツ交換や介護の方法の指導を受ける。介護技術のYouTubeを検索し学習する。

7月20日

オムツ交換をしようと親父を見たら、横向きで寝ていた。寝返り可能。これで褥瘡の心配も消えた。

7月21日

親父がひょんなことから曲げた左足を自力で持ち上げた。オムツ交換もスムーズにいくようになった。

この介護記録を見ると、Tさんが日常のさりげないお父さんの動きから適切な評価をされていること、その評価が客観的であることがわかります。また、少ない日数の間で介護技術を習得されたことや、お父さんの介護に対して全く嫌な感情を持っておられないことにも驚きます。

 

7月24日

朝から痛いを連発し、ご飯を食べるためにベッドを起こすのも少ししか起こせない。
そんなに痛いのなら自分でベッドの角度を調整しろとリモコンを渡すも、まるでやる気無し。

7月26日

相変わらず、ちょっと触っただけ位置を変えただけで痛い痛いを連発。すべてやってもらうのが当たり前になっており、やる気はほぼゼロ。

8月2日

昼食時に親父のベッドを起こすといつものようにアーアー、痛い痛いの連発。挙げ句の果てにまだ少ししか起こしていない状態で痛いからもういいと言い出す。

さすがに堪忍袋の緒が切れて、寝ながら食うことはできないから昼飯抜きと、親父の蕎麦を池に捨てる。1時半頃になって、腹が減ったからご飯を食べさせてくださいと嘆願された。冷やし中華をつくり、親父に持っていってベッドを起こしたら、うめきながらもちゃんと起きた。
少し、ボケが入ってきているのかもしれない……。

これほど客観的なTさんをしても、お父さんの介護は一筋縄ではいかないようです。家族介護の難しさは、介助技術等の習得よりも精神的なものが占める割合が大きいと思われます。また、家に帰られた当初は、ベッドのギャッジを起こし食事をされていたようです。
 
入院中、リハで車イスへの移乗はされていたとのことですが、起き上がりや端坐位の練習はなされたのか、どのような姿勢で食事を摂られていたか、退院に向けての家族への指導はなかったのか、といった点は気になるところです。
 
医療のリハスタッフとしては退院までに、寝返り、起き上がり、端坐位、移乗、イス(車イス)での食事摂取を積極的におこない、またそれらを家に帰った以降も継続できるよう、家族や在宅のスタッフに伝えることも重要な役割です。

 

在宅介護サービス利用開始とTさんの感じた違和感

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7月25日

主に入浴目的でデイサービス利用開始。機械浴、オムツ対応

8月8日

訪問看護開始。看護師による機能訓練。他人の評価があるのは助かる。何より、親父がやる気を出してくれたのが大きい。

運動メニューを作る。

少しずつだが親父との会話が戻りつつある。1カ月の入院は筋肉ばかりか精神的な退行も進み、ボケ症状が随所に見られたが、家での生活や日常は両方の回復を促進しているように見える。

年老いてからの入院は心身ともに致命的打撃を与えかねない。

8月に入り、週一で訪問看護が始まりました。身体的にも精神的にもお父さんの機能の改善とやる気が見られるようになったと思ったのもつかの間、中旬ごろに再びベッドを起こそうとしたら痛みで40度以上ベッドが起こせなくなります。
 
その頃のことをTさんは手紙の中でこう書いています。
 
こうしてあっという間に1カ月近く経ったのですが、やっている介護にどんどん違和感を覚えてきました。私がどんなにオシメ交換が上手くなっても、どんなに父の身体を動かすのが上手くなっても、またどんなに父に手足の運動をさせても、それが父の望む自力での起き上りや立ち上がりに繋がるとはとうてい思えなかったのです。
 
そこで自力での起き上りや立ち上がりに繋がる介護はないものかとインターネットで探し回ったら、【マイナビコメディカル】というホームページで福辺さんのコラムと出会いました。私の求めるものがあるような気がして、福辺さんの本『福辺流 力と意欲を引き出す介助術』『マンガでわかる 無理をしない介護』『イラスト・写真でよくわかる 力の要らない介助術』を買いました。読んだらまさに私が欲しいものがすべて載っていました。
 
多くの介護者や医療者がともすれば忘れがちである「ケアの第一の目標は、対象者本人の主訴、希望から導く」ということを、家族であるTさんが常に持ち続けておられるのは驚くべきことだと思います。
 
だからこそ、介助者が相手を動かす介助ではなく、被介助者が動く介助方法を探されたのでしょう。

 

福辺流介助術で起き上がり成功!達成感と意欲の大切さ

 

8月26日

昼前、親父がベッドの柵をつかみ必死に起き上がろうとしていた。なんとか起き上がりたいと言う。福辺さんの本を思い出し、先ず柵を外し、手をさしのべ支点をつくった。介助者はけっして相手を動かしてはならないとの原則を守り、ひたすら動かない支点に徹した。

その支点をとっかかりにして親父が自力でベッドの端に座ることができた。親父が感動のあまり泣いていた。つられてこちらも涙がこみ上げた。

福辺さんの介助方法のもっとも大きな特徴はこの達成感を得られることと心から納得した。もっともっと勉強して親父のやる気と力を引き出していかねば……。

私たちセラピストの仕事として一番大事なのは、対象者に成功感、達成感を感じてもらうことではないかと思います。そのためにも、正確な評価、適切なグレードの学習が提示できることは必須です。対象者が成功するということは、同時に介助者の成功でもあります。

 

100cm幅の介護ベッドに交換してできるようになったことは?

 

8月27日

寝返りの練習等、リハビリに必要不可欠なのでベッド幅91cmから100cmに交換してもらった。それに伴ってマットレスも硬めのものに交換してもらった。福祉用具のレンタル業者さんに聞いたら100cmの介護用ベッドの需要はほぼ無いとのことだった。

これも福辺節子さんの本に書いてあったので交換したのだが、実際寝てみてその違いに驚き、なんで需要が無いのか不思議でならなかった。

思うに91cm幅のベッドは介助される側にとっては不都合でも介助する側にとってはかなり楽だから(本当は介護者にとっても不都合)、91cm幅がほとんどなのだろう。

介助される側の希望など初めから有るはずが無いと決めつけ、あるいは聞いても無視されてきたのに違いない。

91cmより100cm幅のベッドのほうが使い易いことは、自分が寝てみればすぐにわかります。91cm幅のベッドの真ん中で寝返りをすると、手足がはみ出してしまうのです。寝ているポジションを自力で調節できない要介護者の場合、落下するかもしれない恐怖で、動く意欲が損なわれても不思議ではありません。
 
いつもセミナーで伝えるのは、介助者が実際に経験してみて欲しいということです。シーティングでは車イスに座る、ポジショニングではクッションを当てて寝てみる。介助では介助されてみる。
 
セラピストやケアマネージャーはベッドや車イスを選べるポジションにいます。ほんのちょっとのことで、利用者さんや家族の利益を守ることができます。

8月29日

朝食後、片付けをしていたら親父のうめき声。ひとりで身体を動かしているのだろうとそっと覗くと、ベッド端に座っていた。介助なしに座ることができたのだ。

その後、立ち上がりの練習。ベッド幅100cmと福辺さんのやり方が親父のやる気をいっそう引き出している。

8月30日

座るのもだいぶしっかりしてきてぐらつかなくなった。

わずかだが足踏みもできるようになった。車いすへの移乗もできるのではないかと思って試したら、少しずつ足を移動して介助有りながらも自力で歩いて移乗できた。

これを毎日やったら杖で歩くのも夢では無いかもしれない。

8月31日

日に日に意欲が増している。デイサービスに行く前に車いすに移乗し茶の間に連れてきた。とうとうここまで来れたと感慨深げだった。

9月1日

自力で起き上がり、介助バーと自分の膝に手を置いて自力で立ち上がった。完全な自力での立ち上がりは今日が初めてである。できることが日々更新されていく。

100cm幅の介護ベッドに交換してから、1日単位でTさんのお父さんができることが更新されていくのには驚きます。
 
実はすごいのは、お父さんのできることを確かめつつ、お父さんに成功課題を与え続けるTさんです。
介助者が被介助者を全介助で動かしてしまうのは、被介助者にとって成功体験ではありません。

 

QOLを高めるためにセラピストが知っておくべき大切なポイント

QOLを高めるためにセラピストが知っておくべき大切なポイント

9月8日

訪問看護師のAさんは、足を動かしたり、お尻を上げたりのリハビリをしてくれたが、お尻を上げるときの福辺さんのやり方を教えるとしきりに感心していた。

福辺さんの本を写真に撮っていたが買って勉強してくれたらいいと心から願った。福辺さんが講師に来てくれて介助の方法が一変し、介助レベルが上がればどんなにいいことか!

9月10日

車いすへの移乗の際、デイサービスの従来のやり方を思い出すのか一瞬躊躇するが、自分で立って歩くのだよと説明して怖い思いを払拭しながらやっている。

介助スタッフにも福辺さんのやり方を覚えてもらいたいのだが、なかなか難しい。

いくら訪問リハの間だけ対象者の機能がアップされても、生活が変わらなければ意味がありません。家族や介護・介助スタッフに介助を指導してセラピストと連携をとってもらうことは、セラピストが単独でセラピーをする以上に有効です。ADLはもちろん、対象者の意思や自立性が尊重される生活、すなわちQOLを高めていくために、非常に重要なポイントだと言えます。

9月12日

車いすへの動きを説明してから、片手は介助バーを持ってもらい、親父の脇の下を片手で軽く支え移乗を始めた。

親父は立ち上がって少しずつ足を動かし無事に車いすに移ることができた。車いすに座れたとき、またまた感動の涙を流していた。またまたこちらももらい泣き。介助、介護には感動がある。

9月14日

車いすの動かし方を教え、茶の間まで自力で動かす。茶の間に着いたとき、動くことが出来たとまたまた泣いていた。自分で出来ることが増えていくと自信とやる気が起きると言っていた。まさに尊厳の復活である。

9月15日

朝食前、親父がベッド端に座り、介助バーを持って自力で立ち上がろうとしていた。立ち上がる前の姿勢を教えてから離れて見ていたら見事に自力で立ち上がった。

9月17日

親父がベッドから車いすに介助なしに移乗した。すごい。

 


 

Tさんのお手紙と介護記録、いかがだったでしょうか。

家族とセラピストでは役割が当然異なりますが、今回のTさんのお父さんへのケアは私たちセラピストが学ぶものも非常に多いと思います。

8月26日からわずか20日間で、寝たきりで気力がないと思われていたお父さんが、自身で車イスに移乗するまでに変化します。いくらTさんのお父さんがそれだけの力を持っていても、適切なケアがなされなければ、お父さんは今でも寝たきりのままだったでしょう。

皆さんは、毎日の仕事の中で、正しい評価と判断に基づいた勇気のあるセラピーを提供できているでしょうか。ぜひもう一度見直してみていただきたいと思います。

続編(「尊厳」を回復する在宅リハビリテーションの実践方法~Tさんのケースを通じて(2)~)では、その後の介護記録を通して、福祉用具と介助、住環境についてお話します。

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