第80回嚥下内視鏡検査(VE検査)の評価と摂食嚥下訓練のポイント
公開日:2023.01.09
文:近藤 晴彦
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
本記事の概要
言語聴覚士の臨床では、摂食嚥下障害の患者さんにお会いする機会が多くあります。
摂食嚥下障害の評価には、嚥下造影検査(VF:Video Fluoroscopic examination of swallowing)や嚥下内視鏡検査(VE:Video Endoscopic examination of swallowing)といった機器を用いた検査がありますが、これらは今日では摂食嚥下臨床には欠かすことのできない評価となっています。
今回は嚥下内視鏡検査(VE検査)の評価と、実際の臨床場面における摂食嚥下訓練のポイントについて解説していきます。
《問題》嚥下内視鏡検査で評価が難しいのはどれか
【言語聴覚士】第22回第85問
嚥下内視鏡検査で評価が難しいのはどれか。
<選択肢>
- 1. 声門閉鎖
- 2. 咽頭収縮
- 3. 鼻咽腔閉鎖/li>
- 4. 嚥下反射惹起性/li>
- 5. 食道入口部開大/li>
解答と解説
正解:5
嚥下内視鏡検査(VE検査)では、嚥下関連器官の構造と運動や感覚機能の状態(特に左右差)、咽頭や喉頭内の貯留物の状態、反射の惹起性、嚥下反射前後の咽頭や喉頭内の食塊の状態などを評価することができます。
一方、咽頭期嚥下運動(嚥下反射)そのものは嚥下反射中の視野消失(ホワイトアウト)で観察ができません。また、食道期の評価についても直接観察することができないため、評価が難しくなります。
したがって、1.2.3.4.はどれも評価は可能ですが、「5.食道入口部開大」については評価が困難です。
実務での活かし方~嚥下内視鏡検査(VE)の評価と摂食嚥下訓練のポイント~
嚥下内視鏡検査(VE検査)の評価と、実際の臨床場面における摂食嚥下訓練のポイントについて解説していきます。
(1)嚥下内視鏡検査(VE)の目的
嚥下内視鏡検査(VE)の目的として、以下の4点が挙げられます。
①咽頭期の機能的異常の評価
②器質的異常の評価
③代償的方法、リハビリテーション効果の確認
④患者・家族・メディカルスタッフへの教育指導
同じく機器を用いた評価である嚥下造影検査(VF)と比較すると、嚥下造影検査(VF)は、被爆があり、場所も「透視室」で、検査食も「造影剤」の入ったものに限定されるなど制約があります。一方、嚥下内視鏡検査(VE)は「いつでもどこでも(ベッドサイドや自宅でも)実施できる」、「一般の食品を用いて評価できる」といった利点があります。
(2)嚥下内視鏡検査(VE)の評価
嚥下内視鏡検査の評価は、以下の2つでおこないます。
①飲食物を用いる前の評価
②飲食物を用いた評価
①飲食物を用いる前の評価では、鼻咽腔の評価、咽頭腔および喉頭の評価、口腔前庭、下咽頭部の観察、披裂部の運動、声門の運動、喉頭閉鎖、感覚の評価などがあります。
②飲食物を用いた評価では、検査食を嚥下させ嚥下反射後の咽頭腔、喉頭腔内の観察をおこないます。嚥下反射時はホワイトアウト像になりますが、ホワイトアウト前では嚥下反射開始前の咽頭への食塊進行を観察し、ホワイトアウト後には食塊の梨状陥凹への貯留、喉頭蓋谷部への残留を観察し、食塊の喉頭侵入、誤嚥を観察します。
(3)実際の臨床場面における摂食嚥下訓練のポイント
嚥下内視鏡検査(VE検査)は、機能的・器質的な「異常」を明らかにするだけではなく、代償的方法やリハビリテーション効果の確認にも用いられます。そのため、訓練効果や代償手段・姿勢などの有効性を明らかにすることを目的に検査を実施することがあります。
したがって、検査前には今回の検査の目的を明確にすることが肝心であると言えるでしょう。また、実際に内視鏡を操作するのは医師や歯科医師になりますので、医師・言語聴覚士・看護師など関連職種と連携をとりながら実施することも重要です。
まとめ
嚥下内視鏡検査(VE)の評価と摂食嚥下訓練のポイントについて解説しました。嚥下内視鏡検査(VE)は被爆のリスクもなく、場所を選ばないといったメリットがありますが、患者さんの負担はゼロではありません。検査結果を患者さんの改善に繋げることができるよう、検査の目的を明らかにしたうえで、評価・介入することが大切です。
[出典・参照]
日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会. 嚥下内視鏡検査の手順2021 改訂.日摂食嚥下リハ会誌,2021
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