【障がい者の就労支援】作業療法士に求められる役割とは?
公開日:2022.11.02 更新日:2022.12.08
文:田口 昇平
(作業療法士、福祉住環境コーディネーター2級)
医療機関や福祉施設などで働く作業療法士のなかには、障がい者の就労支援に携わる方もいるでしょう。障がい者の社会参加として、「就労」は、重要な課題です。
厚生労働省の「障害者雇用状況の集計結果(2021年)」によると、2021年時点で民間企業に雇用されている障がい者の人数は約59.8万人とされており、18年連続で増えると同時に、過去最高を更新しています。
社会で働く障がい者が増えれば、作業療法士による就労支援もますます必要となるでしょう。そこで今回は、障がい者の就労支援にあたり、作業療法士に求められる役割についてお伝えします。
障がい者が就労する2つの方法
作業療法士は、医療機関や福祉施設などで、一般就労・福祉的就労を目指す障がい者にさまざまな支援をおこなっています。
一口に「就労」といっても、障がい者の働き方はさまざまなケースがあり、代表的なのが以下の2つの方法です。まずは、障がい者の働き方を整理してみましょう。
一般就労
一般就労とは、民間企業や公的機関などに就職し、労働契約を結んで働く就労形態です。
一般就労には、さらに、健常者と同じように働く「一般雇用」と、障がいに配慮した環境で働く「障がい者雇用」の2種類があります。
福祉的就労
福祉的就労とは、一般就労が困難な障がい者が、就労継続支援施設などの障害福祉サービスを受けながら、就労の機会を得て働く就労形態です。
作業療法士に求められる役割
では、障がい者の就労支援にあたり、作業療法士は、どのような役割を担っているのでしょうか?つづいては、作業療法士に求められる役割を紹介します。
①仕事で必要となる作業能力の評価
就労支援では、まずは、クライアントとなる障がい者の作業能力を評価する必要があります。
作業療法士は、クライアントの希望を聴取し、仕事で必要となる作業を確認するとともに、そうした作業に対応できる能力があるか、そのレベルはどれくらいかを評価するものです。
例えば、クライアントがデスクワーク中心の仕事で就労を希望している場合には、タイピングしたり、ソフトウェアを使って文章や表・図を作成したりできるかなど、実際の業務内容・就業環境をシミュレーションします。
また、実務だけではなく、一定時間座って作業できるか、上司・同僚とコミュニケーションをとれるか、計画的に仕事を進捗できるかなど、仕事全体を通して、ひとつひとつ作業能力を評価することが大切です。
クライアントの希望業種が決まっていない場合は、仕事で必要とされる基礎的な能力を評価することになるでしょう。
例えば、屋外を移動する、物品を運ぶ、書類をまとめる、文章を書く、パソコンを操作するといった行為は、業種を問わず必要となる作業です。
このような作業を評価し、クライアント自身が自分のできる作業・苦手な作業を知ることができれば、業種選択がしやすくなるとともに、就労に向けた訓練目標も見出しやすいでしょう。
②就労に向けた訓練
上述した作業能力の評価に基づき、就労に向けて必要となる業務の訓練をおこないます。
訓練は、実際の業務内容・就業環境をシミュレーションしておこなうことが大切です。
例えば、物品の仕分け作業が中心となる仕事に就く場合、大きさや重さ・形の異なるさまざまな物品を用意し、所定の距離を移動したり、場所に運んだりする訓練をおこないます。
また、段差を昇降したり、狭い通路を移動したりといった条件下で物品を運ぶ必要があれば、そうした環境を設定して訓練するのもポイントです。
クライアントが、スムーズに会社の業務に移行できるようにするには、就職後の業務内容・就業環境にできる限り近い状況を設定し、訓練することが大切です。
③会社や福祉施設との情報共有
クライアントの就労について、会社や福祉施設と情報共有を図るのも、作業療法士に求められる重要な役割です。「障がい者を雇用する」といっても、採用した会社側からすれば、どのような配慮が必要なのかわからないものです。
業務内容や就業環境に対して適切な配慮がなされなければ、本人の能力を十分に発揮することは難しいでしょう。そのため、作業療法士は、クライアントの作業能力や配慮点について会社側に情報提供することが重要です。
すでに就労先が決まっているのであれば、医療機関や福祉施設に会社の上司を招待し、会社を模した環境下でクライアントが働く様子を見てもらうのも良いでしょう。
また、医療機関に所属する作業療法士の場合、退院後に福祉施設で就労するクライアントを担当することもあります。そうした場合は、クライアントの機能・能力評価の結果を福祉施設に情報提供しましょう。
クライアントについてきめ細かい事前情報があれば、福祉施設のスタッフとしても、クライアントの配置や業務割り振りを適切におこないやすくなるでしょう。
就労支援のポイントは、「仕事の評価・訓練ばかりに気を取られないこと」
障がい者の就労支援というと、会社や福祉施設でうまく仕事をこなせるかどうかに注意を向けがちです。
しかし、そうした視点だけでは、上手にサポートできないケースもあります。ここからは、就労支援を成功させるポイントを2つお伝えします。
仕事を含めた日常生活全体を評価する
クライアントからすれば、仕事は日常生活の一部です。「会社の実務」だけができるようになっても、その他の作業がままならないのであれば、職業生活をうまく営むことができないでしょう。
例えば、クライアントが車いすユーザーの場合、通勤ラッシュの電車に乗ることができず、実務ができても、そもそも会社に行く手段がないという問題が起こりがちです。
また、クライアントが精神疾患を抱えているのであれば、心身の疲れやすさを考慮して、余暇時間をしっかり確保しておく必要があるでしょう。あるいは、クライアントが主婦・主夫の役割も担っているのであれば、仕事以外に家事・育児などができる余力をつくっておく必要もあります。
このように、障がい者の就労支援をするには、仕事を生活の一部として捉え、クライアントの日常生活全体を評価する視点が大切です。
会社や福祉施設との連携を密にする
医療機関での就労支援では、その施設内で目先の問題を解決しようとしても、うまくいかないことがほとんどです。なぜなら、実際にクライアントが働く場所は、民間企業や公的機関・福祉施設であって、その医療機関ではないからです。
職場では、勤務時間が長かったり、さまざまな業務をおこなう必要があったりなど、医療機関でおこなう訓練と勝手の違うところが少なくありません。
職場と医療機関の環境のギャップを考えておかないと、「訓練ではできていたのに、職場では力が発揮できなかった」という事態になりかねないでしょう。そうした事態を防ぐには、就労先に対して、クライアントの作業能力や配慮点を情報提供しておくことがポイントです。
障がい者の雇用に不慣れな職場も少なくないので、クライアントに了承が得られれば、作業療法士から会社や福祉施設に積極的にコンタクトするようにしましょう。
きめ細かい評価と、積極的な情報共有を
今回は、障がい者の就労支援について、作業療法士の役割をお伝えしました。とりわけ大切なのは、
① クライアントの日常生活全体にわたり評価すること
② 会社や関係機関と情報共有すること
です。クライアントが能力を発揮しやすい労働環境がつくれれば、正確に業務をこなしたり、効率良く働けたりしやすくなり、長期にわたる就労につながりやすくなります。
きめ細かい評価と積極的な情報共有をおこない、作業療法士として、クライアントが思い描く生活が実現できるように支援していきましょう。
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参考
田口 昇平
作業療法士/福祉住環境コーディネーター2級
2008年に作業療法士免許取得後、東京都内のリハビリ専門病院や特別養護老人ホームなどの施設で医療や介護業務に従事。2018年より、フリーライターに転身。医療介護職の働き方や働きやすい労働環境づくりなど、幅広いテーマで執筆。心理学・脳科学分野の書籍を愛読し、学んだ内容をブログやSNSで情報発信している。
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