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予防理学療法って何をするの?(終)働く世代の介護予防とまとめ

公開日:2019.03.25 更新日:2023.03.14

文:吉倉 孝則
理学療法士/保健学修士/認定理学療法士

予防理学療法とは何か、いまいちピンとこない方が多いと聞いて始めた連載、ステージごとに解説してきましたが、最終回の今回は働く世代の青年期・中年期における「予防」領域の理学療法について紹介します。


 

青年期・中年期の予防理学療法

働く世代の青年期・中年期として20~50代を想定して書いていきたいと思います。近年は若年性での脳梗塞等も増えており、病院等でのリハビリテーションでも患者さんとして担当することもあるでしょう。こういった年代の患者さんの場合、自宅復帰に加えて仕事復帰を目標にリハビリが進められることも多く、応用動作を含めた高い能力回復が必要となります。また若年の脳梗塞では梗塞巣が小さく、不幸中の幸いにも麻痺が軽い患者をよく経験します。こういった患者さんには、身体機能の改善、ADL能力の回復はもちろんのこと、今後再発予防の観点で、運動指導や生活指導が必要です。

私も担当している患者さんに「今回は麻痺が軽くて、不幸中の幸いです。でも生活習慣を改めないと再発して、次はもっと重い障害が残る可能性があります」としっかり伝えます。そして、再発予防するための生活習慣や運動の方法などもお伝えします。このように病院でのリハビリテーションで担当する場合は3次予防となります。

 

メタボ予防に理学療法士の力を発揮

この世代の1次予防・2次予防の分野としては、特定健診・特定保健指導への関与の可能性があります。特定健診・特定保健指導とは、40~74歳を対象に、生活習慣病の前段階であるメタボリックシンドローム(メタボ)を予防・改善することを目的としています。そのため、メタボ健診と呼ばれることもあります。身長、体重、腹囲、BMIなどの身体計測や血液検査、血圧測定などの健診を実施し、生活習慣の改善が必要な人は、医師や保健師、管理栄養士などから生活習慣病予防の指導を受けることになります。特定健診の実施率は50%程度で対象者の半分程度が受けています。しかし、リスクのある人への特定保健指導の実施率は17%程度と低く、国を挙げて、この実施率を上げるような取り組みがされています。メタボ予防であれば、運動療法の専門家である理学療法士の出番のはずです。しかし、実際にはまだまだ特定保健指導に関わっている理学療法士は少ないのが現状です。

主に、病院の健診センターなどが実施しているので、自分の勤務している病院でも実施していれば、保健指導に理学療法士の活用をアピールするべきでしょう。そうやって、特定健診に理学療法士が運動指導しているということを受診者にアピールすれば、病院としてもブランディングになる可能性があり、理学療法士も評価されるでしょう。理学療法士として参画できるようになるためには、運動以外にも糖尿病、メタボリックシンドローム、生活習慣病、行動変容といった周辺の知識が必要です。

 

生産性向上の鍵は理学療法士?

働く世代の予防領域の関わりとしてもう一つ腰痛予防があります。
長距離トラック運転手や重労働の必要な運送業などでは腰痛の発生するリスクがあります。一旦、腰痛を発生してしまうと、しばらくの間、会社を欠勤する必要があり、働く人にとってもそうですが、会社側にとっても、労働の人材不足につながりデメリットになります。また、欠勤するまでには至らなくても、腰痛を抱えながら仕事することは、生産性が上がりません。このように病気や体調不良で従業員が会社を欠勤することを「アブセンティーイズム(病欠):absenteeism」といい、一方で、出勤はしているにもかかわらず、心身の状態の悪さから生産性が上がらないことを「プレゼンティーイズム(疾病就業):presenteeism」と言います。

このような状況に対しては、腰痛に対する治療も必要ですが、腰痛予防が重要です。
柔軟性の獲得や体幹筋などの筋力強化などの運動療法に加えて、作業姿勢や生活習慣も含めた予防の指導が求められます。理学療法士は病院で腰痛になった患者を待っているだけでなく、今後は会社等に赴くなどして、腰痛予防を会社経営者と一緒に取り組んでいくことが必要かもしれません。

さらに、最近のデータでは、職業性腰痛(4日以上休業を要する腰痛)の約3割は医療介護業界で発生していると言われています。看護師や介護士の患者・利用者の移乗動作やケアの際の姿勢などは腰痛を発生しやすい動作です。理学療法士が一般企業等へ赴いて指導することも必要ですが、実は身近な医療介護業界でも必要とされており、まずは自分の職場の腰痛予防から企画・参画すると良いかもしれません。

他にも、最近ではメンタルヘルスにも注目が集まっています。うつ症状でアブセンティーズムやプレセンティーズムが発生し、生産性が上がらない従業員もいます。2015年12月から従業員が50名以上の企業では、ストレスチェックが義務化されました。このようにメンタル面への対策が必要となっています。運動は気分転換になり、うつ予防になることは多くの研究で示されています。この分野にも理学療法士が参画できる可能性を秘めています。

このように、働く世代に対する予防理学療法は、生活習慣病の予防により、健康寿命の延伸だけでなく、働く人の生産性向上にも寄与できます。最近では、「健康経営」という言葉が話題となっています。健康経営とは、従業員への健康管理などを積極的に行い、経営的投資することで、従業員の活性向上や生産性の向上等をもたらし、結果的に企業の業績向上や株価向上につながるというものです。つまり、会社経営側も健康の視点を重視するようになってきているということです。

 

予防理学療法のまとめ

32回から予防理学療法について3回にわたって述べてきました。「予防」というと高齢者の介護予防をイメージしがちですが、子どもから高齢者まで全世代、全国民の健康に理学療法士は寄与できることを念頭に置く必要があります。そのなかで、自分の興味のある分野から勉強や経験できるとキャリアアップにもつながるでしょう。

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吉倉 孝則

吉倉孝則 (よしくら たかのり)

理学療法士。保健学修士。認定理学療法士(運動器)。
星城大学リハビリテーション学部理学療法学専攻卒業。浜松医科大学附属病院リハビリテーション部入職。星城大学大学院健康支援学研究科修了。
大学病院への勤務時代は、整形外科疾患、がんのリハビリテーションを中心に幅広い疾患のリハビリテーションに従事。院内の緩和ケアチームにも携わり多職種連携を心がけている。
臨床業務以外にも研究活動や学生の指導など教育、地域包括リーダーとして地域包括ケアの構築にも力を入れている。

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