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QOL向上に繋がるリハビリ:5つのQOL評価の種類とアウトカム(後編)

公開日:2019.08.19 更新日:2023.03.14

近年、QOL(Quality Of Life)の重要性が益々高まっているように感じます。私たちリハビリセラピストも簡単に「QOL向上」という言葉を使ってしまいがちですが、そもそもQOLって何かをもう一度考えてみましょう。前回は、QOLの定義についてと私のやってきた研究の紹介をしました。今回は研究にも使えるQOLの評価尺度について書いてみます。

 

QOL評価の種類

医療関係でQOL評価をする際は、健康と関連したQOLを評価することになるでしょう。このことを健康関連QOLといいます。健康関連QOLとは、「疾患や治療が,患者の主観的健康感(メンタルへルス,活力,痛みなど)や,毎日行っている仕事,家事,社会活動にどのようなインパクトを与えているか,これを定量化したもの」であると言われています。リハビリ前後や治療中の患者さんのQOL評価をする際には、健康関連QOLで評価すると良いでしょう。

健康関連QOLには、大きく分けて包括的尺度と疾患特異的尺度の2つの尺度があります。それぞれ長所・短所があるので、自分が使う時にどれが良いのか検討する必要があります。

 

健康な人とも比較できる包括的尺度

包括的尺度とは、測定対象を特定の疾患患者に限定しないQOL尺度です。しかも,病気を持っていない,いわゆる「健康な人」を対象にしても利用可能であることも大きな特徴です。つまり、健康な人でもどの疾患でも使用が可能です。そのため、健康な人と比較することが可能です。包括的尺度の代表的なものに、SF-36とEQ-5Dなどがあります。

SF-36(MOS 36-Item Short-Form Health Status Survey)
36項目の設問からなり、8つの下位尺度があります。

  • 身体機能 (Physical functioning)PF
  • 日常役割機能(身体)(Role physical)RP
  • 身体の痛み (Bodily pain)BP
  • 社会生活機能 (Social functioning)SF
  • 全体的健康感(General health perceptions)GH
  • 活力 (Vitality)VT
  • 日常役割機能(精神)(Role emotional)RE
  • 心の健康 (Mental health)MH

このように合計点ではなく、下位尺度でQOLを評価することができます。点数が高いほどQOLが高いことを示し、また国民標準値も示されているため、健康な人と比較も容易にできます。さらに世界170か国語以上で翻訳され、世界的に使用されています。またこれの短縮版であるSF-12(12項目の設問)、SF-8(8項目の設問)もあります。前回に紹介しましたが、私はSF-36を使用して多くの研究を行ってきました。非常に使いやすいQOL評価表だと思います。しかし、ライセンス申請が必要で有料となっています。
 
EQ-5D(EuroQol 5 Dimension)
5項目の質問(移動の程度/身の回りの管理/普段の活動/痛み/不安)を3段階の選択式で回答するため、非常に簡便で患者が回答する際に負担が小さい。「移動の程度」の項目で言えば、「歩き回るのに問題はない/歩き回るのにいくらか問題がある/ベッド(床)に寝たきりである」の3択から選択する。回答結果をもとに「完全な健康=1」「死亡=0」と基準化された健康状態のスコアが算出可能であり、これも世界各国で使用されています。そのため、英語論文などを検索すると先行研究が多く見つかります。
 

治療効果を反映されやすい疾患特異的尺度

疾患特異的尺度は、病気ごとの評価票です。他の疾患の患者では使用できず、また一般人とは比較できないですが、一方で疾患の症状に起因する状態をしっかりと測定できるように質問項目が並んでいるので、治療などの効果判定には、敏感に反応します。有名な疾患特異的尺度には、股関節や膝関節の変形性関節疾患で用いられるWOMAC、がん患者で用いられるFACT-G、COPD患者で用いられるSGRQなどが有名です。

WOMAC(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index)
WOMACは関節疾患の特異的なQOL評価です。「痛み」(5項目)、「こわばり」(2項目)、「身体機能」(17項目)の3下位尺度からなる全24項目で,回答形式は日常生活での痛みや困難の程度について5段階で回答する。尺度得点が高いほど痛みや困難の程度が強いことを示します。ガイドラインでも使用されるなど広く使用されていますが、日本語版がないのがデメリットです。

FACT-G(Functional Assessment of Cancer Therapy-General)
FACT-Gはがん患者のQOLを測定する質問紙票です。身体面 7項目、社会・家族面 7項目、心理面 6項目、機能面 7項目の計27項目から構成されています。国際的にも広く使用され、さらに日本語用も整備されていますが、使用にあたっては、開発元に登録が必要となります。

SGRQ(St. George’s Respiratory Questionnaire)
SGRQはCOPD患者の疾患特異的な健康関連 QOL 評価尺度として開発され、症状(例えば咳、呼吸困難、喘鳴)やその症状による社会的影響、心理的影響の経時的変化が評価できるように構成されています。質問票は 50 項目から成り、Symptom(症状)、Activity(活動)、Impact(衝撃)の 3 つの下位尺度に分けてスコアが計算され、各スコアは 0~100 の範囲で、「0」は障害がない状態、数値が大きいほど障害が大きいことを示します。また、その 3 スコアを合計して総スコアを求めることが可能です。
 

  • Symptom(症状):咳,痰,喘鳴,呼吸困難といった症状の頻度と程度
  • Activity(活動):呼吸困難によって制限される日常生活あるいは呼吸困難を生じさせる日常生活 の活動レベル
  • Impact(衝撃):COPD により影響を受ける社会活動や心理的な障害など

このほかにも多くの疾患特異的尺度はあり、さらに同じ疾患でも多くのQOL尺度があります。どの指標が良いのかは、より調べてから用いると良いでしょう。
 

QOLがリハビリアウトカムとなる?

医療場面で従来使用してきた成果(アウトカム)として用いられてきたのは、死亡率・生存率や合併症発生率などでした。リハビリでは筋力やADLの得点が用いられてきました。これらは臨床的アウトカムと言われ、数値に表しやすく客観的指標です。
一方でQOLは患者の主観的な部分があり、アウトカムとして示すことが難しいところでした。しかし、QOLを客観的に評価するために各尺度が開発されてきて、その信頼性・妥当性も検討されてきています。このような患者側の評価は、近年、重要視されてきており、これらのことを患者立脚型アウトカムといわれています。欧米では、医療の成果をQOLで捉えることも多いです。さらに、医療の費用対効果などの経済アウトカムの研究も進んでいます。その指標にQOLを用いられることもあります。これは、QOLを1段階上げるためには、費用はいくら費やされるのかというものです。診療報酬の回復期リハビリテーションの入院料はADLをアウトカムにして、質を評価されるようになりました。今後は患者のQOLを成果に報酬が決まる時が来るかもしれません。
 

QOLを評価して効果的なリハビリテーションを

QOLの指標について書いてみました。包括的尺度と疾患特異的尺度の2つがあり、それぞれメリット・デメリットがあります。さらに、多くの指標があるため、どの指標で評価するかは、より調べて行う必要があるでしょう。しかし、近年、患者の主観アウトカムは重要視されてきているため、是非、皆さんもQOLを評価項目に追加してみてはいかがでしょう。そして、患者さんのQOLを高める効果的・効率的なリハビリを実施しましょう。

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吉倉 孝則

吉倉孝則 (よしくら たかのり)

理学療法士。保健学修士。認定理学療法士(運動器)。
星城大学リハビリテーション学部理学療法学専攻卒業。浜松医科大学附属病院リハビリテーション部入職。星城大学大学院健康支援学研究科修了。
大学病院への勤務時代は、整形外科疾患、がんのリハビリテーションを中心に幅広い疾患のリハビリテーションに従事。院内の緩和ケアチームにも携わり多職種連携を心がけている。
臨床業務以外にも研究活動や学生の指導など教育、地域包括リーダーとして地域包括ケアの構築にも力を入れている。

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