第61回リハビリテーション臨床における感染予防の新常識
公開日:2022.06.17
文:臼田 滋(理学療法士)
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちの生活はさまざまな場面で変化を遂げました。リハビリテーション、作業療法の現場においても言うまでもなく、感染予防対策が日々当たり前に繰り返されるようになりました。
国家試験では、医療従事者として求められる感染症、あるいは感染予防対策の基礎知識が問われています。
新興感染症と新しい生活様式
新型コロナウイルスの感染拡大により、あらゆる場面で感染予防対策が当たり前になりました。はじめは煩わしさや制約でしかなかったひと手間が、今では当たり前の日課となり、ネガティブな影響だけではなく、新しい発見や気づきをも与えてくれました。
マスクがおしゃれアイテムとして選ばれたり、オンラインツールを活用して今まで叶わなかった交流ができるようになったりしたのも、そのひとつではないでしょうか。一方で、弱い立場にある方々が、取り残される出来事も多々ありました。いずれにせよ、感染症が自分ごととなり、自分や自分の大切な人をも守ろうとする意識が高まったことは、近い将来、社会全体の強さへとつながっていくのでしょう。
感染予防対策の指針
リハビリテーションの各領域でも、これまでになく感染対策全般が見直される契機となりました。養成校教育でも、特に臨床実習前の準備として、感染対策の理解と備えを学ぶ場が必須となっています。
日本リハビリテーション医学会が作成した感染対策指針には、リハビリテーション専門職が、どのような環境を準備し、患者と向き合うべきか、場面や病期ごとに明記されています。
日本作業療法士協会でも同様に、作業療法室で行うべき感染対策業務を具体的に示しました。新型コロナウイルス感染症だけではなく、私たち医療従事者が知っておくべき、感染症に関する基本的知識や個人防護具の装着方法、さらには医療従事者に最低限求められる予防接種などが示されています。
《参考:リハビリテーション専門職向け感染対策指針資料》
日本リハビリテーション医学会 感染対策指針(COVID-19含む)
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)感染対策/作業療法業務についてvol.3
医療関係者のためのワクチンガイドライン第3版
《問題》主な感染経路と感染症の組合せで正しいのはどれか。
【作業療法士】第56回 午前22
主な感染経路と感染症の組合せで正しいのはどれか。
<選択肢>
- 1.空気感染―――流行性角結膜炎
- 2.空気感染―――風疹
- 3.接触感染―――結核
- 4.飛沫感染―――流行性耳下腺炎
- 5.飛沫感染―――疥癬
解答と解説
正解:4
感染症と感染経路に関する問題です。感染経路には、接触感染・飛沫感染・空気感染の3つの経路があります。接触感染は、患者との直接または間接的な接触、患者が頻繁に接した機器類を介する感染。
飛沫感染は、咳やくしゃみなどにより、病原微生物を含む粒子=飛沫が飛び、気道粘膜に付着することにより起こる感染。
空気感染は、空気中に飛散する病原微生物が微粒子となって浮遊し、それを吸い込むことによって起こる感染です。
流行性耳下腺炎は、ムンプスウイルスが上気道を介して感染することにより発症します。ムンプスウイルスは、唾液中に多く存在するため、咳やくしゃみにより周囲へ広がりやすいウイルスです。
臨床での活かし方
下表の通り、手洗い(手指衛生)、患者が触れる可能性のある器具・機器類の衛生管理など、平時の標準予防策は必須です。しかしながら、既存の指針や施設ごとに定められた方法は、いつまでも万全ではありません。新興感染症がいつ・どこで現れるかわからず、すでに私たちの身近に潜伏している可能性もあります。新たな脅威に備え、これまでの対策で防ぎきれない場合にどうするかを考えておく必要があります。
どのような経路で感染が広がり、何をすれば感染拡大を防げたのか。これらを検討するためには、患者や職員の動き、感染経路を的確に分析することが欠かせません。
リハビリテーションの現場でも、日頃からマニュアルや業務管理体制を備える必要があるでしょう。
感染経路 | 対象疾患 | 主な予防策 |
---|---|---|
接触感染 | MRSA、MDRP、VRE、ESBL、CRE など | 個室隔離、コホーティング、個人防護具:ガウン・手袋の着用、着脱時の手指衛生 患者専用医療器具の準備 |
飛沫感染 | インフルエンザ、風疹、新型コロナウイルス、ムンプス、アデノウイルス感染症、百日咳、髄膜炎菌球感染症 など | 個室隔離、コホーティング、サージカルマスク着用、ゴーグル着用、患者専用医療器具の準備 |
飛沫感染 | 結核、麻疹、水痘、播種性帯状疱疹 など | N95マスクの着用、水痘などの皮膚病変がある場合は、手袋・ガウンを着用 |
※日本リハビリテーション医学会 感染対策指針(COVID-19含む)p6-p7をもとに作成

臼田 滋
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
群馬県理学療法士協会理事
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。
他の記事も読む
- 第62回 軽度失語症の訓練:評価や介入のポイントは?
- 第60回 廃用症候群予防の基礎知識
- 第59回 言語聴覚療法における失語症への包括的介入
- 第58回 作業療法に役立つ心電図の基本~心筋梗塞後の心電図~
- 第57回 加齢による生理機能の変化~高齢者のリハビリテーションにおける注意点~
- 第56回 めまいに対する運動療法の基礎知識
- 第55回 言語聴覚療法における半側空間無視への対応
- 第54回 視覚障害者へのリハビリテーションは多職種連携が重要
- 第53回 失語症の方への知的機能の評価:RCPMとコース立方体組み合わせ検査
- 第52回 理学療法における糖尿病患者の運動療法とリスク
- 第51回 「全体像の把握」に役立つICF(国際生活機能分類)を活用した言語聴覚士の介入
- 第50回 特別支援教育の成り立ちとリハビリテーション専門職の関わり
- 第49回 筋力トレーニングをより効果的に!骨格筋の筋収縮のメカニズム
- 第48回 PACE訓練とは?失語症の臨床では実用的コミュニケーション訓練が重要
- 第47回 認知症の方への適切な訓練とは?言語聴覚療法の考え方
- 第46回 持久力トレーニングの運動強度の目安とは?室内向けメニューも紹介
- 第45回 統合失調症の状態悪化を示すサインとは?再燃の兆候に注意を
- 第44回 失語症のリハビリテーションは長期間にわたり実施することが重要
- 第43回 高齢者の安静臥床が及ぼす影響とは?廃用症候群を予防する重要性
- 第42回 高齢者の歩行の特徴は?加齢と疾病の影響を考慮して転倒を予防しよう