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第52回理学療法における糖尿病患者の運動療法とリスク

公開日:2022.03.14

理学療法における糖尿病患者の運動療法とリスク

文:臼田 滋(理学療法士)
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授

糖尿病を有する患者に対する理学療法は、糖尿病単独の状態に対する運動療法に加えて、さまざまな合併症を有する状態に対して、糖尿病管理と合併症の両者に配慮した運動療法を行う必要があります。

運動による一般的なリスクに加えて、糖尿病の場合の特別に必要な配慮も考慮することが求められます。

2019年7月のPTOTST国試過去問ドリルにおいても、「第26回:糖尿病に対する運動療法で正しいのはどれか」として、血糖値の調節機構、運動による短期的・長期的効果、低血糖の症状、運動を禁止・制限した方がよい場合、運動に伴う注意点などを解説しました。

今回は運動療法のリスクと糖尿病診療ガイドラインや糖尿病理学療法ガイドラインに関連する内容を解説していきましょう。

糖尿病患者に対する運動療法の効果

糖尿病はインスリン作用の不足により生じた慢性の高血糖を主な症状とする、代謝性疾患のひとつです。糖尿病は、がん、脳卒中、心筋梗塞、精神疾患とともに五代疾病のひとつに数えられ、患者数は増加傾向にあります。糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症などの合併症を認めることが多いのが特徴で、治療として、食事療法、薬物療法に加えて、通常、運動療法が推奨されます。

2型糖尿病に対する運動療法(有酸素運動、レジスタンス運動、その組み合わせ)は重要です。運動療法により、血糖コントールの改善、心血管疾患のリスクファクター(肥満、内臓脂肪の蓄積、インスリン抵抗症、脂質異常症、高血圧など)を改善させることが報告されています。

1型糖尿病は、長期的な運動療法による血糖コントロールの改善効果は、一定の見解は得られていませんが、心血管疾患のリスクファクターやQOLに対する効果が期待されます。

具体的な運動療法

有酸素運動

中強度で週に150分またはそれ以上、週に3回以上の実施が推奨されます。

レジスタンス運動

連続しない日程で週に2〜3日、上半身と下半身の筋を含む8〜10種類の運動を行うことが推奨され、運動強度は10〜15回以上反復できる程度の負荷1セットから開始します。

運動療法は医学的評価が必要

ただし、糖尿病患者には運動による弊害もあるため、運動療法を開始する前に、医学的評価が必要です。網膜症や神経障害、腎症などの合併症、運動器疾患を含む身体状態を評価し、運動を制限する必要性の有無を検討します。

また、運動中の状態の変化により、運動の中止を判断することも重要です。

 

《問題》糖尿病患者の運動療法を中止すべき状態はどれか。

【理学療法士】第56回 午前46
糖尿病患者の運動療法を中止すべき状態はどれか。

<選択肢>

  1. 1. 発汗
  2. 2. 冷汗
  3. 3. 体温 37.0 ℃
  4. 4. Borg 指数 13
  5. 5. 脈拍数 110/分

解答と解説

正解:2. 冷汗

有酸素運動の運動強度の一般的な指標は、自覚的運動強度(rating of perceived exertion; RPE、またはBorg指数)と心拍数が用いられます。運動療法は低強度から開始し、徐々に増やすことが勧められます。

最初は、最大心拍数の50〜60%、RPE 11〜12から開始し、運動に慣れてきたら、最大心拍数の60〜70%、RPE 12〜13の強度で運動を行います。ただし、自律神経障害を有する場合や、降圧薬を内服している場合などでは、心拍数で運動強度を決定することが難しいことがあります。

糖尿病の場合に特別に必要な主な配慮

『アメリカスポーツ医学会(ACSM)の運動処方ガイドライン』によると、糖尿病の場合に特別に必要な主な配慮は、下記の通りです。

・インスリンあるいは経口血糖降下薬を使用している場合には、特に低血糖に注意する必要があります:低血糖の一般的な症状は、ふるえ、脱力、異常発汗(冷汗)、不安感、口・指の痛み、空腹感などです。
・インスリンあるいは経口血糖降下薬を使用している場合には、運動を行う時間帯に配慮する必要があります:インスリン作用がピークになる時間帯を避けます。
・運動する上肢、あるいは下肢へのインスリン注射は避けます。
・パートナーと一緒に運動し、低血糖発作に関する問題のリスクを少なくします。
・血糖コントロールが不十分な1型糖尿病では、特に高血糖への注意が必要です:高血糖の一般的な症状は、多尿、疲労感、脱力感、口渇感などです。
・多尿が原因である脱水は、体温調節障害をもたらす場合があります。
・糖尿病網膜症では、高強度の運動に伴って網膜剥離および硝子体出血を生じるリスクがあります。
・糖尿病神経障害(末梢神経障害)では、足部潰瘍を予防するためのフットケアが必要です。
・糖尿病腎症では、運動後にタンパク排泄が急に増加することがありますが、高強度の運動が腎症の進行を加速させるという根拠はありません。
・心血管疾患、過体重、肥満、メタボリックシンドロームの場合の運動療法のリスクに配慮します。

参考:『日本体力医学会体力科学編集委員会監訳:運動処方の指針 原著第8版、南江堂、2011』

実務での活かし方

理学療法で対象とする糖尿病患者は合併症を認めることが多く、合併症を考慮した運動療法の実践が必要となります。糖尿病理学療法ガイドライン のCQ(Clinical Question)とその推奨について紹介します。

CQ1:1型糖尿病患者に対して運動療法は推奨されるか

血糖コントロールに一定の改善効果があるとの見解はありませんが、心肺機能を改善する可能性があるため、低血糖症状などの安全管理の実施を行う条件付きで推奨されています。

CQ2:糖尿病神経障害を有する患者に対して理学療法は推奨されるか

併発症や身体状況の把握、足部の観察と運動中の循環応答などの安全管理を行う条件付きで推奨されています。

末梢神経障害では、足部潰瘍の予防のためのフットケアが必要です。自律神経障害では、運動に対する循環応答の低下、起立性低血圧、体温調節障害などにより、運動により誘発される有害事象に十分な配慮が必要です。

CQ3:糖尿病足病変を有する患者に対して理学療法は推奨されるか

糖尿病足病変、下肢の慢性創傷治療において、物理療法の実践が提案されています。

糖尿病足病変に対して、物理療法の創傷治癒、患部の免荷、歩行機能の改善のための理学療法の提供が求められます。物理療法は、諸外国においては電気刺激や超音波療法などにより、創傷部周囲の血液循環の改善や潰瘍の治癒などの効果が報告されていますが、わが国においては、制度上の理由から積極的に物理療法が用いられてはいません。そのため、今後、十分に医師と相談した上で、物理療法の活用が必要です。

CQ4:脳血管疾患を併発している糖尿病患者に対して理学療法は推奨されるか

糖尿病管理を考慮しながら行う理学療法の有効性を示すエビデンスは得られていません。

糖尿病は脳血管疾患の危険因子であり、脳血管疾患を有する糖尿病患者は多く、運動療法を中心とした理学療法が実施されており、今後、これらの患者はさらに増加することが予想されます。

理学療法の効果について、運動耐容能、ADL、QOL等をアウトカムとして検討した結果、糖尿病を有する脳血管疾患に対する理学療法を適用した研究は少なく、現状ではエビデンスが得られていません。糖尿病、脳血管疾患ともに多様な症状を示すため、理学療法単独では対応が困難な場合が多く、多職種と連携したチームとして介入を実践し、その効果に関するデータの蓄積が必要とされています。

CQ5:運動器疾患を併発している糖尿病患者に対して理学療法は推奨されるか

下肢の変形性関節症を併発している、糖尿病患者に対する理学療法の有効性を示すエビデンスは得られていません。

高齢者において糖尿病、運動器疾患を有する患者の割合は多く、特に変形性関節症を有する糖尿病患者に対して理学療法は一般的に実施されています。

下肢荷重時痛、運動時痛を中心に理学療法の効果を検討した結果、これらに関する報告はなく、そのエビデンスは得られていません。

運動器疾患を有する場合、疼痛、関節可動域制限、筋力低下などによって、有酸素運動やレジスタンス運動の遂行が困難となります。整形外科医などの他職種と連携したチームとして、運動器疾患を考慮しながら介入を実践し、その効果に関するデータの蓄積が、今後、必要とされています。

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参考文献:
『日本理学療法士協会監修:理学療法ガイドライン 第2版、医学書院、2021』
『日本糖尿病学会編・著:糖尿病診療ガイドライン2019、南江堂、2019』

臼田 滋

臼田 滋

群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
群馬県理学療法士協会理事
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。


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