第34回小児のリハビリ~機能性構音障害について~
公開日:2020.03.23 更新日:2021.07.16
言語聴覚士が関わるコミュニケーション障害の中で、機能性構音障害は「正しい構音動作の誘導で治癒するもの」とされており、治癒するかどうかは言語聴覚士の技量が試されます。
私自身も養成学校の学生当時、担当教官に機能性構音障害の異常構音のひとつである、促音化構音を指摘されました。それまで「いいづらいことばがある」とは感じていましたが、まさか構音“障害”だったなんて!と、とてもびっくりしました。
「正しい構音動作」を教官に教えてもらってからは、数回の指導で改善し、現在では正しい構音も異常構音も、どちらも使うことができる便利な構音運動を獲得しています。

過去問題【言語聴覚士】
第20回 午前 第80問
機能性構音障害の訓練プログラムで考慮する必要性が低いのはどれか。
- 1.年齢
- 2.被刺激性
- 3.誤り音の数
- 4.誤り音の種類
- 5.声の高さ
解答
正解:5
過去問題【言語聴覚士】
第18回 午前 第78問
5歳の男児。主訴は構音障害。構音訓練の適応とならないのはどれか。
- 1./s/が[t]に置換する
- 2.ことばの問題で友人にからかわれる
- 3.構音の誤り方に一貫性がある
- 4.発話明瞭度が低い
- 5.言語発達段階が3歳児レベルである
解答
正解:5
■解説
普段、訪問看護ステーションに勤務していると、「ことばがはっきりしない」「発音できないことばがある」などの主訴でお子さんのリハビリを希望されるお母さんから、機能性構音のリハビリの依頼がくることがあります。
こどもの構音の発達には順番があり、母音の完成が約3歳、子音の完成が約5~7歳といわれており、子音には早期に獲得される音と獲得が遅い音があります。
例えば、3歳のお子さんが「さかな」を「たかな」「ちゃかな」といってもびっくりしませんが、小学校就学の頃までその話し方をしていると気になります。だからといって「ことばがはっきりしない=構音訓練」と考えるのではなく、お子さんの年齢や発達段階を考慮し、そのお子さんに必要なリハビリが構音訓練なのか発達の促通を図ることを優先するのか、その他の要因によるのかなど、適切な評価が必要です。
■症例1
5歳女児。母は先天的な聴覚障害があり、補聴器を装着すれば日常生活に支障がないレベルです。女児は、聴覚障害はありますが補聴器は使用しておらず、集団行動で若干の配慮が必要な程度で、「サ行がいえない」とのことでリハビリの依頼がありました。
訪問看護のリハビリなので詳細な発達検査は行えないため、母親から普段の生活状況を聴取しつつ、スクリーニング検査を行いました。すると、知的側面の発達/聴覚的な入力には問題がなく、口腔機能の運動が若干拙劣であることが分かりました。口腔機能の運動練習とサ行の構音指導を本人と母親に伝え自主トレーニングを勧めたところ、3回目の訪問でサ行の構音動作を獲得し、フォローアップも含め5回の訪問で終了になりました。
■症例2
3歳男児。「発音できないことばがある」「コミュニケーションに関してうまくいかないことがある」という母親からの主訴でリハビリが始まりました。医師の診断は発達障害(自閉症スペクトラム障害)と構音障害でした。他所で行った発達検査では、言語面以外は特に問題がなく、言語面の低下も著明ではないとの結果に。
ひらがなを読むことは可能ですが、一方で多動傾向や抑制がきかない場面が多く見られました。語彙の理解は年齢相応でしたが、表出面は単語の部分的な表出や省略、置換が目立つようでした。口腔の自動運動が困難なため他動運動を試みましたが、口腔周囲~顔面に感覚過敏を認めました。
年齢的に構音訓練が有効ではなく、オウム返しや同じことを繰り返す一方的な発話や抑揚のない発話でやりとりが成立しない、団体行動が苦手、ということがより問題となっていました。そのため、リハビリでは言語/非言語的なやりとりの成立を強化することで、コミュニケーションの発達を促しています。
■実務での活かし方
機能性構音障害のリハビリには適したタイミングがあります。しかし、言語聴覚療法は「ことばを話していないから」適応から外れる、というものではありません。ことばを話し始める前から、言語/非言語的コミュニケーションの発達を促すために言語聴覚士が関わることには意味があります。
「ことばがはっきりしない」「ことばが遅い」ことで悩むご両親には、まず、コミュニケーション活動を楽しむことの重要性をご理解いただくことも、言語聴覚士の役割のひとつだと思います。
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出典:『言語聴覚士のための機能性構音障害学』
白坂康俊・熊田政信 著/医歯薬出版株式会社

新家 尚子
東京都言語聴覚士会 理事 保険局局長
大学を卒業後一般の企業で5年間社会人を経験した後専門学校に入学し、卒業後は急性期、回復期病院への勤務を経て、現在は訪問看護ステーションに勤務。
東京都言語聴覚士会
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。
活動内容や入会のお問い合わせはこちらから。
http://st-toshikai.org/
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