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第68回理学療法における全身持久性の評価について

公開日:2022.09.08

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文:臼田 滋(理学療法士)
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授

「全身持久性」とは?

体力にはさまざまな要素が含まれますが、健康的な生活を送るための、身体的要素に含まれる重要な機能が「全身持久性」です。どのような生活や活動を行うためにも重要であり、疾患や状態によっては、将来の死亡率や予後などとの関連性も数多く報告されています。

全身持久性は、「全身持久力」ともいいます。わかりやすくいうと、長い時間、立ち仕事を続けられるとか、長い距離を歩けるとか、一定の強度の運動を長時間継続できる能力です。より専門的には、「運動耐容能」や「有酸素運動能力」ともいいます。

「体力」は身体的要素と精神的要素の2種類

体力(表1)は、身体的要素と精神的要素に分けられます。それぞれ、行動を起こすことに関係する「行動体力」と、さまざまなストレスに対する抵抗力である「防衛体力」があり、全身持久性は、身体的要素の行動体力の機能に含まれます。

最近では、運動不足によって生じる生活習慣病の患者が増加し、生活習慣病の予防や治療のために運動が重視されてきていることもあり、健康の維持増進に関連する体力という意味で、健康関連体力と呼ばれています。健康関連体力には、心肺持久力、筋力・筋持久力、柔軟性、身体組成が含まれます。

表1 体力とは
表1 体力とは

運動するために必要な3つのエネルギー源

運動をするためには筋を収縮させる必要があり、運動を継続する際には、筋の収縮と弛緩を繰り返す必要があります。この収縮と弛緩の繰り返しにはエネルギーが必要です。
このエネルギーには3つの供給源(表2)があり、短時間で瞬発的な運動から長時間の運動まで、用いるエネルギー源が異なります。長時間の運動には、酸素を必要とする「有酸素系」が主なエネルギー源です。

表2 3つのエネルギー供給源
表2 3つのエネルギー供給源

全身持久力の測定方法

全身持久性の測定には、いろいろな方法がありますが、主なものとして、最大酸素摂取量の測定(心肺運動負荷試験:cardiopulmonary exercise testing, CPX)とフィールドテストが挙げられます。

CPXは、トレッドミルや自転車エルゴメーターなどを用いて、呼気ガス分析装置で酸素摂取量を測定。徐々に運動強度を増加させながら運動を継続して、心拍数が最大となった時点での酸素摂取量を測定します。

フィールドテストには、12分間走や、12分間歩行テスト、6分間歩行テスト、シャトルウォーキングテストなどがあります。シャトルウォーキングテストは、10mの歩行路の往復歩行を継続します。徐々に歩行速度を速くし、その歩行速度の増加に従えなくなった時点までの歩行距離を測定します。

《問題》75 歳の男性。肺がん根治術後。退院時の全身持久性の評価として適切なのはどれか。

【理学療法士】第56回 午前6
75 歳の男性。肺がん根治術後。
退院時の全身持久性の評価として適切なのはどれか。

<選択肢>

  1. 1.片脚立位時間
  2. 2.6分間歩行テスト
  3. 3.10 m 最大歩行速度
  4. 4.five times sit to stand test
  5. 5.Timed Up and Go Test

解答と解説

正解:2

全身持久性に関する検査は「6分間歩行テスト」のみで、それ以外はバランスの検査や歩行速度、下肢機能を測定するものなどです。
以下に詳しく解説していきます。

(1)症例について
肺がんは肺に発生する上皮細胞由来の悪性腫瘍です。早期に発見されれば、手術や放射線治療で多くが治療することができます。
血痰、激しい咳、喘鳴、胸痛、息切れ、食欲不振、体重減少などが一般的な症状ですが、進行するまで無症状な場合も少なくありません。

肺がんの組織は、小細胞肺がんと非小細胞肺がんに大別され、後者は、さらに、肺扁平上皮がん、肺腺がん、肺大細胞がんに分類されます(表3)。
治療は、がん組織の切除である手術、化学療法、放射線治療が一般的で、組織の種類、進行度・病期、転移の有無などによって、最適な治療が選択されます。

根治術は、肺葉切除とリンパ節郭清が標準的です。肺葉切除はがんのある肺葉を全部切除する手術であり、1ヶ所の肺葉の切除のみであれば、他の残存する肺葉が呼吸機能を補うため、それほど大きな支障はありません。しかし、個人により、切除される肺葉の範囲などにより、術後に呼吸機能が低下することも多く、動作や運動の継続により息切れが生じ、長時間の運動が困難となります。術後の呼吸リハビリテーションにより、少なくとも日常生活で支障のない程度の呼吸機能は回復することが多いです。

表3 肺がんの組織の種類
表3 肺がんの組織の種類

(2)評価に用いられる検査方法
選択肢にある検査について、それぞれ解説します。

1.片脚立位時間
片脚での立位を保てる時間を測定するバランスの検査です。目を閉じて測定する閉眼片脚立位と、目を開けて測定する開眼片脚立位の検査があります。
両手を腰にあてて、片方の足を持ち上げて、他の足に巻き付けたりせずに空間に保ちます。立ち始めから時間を測定し、上げている足が床についたときや反対の足に触れたとき、腰に置いた手が離れたとき、支えている足がずれたときに測定を終了し、その時間を記録します。

2. 6分間歩行テスト
6分間に歩行できる距離を測定する、全身持久性の検査です。30mの平坦な直線コースの歩行路を折り返して使用します。6分間にできるだけ長い距離を歩くように指示し、6分間のテスト中に休憩は許可されます。検査者は付き添ってあるかずに、声掛けは1分ごとに行います。酸素療法や歩行補助具は普段通りの使用が許可されます。テストの前後には、脈拍数や経皮的動脈血酸素飽和度などを測定します。

3.10 m 最大歩行速度
10mをできるだけ速く歩いた際の時間と歩数を測定し、歩行速度、歩幅、歩行率などを計算します。
歩行路は10mと、その前後3mに助走路を設けます。3m手前から歩き始めて、10m歩行し、10mの線で停止せずに、そのまま3m先の目標まで歩行します。最速での測定以外に、快適歩行速度で測定することもあります。

4. five times sit to stand test
5回の立ち上がりに要する時間を測定する、筋力などの下肢機能の検査です。
座面の高さが約40cmの椅子に腰掛けた姿勢から、両腕を胸の前で組んだ状態で、できるだけ速く、立ち上がりと着座を繰り返します。5回の立ち上がりが完了し、着座するまでの時間を計測します。

5.Timed Up and Go Test
立ち上がり、歩行、方向転換、着座などを含む時間を測定する、バランスの検査です。
座面の高さ約40cmの肘掛け付き椅子に腰掛けた姿勢から、立ち上がり、3m先のコーンまで歩行して、方向転換し、また椅子に戻って、腰掛けるまでの時間を測定します。
通常は快適速度で実施することが多いですが、最速での測定も行うことがあります。

「6分間歩行テスト」の実施について

全身持久性の指標は、もともと1970年頃から12分間走や12分間歩行が使用されていました。1980年頃からは6分間歩行テストが報告されるようになり、最近では2分間歩行試験も報告されています。

現在実施されている6分間歩行テストは、米国胸部医学会が2002年に発表したガイドライン(Leung AS, Chan KK, Sykes K, et al.: Reliability, validity, and responsiveness of a 2-min walk test to assess exercise capacity of COPD patients. Chest 130: 119-125, 2006.)に基づいて測定されています。

6分間歩行テストでは、6分間歩行距離(6-min walk distance; 6MWD)を測定しますが、これに加えて、脈拍数、呼吸困難、疲労感、経皮的動脈血中酸素飽和度なども評価されます。
6MWDの予測式も多くの報告があり、予測値や標準値と比較されることも多いです。

日本人を対象とした標準値は、文部科学省の「体力・運動能力調査報告」(表4:文部科学省:体力・運動能力調査,調査の結果より)で報告されています。

表4 日本人を対象とした年齢別の標準値の例
表4 日本人を対象とした年齢別の標準値の例

6MWDの臨床的な意義も多く報告されています。6MWDは身体活動と中等度以上の相関があり、6MWDが低いと死亡率が高く、予後が不良とされています。内部障害の患者だけでなく、地域在住高齢者や脳卒中患者など、さまざまな対象について報告されています。
6分間歩行テストは、比較的短時間に、簡便に測定することができ、測定に関係した合併症の報告は極めてまれであり、安全に測定できる検査だといえるでしょう。

臼田 滋

臼田 滋

群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
群馬県理学療法士協会理事
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。


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