「MCI」に効果的な芸術療法や運動療法
~認知症・MCIの場合
公開日:2020.04.17 更新日:2020.05.21
MCIとは、本人や家族に認知機能低下の訴えはあるものの、認知症の診断基準には満たない状態を指します。MCI全体の約1割が認知症または要介護状態に移行するという報告もあり、認知症の予防にはさまざまな取り組みが採用されています。最近では、運動の習慣づけが特に有効であるといわれています。

MCIと認知症の予防
MCI(mild cognitive impairment)は、DSM-5における「軽度認知障害(mild neuro cognitive impairment)」に相当し、国内では「認知症の前段階」「認知症予備軍」「境界」などと呼ばれています。MCIの診断基準は下表の通りであり、普段の生活においては何ら不自由なく過ごしていたり、不安があっても専門職に相談せず過ごしているケースも少なくないでしょう。
しかし、MCI全体の1割が認知症や要介護状態に発展するという報告があります。そうなる前に、身近な地域における、適切な情報提供や予防サービスを気軽に受けられる環境づくりが求められるでしょう。また、認知症の診断基準や行動特性を把握し、認知症に発展しつつあるサインを見逃さないよう見守り、地域ぐるみで認知症を予防することも重要な取り組みです。
表1:MCIの診断基準
1.本人や家族から認知機能低下の訴えがある。 |
2.認知機能低下はあるが認知症の診断基準は満たさない。 |
3.基本的な日常生活機能は正常。 |
【参考文献】
「標準作業療法学専門分野 高次脳機能障害作業療法学第2版」能登真一(編)(2012)(医学書院)
「認知症リハビリテーションの現状とエビデンス.The Japanese Journal of RehabilitationMedicine 55巻8号」pp653-657 田中尚文(2018)
認知症の予防に必要なのは?
認知症の予防には、アートセラピー、音楽療法、園芸療法をはじめとした、対象者やその地域になじみのある遊びや創作活動など、さまざまな取り組みが行われています。これらの取り組みは、認知機能の維持や健康感の向上、身近な人々との交流を促すことが広く知られています。
そして、以前取り上げた回想法や日記もその取り組みのひとつです。回想を通じた語り合いと心の触れ合いが、認知機能や感情、行動面に働きかけます。
音楽療法では、対象者が歌唱やダンスに参加する積極的音楽療法は肯定的感情や自信を向上させる効果があります。リラクゼーションを目的とした音楽鑑賞(受動的音楽療法)は、不安や焦燥感を改善させる効果が期待できるでしょう。
最近では、適度な運動習慣が認知症の予防に効果的という見解が広まっています。運動は、脳血流量を促進するだけではなく、海馬の神経新生や容量の増加を促すという報告があります。MCIは、認知機能が回復する可能性が高い段階のため、身体を維持する栄養面への配慮を含め、毎日の運動は積極的に取り入れていくことが望まれます。
【参考URL】
東京大学大学院新領域創成科学研究科HP
「運動による海馬ニューロン新生の増強機構の解明~運動による認知症予防へ新たな展開」
また、認知症を発症した人の多くに、歩行速度の低下やバランス機能の低下が見られるという報告があります。つまり、運動機能面での変化がMCIから認知症への移行が進むサインのひとつである可能性があるのです。
歩行速度やバランス機能といった運動面の変化は、記憶力の低下よりも客観的に捉えやすく、本人や家族が具体的な数字でその変化を追いやすいメリットもあります。定期的な体力測定の場で、それらの情報や記録を共有しあうといった関わりが、主体的な予防活動のきっかけとなるかもしれません。
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