心因性嚥下障害を通してさぐる、言語聴覚士ができる心のケアとは?
公開日:2016.12.05 更新日:2016.12.19
嚥下がうまくいかない患者さんの多くには、機能的な障害があります。しかし、一部の患者さんは、不安や恐怖などの心的要因によって嚥下しづらい状況を感じていることも。嚥下障害を含む機能障害には、心理的要因が関係していることも少なくないのです。今回は心因性嚥下障害の症状と治療法、リハビリに取り入れやすい心理的サポートの方法をご紹介しましょう。
初診の訴えだけではわかりにくい心理的要因
心因性嚥下障害では、のどの詰まりを訴えるものの食事摂取の際に嚥下困難はなく、唾液を飲み込むようなときに異物感が強くなるといった特徴があります。心因性嚥下障害の場合、神経性食欲不振症などの摂食障害、心気神経症による咽頭異常感症、うつ病などによる嚥下困難といったさまざまな原因が考えられます。初診時に訴える症状は、器質的・機能的な嚥下障害と変わらないことが多いので注意が必要です。
心因性嚥下障害の治療法
嚥下への不安を感じる患者さんへの治療法は、患者さんがどの科を受診するかによって変わってきます。患者さんが初めから心療内科を受診している場合は、薬物療法とカウンセリングによって様子をみるケースがほとんどです。しかし多くの患者さんは、まず歯科や耳鼻咽喉科を受診し、原因が器質的なものかどうかを確認されるのではないでしょうか。
心因性嚥下障害が疑われる場合でも、言語聴覚士による嚥下訓練は有効です。リハビリを継続しながら医師とともに心理面のケアを試みましょう。嚥下訓練の効果が感じられず、ほかの心因性の症状が気になる場合には、精神科との連携を検討します。その場合には、精神科の担当医師に治療方針を確認しながらリハビリを進めること。医師とセラピストの関わり方に一貫性をもたせることで治療の効果が高まります。
また多くの精神薬は神経系に作用するため、薬剤性嚥下障害を起こす場合があり、患者さんによっては服薬によって症状が悪化したと感じるケースもあります。薬の副作用については医師や薬剤師に確認するとよいでしょう。どちらにしても、セラピストによる心理的なサポートはとても重要であり、言語聴覚士としてリハビリを実践する場合には、下記の2点を参考にサポートにあたります。
・できたことを評価する
誤嚥を起こしたことを思い出したり、不安感でいっぱいになったりすると、改善に時間がかかります。心因性嚥下障害の患者さんは、失敗体験のイメージで頭がいっぱいになりがちで、小さな失敗が挫折感につながります。ささいなことでもできたことを評価し、成功するイメージに意識が向くようにうながしましょう。
・マイナス感情をなくそうとしない
心因性嚥下障害の患者さんは、失敗するイメージにとらわれながらも「(不安感や恐怖感などの)マイナス感情を100%なくそう」と考える傾向にあります。しかし、こうした感情を100%なくすのは不可能です。「誰しも不安はあるものだから、無理に取り去ろうとする必要はない」と伝えながら、肯定的なサポートを行います。
嚥下のプロが関わる心理的な意味
どんなリハビリであっても共通するのは、患者さんとの信頼関係が第一であること。あなたに対し、「この人ならわかってくれる」と患者さんが感じたときに初めて、安心して身をゆだね、難しいリハビリであっても積極的に取り組めるようになります。
心因性嚥下障害は、この「信頼」にフォーカスしたリハビリがとても大切です。「嚥下」という機能的な問題解決だけに意識を向けるのではなく、患者さんの気持ちをわかろうとすることをリハビリの中心にしましょう。心と身体の両面からサポートできる言語聴覚士こそ、信頼できるリハビリのプロとして存在価値があるのです。
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