第18回がん(悪性腫瘍)の基礎知識とリハビリテーション
公開日:2018.11.19 更新日:2018.12.14
第53回作業療法士国家試験問題が厚生労働省Webサイトに掲載されました。
既にご覧になった方の多くが気づかれているかもしれませんが、単に過去問を繰り返し解いているだけでは、安心して合格ラインに到達するのは難しい内容に変化しています。
例えば、基礎医学・臨床医学分野であれば、疾患の概要と病理、使用される代用的な薬剤、最新の統計をチェックするとともに、社会で求められる作業療法士の役割をしっかりと押さえておくことが求められるでしょう。
今回は、近年、作業療法士の活躍が広がっている「がん(悪性腫瘍)」に関連する出題について考えてみたいと思います。

過去問題【作業療法士】
第51回 午前 第76問
良性腫瘍と比較した悪性腫瘍の特徴はどれか。
- 1.出血壊死が少ない。
- 2.細胞の分化度が高い。
- 3.クロマチンが増加する。
- 4.膨脹性発育がみられる。
- 5.細胞質に対して核の占める割合が小さい。
解答と解説
正解:3
■解説
良性腫瘍と悪性腫瘍の違いについての問題は、作業療法士国家試験において、出題頻度の高い問題の一つです。
以下の表に示す通り、肉眼的特徴と組織学的特徴にわけて知識を整理しておかなければなりません。異型度(正常の細胞との違い・その程度)を問う「選択肢3のクロマチン」は、正常細胞と悪性腫瘍の細胞を区別する最も重要な所見となる「核」を濃く染める物質。悪性腫瘍の細胞核は、大型で輪郭が不整になりやすく、色は濃く染まっています。また細胞質が狭小化、核小体は大きくなり、数も増加するのが特徴です。
性状 | 良性腫瘍 | 悪性腫瘍 |
---|---|---|
◆肉眼的特徴 | ||
発育速度 | 遅い | 速い |
発育形式 | 膨張性(圧排性) | 浸潤性 |
周囲組織との境界 | 明瞭 | 不明瞭 |
周囲組織との癒着 | 少ない | 多い |
形態 | 形が整っている | 不整 |
色調 | 一様 | 出血や壊死により多彩 |
転移 | ない | ある |
再発 | 少ない | 多い |
◆組織学的特徴 | ||
間質成分 | 多い | 少ない |
分化度 | 高分化(成熟) | 未分化型が多い(未成熟) |
細胞異型 | 軽度 | 高度 |
核分裂 | 少ない | 少ない |
出血・壊死 | 稀 | あることが多い |
第53回 午後 第36問
骨転移を最も生じやすい悪性腫瘍はどれか。
- 1.腎癌
- 2.乳癌
- 3.肝癌
- 4.膵臓癌
- 5.胆嚢癌
解答と解説
正解:2
■解説
原発臓器別にみた骨転移頻度としては、乳がん、前立腺癌、肺癌で多くみられます。骨転移が認められれば、臨床病期Ⅳ期の進行がんとして扱われるのが一般的です。骨転移による痛みや骨折、抗がん剤治療や放射線治療に伴う体力や筋力の低下、嚥下・発声障害など、様々な障害が生じる恐れがあるため、治療前あるいは治療直後から、これらの障害を予防する働きかけやADLの動作評価、自立に向けた支援など、患者のQOLに最大限の配慮を心がけます。
第53回 午前 第94問
乳癌について正しいのはどれか。
- 1.月経前に疼痛が増悪する。
- 2.好発部位は乳房の外側上部である。
- 3.好発年齢は20歳代である。
- 4.5年生存率は40%前後である。
- 5.我が国における発症率は欧米の3倍である。
解答と解説
正解:2
■解説
世界的な乳癌罹患率を見てみると、日本における罹患率は、欧米諸国に比べ低くなっているものの、近年、著しく罹患率の上昇が見られます。好発部位は、乳房の外側上部で全体の5割程度を占めます。働き盛りの女性に発症しやすく、30代から罹患率の増加がはじまり、40代後半でピークを迎えます。食生活の欧米化による体格変化、初潮時期の低年齢化、妊娠・出産を経験する女性の減少が罹患率に影響していると言われています。
乳癌の発生母地となる乳腺の上皮にはホルモンの感受性があり、月経中に多量に分泌されるエストロゲン(卵胞ホルモン)が癌の発症や進行に作用する可能性が高く、生涯に経験する月経の回数が増えるほど発症しやすくなるのです。
乳癌の生存率は、病期によって異なります。早期発見されるものほど生存率が高く、ステージ0の5年生存率は9割以上。骨や肺、肝臓、脳などに転移がみられる最重度のステージ4における5年生存率は、3割弱とされています。
病気の成り立ちや特性、合併症の種類、日常生活への影響、予後などの知識は、どんな疾患をもつ患者に接する上でも必要不可欠なものです。癌患者に対する作業療法においては、患者が抱える痛みや不安、恐怖に寄り添う専門職の一人として、患者やその家族に病気や予後に関する正しい認識を伝えたり、日常生活上のリスクや合併症を未然に防ぐための関わりを深めたりするためにも、最新の知識・情報に関心を高めておきたいものです。
※参考:系統看護学講座専門基礎分野 疾病のなりたちと回復の促進(1)病理学第5版 医学書院

中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士。
1998年作業療法士免許取得後、宮城県・福島県内の病院および施設、作業療法士養成校の専任教員等を歴任。
2011年、東日本大震災で被災したことを期に災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足後、二児の母・作業療法士として「病気や障害、災害に負けない心と身体を」をテーマに執筆・講演活動などを行っている。2018年より、学校法人 医療創生大学「千葉・柏リハビリテーション学院」作業療法学科教員。
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