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リハビリテーションの臨床で求められる「感染予防策」の基礎知識

公開日:2022.07.19

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文:中山 奈保子
作業療法士(教育学修士)

臨床に携わるセラピストには、感染予防策についての知識と実践が不可欠

感染予防策には、感染疑いや疾患の有無に関わらず、すべての患者ケアにおいて日常的に適用される「標準予防策」と、病原体に感染あるいは保菌している患者に対して、感染の可能性がある経路(空気・飛沫・接触感染)を遮断する「感染経路別予防策」があります。
感染予防策は、患者や私たち医療従事者の健康を維持するのはもちろん、私たちとりまく地域社会全体の健康を守り、維持するために必要な取り組みです。
リハビリテーションにおいては、理学療法室、作業療法室など、患者が場所を移動して訓練をおこなうことも多く、訓練器具を共有するなど、感染拡大のリスクが高い環境にあると言えます。
臨床に携わるセラピストであれば、感染予防策についての知識と実践が欠かせません。
今回は、作業療法士の国家試験から、感染予防策の基本である標準予防策<standard precautions>についての過去問題を取り上げ、詳しく解説します。

 

《問題》標準予防策について正しいのはどれか。

【作業療法士】第53回 午前40
標準予防策について正しいのはどれか。

<選択肢>

  1. 1. 手洗いは7秒以内で行う。
  2. 2. 血圧を測るときは手袋を着用する。
  3. 3. 感染症患者を隔離することが含まれる。
  4. 4. 患者同士の接触による感染予防が目的である。
  5. 5. すべての患者の排泄物は感染性があるとみなす。

解答と解説

正解:5

感染予防策には、すべての患者ケアに適用される「標準予防策」と、既に感染の可能性が確認された状況下で講じられる「感染経路予防策」の2つに大別されます。
標準予防策は、患者と医療従事者相互の感染リスクを減少するために実施されますが、感染症患者の隔離は感染経路予防策であり、標準予防策には含まれません。
したがって、正解は<5.>です。

「標準予防策」のポイントをおさらい

標準予防策においては、すべての患者の血液、体液、分泌物、嘔吐物、排泄物、粘膜、傷のある皮膚などを、「感染リスクがあるもの」として取り扱うという考え方を基本としています。
医療やリハビリテーションの臨床では、「一患者一処置ごとの手指衛生(手洗い・手指消毒)」が原則です。

「感染リスクがあるもの」に触れる可能性が予測される場合には、個人防護具(手袋、サージカルマスク、フェイスシールド、キャップ、エプロン、ゴーグル、ガウン、シューズカバーなど)を着用して臨みます。
個人防護具を使用する場面や廃棄方法については、それぞれの病院や施設の感染予防マニュアルに従いましょう。

手指衛生は、患者に接触する前と後、体液に曝された可能性が生じた場面で適宜おこないます。
手指に付着した一過性の菌や常在菌の一部を除去することで、手指や扱った器具・道具類を介した感染を防ぎます。効果的な手指衛生のためにも、指輪や腕時計ははずし、爪は短く切っておくことが大切です。

【手指衛生について】
リハビリテーションの現場で患者に関わるセラピストは、手術前後におこなわれる手洗いよりは衛生水準が低いものの、日常的におこなわれる手洗いよりも念入りな手洗いが求められます。
日本作業療法士協会による『』COVID-19(新型コロナウイルス感染症)感染対策/作業療法業務について(Ver.3)』では、具体的な手洗いの方法として、以下のようなポイントを挙げています。

■せっけんと流水による手洗いのポイント
・手を水で濡らし、せっけんをすすぎ終えるまで 45 秒~60秒かける
・排泄物や嘔吐物などを扱った後は、 2 回おこなう
・せっけん成分をしっかり洗い流し、ペーパータオルで水分を十分ふき取る
・手洗い後は蛇口に直接触れないよう、手首や肘を使う、またはペーパータオルで蛇口を閉める

せっけんと流水による手指衛生は、アルコールが効きにくい微生物や、目に見える汚れがある場合に有効です。ペーパータオルで皮膚をこすりすぎると、手荒れの原因となるため、たたくように水気をふきとりましょう。

手指に目に見える汚れがない場合は、擦式アルコール製剤による手指消毒をおこないます。よくすりこむことで消毒効果を得られるので、手洗いと同様に手のひらや指、指の間などをくまなくこすり合わせます。以下のようなポイントに留意してください。

■擦式アルコール製剤による手指衛生のポイント
・擦式アルコール製剤は十分な量を手に取る(500円玉大くらいが目安
・擦式アルコール製剤が蒸発して手指が乾燥するまで、手指全体によく擦りこむ
・手を振ったり、あおいだりして乾燥させるのではなく、よくすりこむ

実務での活かし方

作業療法では、手洗いや咳エチケット、グループ活動時に欠かせない人と人との距離の取り方など、感染対策に必要な行為そのものが、対象者の生活に取り込まれるよう指導する場面が増えています。
標準予防策の知識や実践を活かし、日常生活で必要な正しい感染対策を伝えられるように心がけましょう。

作業療法の評価や実施にあたっては、「換気」や「密にならない環境」が重要です。
できるだけ真正面での対面を避け、必要に応じて飛沫防止のためのパーティションなども利用するなどの工夫も大切です。実施前後に使用する器具や机を消毒したり、換気を十分にしたりして、感染予防を徹底しましょう。

また、感染対策の基本である手指衛生においては、手荒れに注意することも大切です。リハビリテーションの臨床では、多くの対象者と接するため、頻繁に手洗いやアルコール消毒をおこなうことになります。手荒れにより皮膚のバリア機能が低下すると、感染性の物質に曝されるリスクが高まることも忘れないでください。
保湿剤が入っているアルコール製剤を使用する、皮膚科を受診するなどして、手荒れの悪化を防ぐことにも留意しましょう。

[出典・参照]
一般社団法人 日本作業療法士協会「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)感染対策/作業療法業務について(Ver.3)」

中山 奈保子

中山 奈保子(なかやま なおこ)

作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。

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