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第80回脳卒中に伴う「失行」の評価と介入のポイント

公開日:2022.12.23 更新日:2022.12.28

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文:臼田 滋(理学療法士)
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授

高次脳機能障害とは?

失行とは、高次脳機能障害のひとつで、脳卒中などの脳の損傷によって生じます。日常の物品等の使用が困難となることが多く、日常生活に支障をきたす症状ですが、症状そのものや原因などが理解しにくく、患者本人も含めて対応に苦慮することも多い症状です。

脳卒中や脳腫瘍、外傷性脳損傷などによる脳の損傷では、いわゆる麻痺と表現される運動機能や感覚機能などの身体的な障害を生じることが一般的ですが、それに加えて伴う神経心理学的障害が、高次脳機能障害です。

高次脳機能障害には、以下のようなものがあります。
・記憶障害
・注意障害
・失見当識
・失語
・失行
・失認
・遂行機能障害
・社会的行動障害

これらの障害は、身体の麻痺に比べると、その症状が理解しにくいため、対応に苦慮することも。経過も長期にわたることも場合もあり、患者の社会生活に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。

高次脳機能障害による「失行」とは?

2007年~2008年に福岡県で実施された、高次脳機能障害者の発症数に関する調査では、114名の解析対象患者(脳血管障害、外傷性脳損傷など)において、高次脳機能障害の主な症状は記憶障害(約90%)、注意障害(約70%)、遂行機能障害(約70%)、社会的行動障害(約60%)。その他の症状として、失認が14%、失語が10.5%であり、失行は7.9%の患者において認められています。(関連記事:蜂須賀研二:日本の高次脳機能障害者の発症数、高次脳機能研究、31(2)、143-150、2011

2015年に実施された高次脳機能障害全国実態調査(種村 純、他:高次脳機能障害全国実態調査報告、高次脳機能研究、36(4)、492-502、2016)では、約1000施設(医療機関と介護老人保健施設など)から回答があり、約65%の施設で、高次脳機能障害の検査・治療が実施されていました。高次脳機能障害の症状では、失語が最も多く、約90%の施設で患者を認め、注意障害と失認のひとつである半側空間無視がそれぞれ約80%、記憶障害と失行がそれぞれ約70%、遂行機能障害が約60%の順でした。このように失行は比較的多くの施設、患者で認める症状です。

失行は、Liepmann(1905)によって「運動性は保存されているのに目的に合わせて肢節を動かすことができない状態」と定義されています。つまり、運動が可能であるのに、合目的な運動ができない状態で、指示された運動が遂行できない、物品を誤って使用するなどの症状です。運動麻痺や不随意運動、失調などの運動の障害で説明できない場合を意味しますが、実際には、これらの運動の障害と失行を合併する場合もあります。

失行の種類とよくある現象

失行にはいろいろな種類があり、Liepmannが、最初に、観念失行、観念運動失行、肢節運動失行の3つに分類したため、これらを古典失行といい、最近では、着衣失行なども含まれます。

表1 失行の主な種類
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失行の場合には、いろいろな現象が日常で観察されます。

表2 日常で観察される主な現象
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失行が疑われる場合には、まずは日常生活の状況を観察します。特に食事動作、整容動作、排泄動作や、ハサミ・ペン・コップなど道具を使用する場面を観察します。できるだけ生活のリズムの中で、自然な流れでの観察が良いでしょう。
さらに、口頭指示、模倣(ジェスチャー)、道具の使用の指示、道具を直接使用せずに類似の動作の指示(パントマイム)などをおこない、反応の違いを確認します。
入院患者の場合には、いつもと異なる環境により不自然な動作となることも多いため、環境への適応状況も考慮して、評価を進めます。

理学療法士国家試験の過去問題では、次のような内容が取り上げられています。

《問題》くしを歯ブラシのように使おうとするなどする患者の症状はどれか

【理学療法士】第56回 午後19
74 歳の女性。6か月前に左被殻出血を発症して、軽度の右片麻痺を呈している。くしを歯ブラシのように使おうとしたり、スプーンの柄に食物を乗せようとする行動がみられた。この患者の症状はどれか。

<選択肢>

  1. 1. 観念失行
  2. 2. 構成失行
  3. 3. 着衣失行
  4. 4. 観念運動失行
  5. 5. 肢節運動失行

解答と解説

正解:1

各選択肢について解説します。

(1)観念失行
病巣は左頭頂後頭葉の左角回を中心とする領域で、症状は左右の手に同時に生じます。物品の使用が困難となることが特徴です。例えば、マッチとマッチ箱を使ってロウソクに火をつける動作が、正しい順序でおこなうことができません。あるいは紙を折って封筒にいれることがうまくできません。物品の名前や使用方法は説明できますが、うまく使用できないことが多いです。

(2)構成失行
病巣は頭頂葉で、左右いずれでも生じます。簡単な図・絵を模写できない、立体的な図を描けない、積み木を積めないなどの症状が特徴です。

(3)着衣失行
病巣は右頭頂葉です。衣服を正しく着ることができないことが特徴です。服の上下、前後などが分からなくなり、腕や頭を通すことができない、ボタンを留められないなどの症状を認めます。服の各部位と自分自身の身体の空間関係の認識が困難となっていると考えられます。身体失認、半側身体失認、構成失行などを合併していることも多いです。

(4)観念運動失行
病巣は左頭頂葉を中心に、左半球の広範囲の障害で生じます。ジェスチャーや道具の使用のパントマイムが困難となることが特徴です。模倣や実際の道具・物品を使用することで症状は軽減し、特に日常生活で自然に行った際には、あまり困らないことが多いです。

(5)肢節運動失行
病巣は左右の中心溝周辺であり、病巣の対側の上肢に症状を認めます。硬貨をつまむ、ボタンを留める、手袋をはめるなどの動作が拙劣になることが特徴で、自発動作、模倣動作、物品の使用のどの場合にもぎこちなくなります。運動麻痺による影響と臨床では区別が難しいことが多いです。

実務での活かし方

失行はいろいろな種類があり、症状も複雑で、その現象を理解しにくい面がありますが、同様に、介入についても難渋することが少なくありません。脳卒中の場合、症状としては一時的で、経過とともに軽快することもありますが、比較的長期間にわたって残存することもあり、症状によっては、日常生活に大きな支障をきたします。環境の調整や動作指示の仕方の工夫など、支援が特殊であることもありますが、患者本人も適切な対応が分からないことも多いです。

介入の一般的な方法には、
・過剰な動作を抑制するように支援する。
・言語指示により動作・行動を調整する。
・動作を細分化して、個々の要素的な動作を遂行する。
・できるだけ自然に動作がおこなえるよう、文脈や環境を整える。
・使用しないものは片付け、物品・道具を動作の手順に沿って使用しやすいように配置する。
などがあります。

関連記事:脳卒中治療ガイドライン2021では、戦略的訓練 strategy trainingや身振りを用いた支援が推奨されていますが、質の高い研究報告が限られているのが現状です。
戦略的訓練は、機能の回復が目的ではなく、症状を認めながらも、日常での実用性の改善を目的とする、代償的な方法を用いた支援です。
具体的には、特定の課題の遂行について、道具・物品などの環境の調整、口頭指示、介助、患者へのフィードバックを組み合わせて、特定の課題が混乱せずに、実用的に実施できるように支援します。( van Heugten, et al.: Outcome of strategy training in stroke patients with apraxia: A phase II study. Clinical Rehabilitation, 12(4), 294-303, 1998.
まずは生活の中での必要性や重要性、患者の困難な程度、患者の希望、環境調整等の容易さ、練習による効果が比較的期待できることなどを考慮して、練習する特定の課題を決定することが大切です。その課題の遂行について、上記の支援方法のさまざまな組み合わせを試して、実用性が改善する方法を探索し、有効な方法を生活に取り入れます。このような支援によって日常生活活動の状態が改善することが報告されています。

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[出典・参照]
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臼田 滋

臼田 滋

群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
群馬県理学療法士協会理事
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。


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