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高次脳機能障害で起きる「注意障害」への対応

公開日:2022.10.31 更新日:2022.11.01

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文:近藤 晴彦
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長

本記事の概要

今回取り上げる過去問のテーマは「注意障害」です。
注意障害は、脳血管障害の患者さんに高頻度に出現する症状であり、日常の言語聴覚士の臨床で対応する場面も多くあります。
注意障害に対し、実際の言語聴覚士の臨床ではどのように評価・介入していくのか、紹介していきます。

《問題》「何歳ですか?」と聞かれて「えっ?」と答えた。要因として考えられる神経心理学的症状はどれか。

【言語聴覚士】第21回59問
「何歳ですか?」と聞かれて「えっ?」と答えた。要因として考えられる神経心理学的症状はどれか。

<選択肢>

  • a. 健忘
  • b. 喚語障害
  • c. 統語理解障害
  • d. 語音認知障害
  • e. 注意障害
  1. 1. a,b
  2. 2. a,e
  3. 3. b,c
  4. 4. c,d
  5. 5. d,e

解答と解説

正解:5

音声を言語的な既知の音韻として同定することを語音認知といいます。語音認知に障害を認めると、語として認知することができず、意味を理解することが困難になります。また、注意障害を認めると、刺激に意識を向け続けることや、複数の刺激の中から特定の対象を選択して注意を向けることが困難になります。これにより、コミュニケーション場面において設問のような聞き返しを認めることがあります。したがって、正解は〈5〉になります。

ちなみに、この場面で臨床的に最も考えられる症状は「難聴」です。難聴は神経心理学的症状には該当しませんが、コミュニケーションに著しい影響を与えるため、評価しておくことが必要です。ご高齢の失語症者の聴覚的理解障害について、難聴と失語症による聴覚的理解障害を鑑別することは容易ではありません。(こちらの記事を参照:https://co-medical.mynavi.jp/contents/therapistplus/career/drill/1848/)
そのため、失語症の報告書を作成する際には、「聞く側面」に「著しい難聴は認めない」の一文を添えておくことが必要です。

実務での活かし方~注意障害への対応~

それでは、実際の臨床では「注意障害」について、どのように考え対応していくのか、解説していきましょう。

(1)注意障害の症状
まずは、注意障害の症状について押さえていきましょう。注意機能は、持続性注意、選択性注意、分配性注意、転換性注意に大別されます。

持続性注意 注意を持続させる能力
選択性注意 複数の刺激の中から目標とする刺激を選択して注意を向ける
分配性注意 複数の作業を同時におこなう場合に、最適な注意の配分を采配する能力
転換性注意 状況に応じて注意を別の対象に切り換える力

(2)注意障害の評価と介入
それでは、実際の臨床では注意障害に対しどのように介入にしていくのでしょうか。
評価と介入について解説していきます。

1)評価
・机上検査
注意障害に対する標準化された包括的な検査方法として、標準注意検査法(CAT:Clinical Assessment for Attention)があります。CATは、視覚性と聴覚性の課題から構成され、主に持続性注意、選択性注意を評価することができます。

・行動評価
注意障害はその症状の特性から日常生活上の活動に影響を及ぼすことがあります。具体的には、不注意により物品を落としてしまうことや、歩行練習中に話に夢中になり障害物にぶつかってしまうことなどが挙げられます。また、会話場面では国試の設問のような聞き返しや、複雑な指示の理解が困難になることもあります。
したがって、日常生活でのトラブルに発展することもあり、病棟スタッフなどの関連職種やご家族から情報収集をおこなうことも重要な評価の視点になります。

2)介入
注意障害への介入として、机上課題や日常生活への介入をおこないます。机上課題では、持続性注意の障害に対しては、CATのVisual Cancellation Task(視覚性抹消検査)のように、符号を時間内に抹消していく課題などを実施します。また、二重課題(DT:Dual Task)と呼ばれる、要求される2つの課題を同時にこなすテストを実施します。具体的には、歩行時に計算をする、足踏みをしながら手拍子をすることなどが挙げられます。
日常生活への介入としては、誤りが出現しないようご本人やご家族と注意点を共有することや、環境調整をおこないます。

まとめ

注意障害について、実際の臨床場面での評価や介入を中心に解説しました。注意障害は、症状の特徴上、日常生活上のトラブルにつながることがあるため、机上での介入だけでなく関連職種と連携し、日常生活への介入をおこなっていくことが重要です。

[出典・参照]
藤田郁代ら.標準言語聴覚障害学 高次脳機能障害学 第3版.医学書院,2021
加藤 元一郎ら. 標準注意検査法(CAT)と標準意欲評価法(CAS)の開発とその経過.高次脳機能研究 2006;26(3)

近藤 晴彦

近藤 晴彦(こんどう はるひこ)

東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
国際医療福祉大学大学院 修士課程修了。
回復期リハビリテーション病院に勤務する言語聴覚士。
東京都言語聴覚士会ロゴ 東京都言語聴覚士会
http://st-toshikai.org/
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。

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