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第21回「尊厳」を回復する在宅リハビリテーションの実践方法~Tさんのケースを通じて(2)~

公開日:2021.02.18 更新日:2021.04.07

在宅リハビリテーションでセラピストが求められるもの

文:福辺 節子
理学療法士/医科学修士/介護支援専門員

前回(「在宅リハビリテーションでセラピストが求められるもの~Tさんのケースを通じて(1)~」)に続き、福辺式介助術を取り入れながら在宅介護生活を続けるTさん親子のエピソードをご紹介します。

息子であるTさんが試行錯誤しながらも適切なケアを行った結果、お父さんはみるみる機能を回復していきます。寝たきり状態で退院してからわずか20日ほどの間で「自分の力で車いすに移乗できるまでに回復された」のですから、まさに驚くべきことです。

Tさん親子が、不可能とも思える高い目標を次々と達成していくことができたのはなぜでしょうか。その答えはリハビリテーションの本質に立ち返ることで見えてくるかもしれません。

今回は、Tさんのお許しを得てその後の介護記録を紹介させていただきます。住環境、福祉用具選びなど、在宅リハビリテーションで役立つ実践的なヒントがたくさん詰まっています。

また、Tさんの取り組みから垣間見える真摯な思いに、セラピストにとって本当に大切なことを学べるはずです。

 

Tさん親子のプロフィール

Tさん:介護者である66歳の男性。長男、自営業
Tさんのお父さん:93歳の男性。入院前から円背が強く1メートル歩行に10秒ほど要するも、基本的ADLはほぼ自立。

2020年6月18日 うっ血性心不全、心房粗動(頻脈)で、Y県立病院に入院。点滴と酸素吸入による治療を行う。新型コロナウイルスの影響で面会不可。

 

オシメ外しに挑戦!トイレでの排泄は住環境も重要

ベッドから車いすに介助なしで移乗することができた数日後、Tさんは次のステップに進むことを決断します。

前回の記事(「在宅リハビリテーションでセラピストが求められるもの~Tさんのケースを通じて(1)~」はこちらから

▼9月21日

そろそろオシメを外す準備が出来そうなので、ポータブルトイレをベッド脇に置いた。

▼9月22日

車いすで通路に降りたり上ったりするのが一苦労だし、いつか腰を痛めたり、最悪の場合車いすを転倒させたりする恐れがあったので、コンパネとブロックを買ってきて昇降台をつくった。空の車いすで試したがかなり楽でかつ安全そうだ。

Tさんのお宅は、奥行き80mという縦に長い、店舗(酒店)と住居を兼ねた家屋です。真ん中に土間が走り、その両横に、片方が居間や寝室のスペース、もう一方が台所、トイレ、浴室があるスペースに分かれています。居間や寝室からトイレや浴室に行こうとすると、いったん土間に降りた後、向こう側に登らなければなりません。そこで、昇降台の作成や設置が必要というわけです。また、トイレに行くために毎回土間に降りるのは現実的ではないので、おむつを外した後はポータブルトイレでの排泄が第一選択になります。

驚かされるのは、Tさんの学習能力、理解力、行動力です。お父さんは心臓疾患があるので、訪問リハは行っておらず、訪問看護のみで看護師による簡単な機能訓練を実施しています。リハ職によるアドバイスがない状況で、私の本を参考にしながら様々な取り組みをされていますが、セラピストでさえなかなかすぐには実行に移せない改修や物作りなど、フットワークもとても軽いのです。

トイレでの排泄は案ずるより産むが易し?

▼9月26日

昼食後、親父にポータブルトイレへの移乗を持ちかけた。車いすからベッドに移り、さらにポータブルトイレに移る。ちょっとキツいかなとも思ったがすんなりと出来た。

親父に尿意や便意はあるか聞いたら、尿意はあるが大便が分からないとのことだった。大便が毎回少しずつ出ているところをみると括約筋が緩んでいるのだろう。

▼10月3日

親父に「おしっこが出るときはわかるか?」と聞いたら、「わかる」との答え。オシメを外す練習をするかどうか聞いたら「やる」との答え。

ポータブルトイレの使い方の説明を身振り手振りで教えると、自分でベッドからトイレに移乗してズボンを下ろして座ってしまった。せっかく座ったのでオシメを外し「おしっこが出るんだったらしてもいいよ」と言ったら「ウンチが出る」という。「いいよ」と言ったら気張って十数センチのバナナのようないいウンチを2本と少しのおしっこをした。

フライング気味ではあったがポータブルトイレデビュー大成功である。座ると腹圧が掛かり、以前は無いといっていたウンチが出る感覚が戻ったのかもしれない。この成功体験は大きい。

通常、オシメ外しは便から試します。便のほうが回数も少なく尿意よりも便意がわかる人のほうが多いからです。Tさんのお父さんは便のほうがわかりにくいとのことだったのですが、実際にやってみると、ポータブルに座った途端に便意が戻ったようです。

真のリハビリテーションとは?オシメ外しがもたらす効能

ポータブルトイレデビューに見事成功。その後のお父さんの変化を目の当たりにしたTさんは、ある考えに思い至ります。それは「リハビリテーションの本質」と言えるほど大事なことで、セラピストが取り組むべき課題でもありました。

▼10月4日

夜は心配だったのでオシメを着けて寝させた。

深夜12時頃、がたがたと音がする。ふと親父を見るとベッドから抜け出してポータブルトイレに座っていた。慌てて親父に駆け寄り、オシメを外した。オシメ外しは逆戻りはきかないのだと思い知った。

考えるまでもなくオシメでおしっこやウンチをするのはとんでもなく嫌なことだ。どうしてもオシメでせざるを得ない羽目に陥った場合、脳は感覚を消し自我をかろうじて守るのだという。

排泄の感覚が戻ったからには再びオシメに戻ることが出来ないのは当たり前のことなのだ。リハビリテーションとは尊厳の復活であるというのは真実なのだ。

本来のリハビリテーションとは何なのでしょうか。リハビリテーションを「その人らしさ、全人的復活、尊厳の復活」と定義するなら、オシメ外しはまさしくそのものであり、セラピストが取り組むべき大きな課題だと言えます(もちろん他職種との連携が必要です)。

多くのお年寄りや障害を持った人が、「排泄の感覚がない」という理由より、あるいは「歩けない・立てない」という理由でおむつにされています。しかし、寝返りや起き上がりを全介助にせず、本人の力を使いながら起きてくるように介助すれば、ほとんどの人は端坐位保持が可能になります。端坐位で足底が接地できていれば、ポータブルトイレへの移乗はそれほど難しいものではありません。

対象者の機能の向上、家族やスタッフへの介助の指導、福祉用具の選択、環境を整えるなど、セラピストの積極的な介入により、目標の達成はより現実に近づきます。

▼10月5日

朝、汚れた尿取りパットを入れてあるバケツを見たら寝る前に入れていた一個だけしか入っていない。「全然失敗しなかったのか」と聞いたら「そうだ」という。

寝ているとき、何度かポータブルトイレに座っているのを見たがひとりで出来るだろうと手を貸さなかった。完全に尿意、便意ともに戻って、ポータブルトイレの使い方も覚えたので失敗しなかったのだろう。

デイサービスから帰ってきた親父はちょっと自信を失っていた。トイレに向かうのに時間がかかり、連れて行ってもらう途中で漏らしてしまったのだという。これが介護施設の現実なのだろう。利用者の尊厳のことなど思いもつかないのだろう。

帰ってきてからはポータブルトイレで問題なく用を足していた。

▼10月6日

親父が今朝からブリーフになった。オシメ卒業である。朝食時、親父にオシメじゃなくブリーフを履いた気分を聞くと、「気持ちがいい」とにっこりしていた。

本人の主訴から目標設定すると「何をすべきか」がわかる

▼10月8日

朝、デイサービスの風呂の話になった。機械式の風呂で横になって入れられるんだそうだ。「家の風呂で肩までゆっくりつかれたらいいね」と言ったらにっこりとうなずいていた。

今はやりのバリアフリーとは真逆の昔の作りのままのバリアだらけの家で、どうやったら父を風呂に入れてあげることが出来るか、頭の中でいろいろとシミュレーションをしてみた。少しの工夫と少しの歩行でなんとかなりそうな感じだ。

車いすに移乗する様子を見ていたらもう歩けるんじゃないかと思い、試しに前方から両肘を支えて試してみた。1メートルほど歩いてバックして車いすに。足の運びも出来、練習すればベッドから茶の間までならそんなに日数もかからず歩けるようになりそうだ。

念願の家の風呂に入れそうだ。(^^)

入浴目的でデイサービスを利用する家族が多いなかで、Tさんは家での入浴に挑戦します。ここでもTさんのアセスメント能力に感心させられます。

Tさんのアセスメントは、ボトムアップではなくトップダウンです。「〇〇ができない。〇〇ができる。だから目標はこれ」という考え方ではありません。「家でお風呂に入りたい」というお父さんの主訴から、「風呂に入る」という目標と、「数メートルの歩行と環境の整備」という短期(通常なら中期?)目標が設定されているのです。

また、あとから出てくる写真を見るとわかりますが、Tさんの家の浴室の構造をよく観察すれば、お父さんの能力なら大きな改修をせずに浴槽に入ることが可能であることがわかります。だからこそ、少しの工夫でなんとかなりそうだというTさんの考察になるのです。

▼10月12日

デイサービスに行くまでに時間があったので歩行練習をした。足の運び、方向転換して椅子に座るなど、前回よりもだいぶしっかりしてきた。

▼10月15日

長さを調節した杖を渡し、脇を支える介助で歩いてもらう。思った通り、約4メートルを歩ききった。この様子だともうしばらく練習すれば一人で杖を使って歩けるようになるだろう。

▼10月16日

脇を支えていたが、昨日と違ってほとんど手に重さが掛からない。

車いすから2メートルほど離れたところに椅子を置き、「ここまで杖をついて一人で歩いてみないか」と誘った。親父は杖をついて車いすから立ち上がり一歩一歩慎重に歩き始め、見事に椅子まで歩ききった。ふうっと一息ついて、今度は椅子から車いすまで杖をついて戻った。退院後、初めて一人で歩いた。ほんとうにすごい!

椅子から立ち上がって歩くお父さん

Tさん父子の展開の早さは、Tさんのアセスメントの細かさと正確さによるものだと言えます。

また、杖歩行では介助の方法だけでなく、杖の高さや持ち方、順序などももちろん重要なのですが、在宅でも施設でも正しく指導できているところは非常に少ないのが現状です。なかにはセラピストが入っている施設でも、誤った杖歩行の対象者がいる場合があります。

杖の使い方は歩行能力だけでなく転倒や変形、疼痛などのリスクにも直接つながるので、本人にはもちろん介護職、看護職、家族にもしっかり伝えていただきたいところです。

ついに家風呂デビュー成功!

念願の「家のお風呂」に入ったお父さん

▼10月23日

「家のお風呂に入る」計画を実行した。

脱衣場で椅子に座って服を脱ぐことから始まって、洗い場のシャワーチェアに座り、湯を掛け、お尻をずらして浴槽の縁に移り風呂に入る動作までやってみせて、風呂に入る流れを覚えてもらった。

その後、指示だけで一切手出しはしないで、親父を見守った。何度かはらはらする場面があったがじっと我慢。やっと一人で湯船に浸かった親父は感無量で「風呂に入れた~。ありがとう」といってくれた。ちょっと目頭が熱くなった。「俺の家の風呂だもんなぁ……。何ヶ月振りだろう」などとしみじみと言いながら満足のいくまでゆっくりと温まっていた。

退院後の風呂デビュー、大成功。

TさんとTさんのお父さんの素晴らしい実戦報告を通じて

以上、2回にわたり、TさんとTさんのお父さんの素晴らしい実戦報告を見てきました。

Tさんほどではなくても、家族や一般の方にもう少しだけ介護・看護・リハビリテーションの正しい知識があれば、お年寄りや障がいを持っている方、難病の方々の中で、在宅で過ごせる人が増えるだろうと思います。

在宅や施設でのセラピストの役割は、直接対象者さんをセラピーするだけでなく、介護職・看護職・家族に働きかけることによって、より大きな結果を、そして本人や周囲の人々の尊厳、満足、幸福を引き出しことができるのではないでしょうか。

私にとっては、これまでやってきた「対象者に動いてもらう、対象者の能力と意欲を引き出す介助」の方向性が間違っていなかったことを、改めて実感させていただいた貴重なケースになりました。高齢者の増加に伴って介護人材や資源の不足が深刻になる今後は、その必要性がいっそう高まっていくかもしれません。

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福辺 節子

福辺 節子 (ふくべ せつこ)

理学療法士・医科学修士・介護支援専門員
一般社会法人白新会 Natural being代表理事
新潟医療福祉大学 非常勤講師
八尾市立障害者総合福祉センター 理事
厚生労働省老健局 参与(介護ロボット開発・普及担当)
一般社団法人 ヘルスケア人材教育協会 理事

大学在学中に事故により左下肢を切断、義足となる。その後、理学療法士の資格を取り、92年よりフリーの理学療法士として地域リハ活動をスタート。「障がいのために訓練や介助がやりにくいと思ったことは一度もない。介護に力は必要ない」が持論。現在、看護・介護・医療職などの専門職に加え、家族など一般の人も対象とした「もう一歩踏み出すための介助セミナー」を各地で開催。講習会・講演会のほか、施設や家庭での介助・リハビリテーション指導も行っている。

<著書>
イラスト・写真でよくわかる 力の要らない介助術/ナツメ社(2020)
生きる力を引き出す!福辺流 奇跡の介助/海竜社(2020)
マンガでわかる 無理をしない介護/誠文堂新光社(2019)
福辺流力と意欲を引き出す介助術/中央法規出版(2017)


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