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「今すぐ実践可能なリハビリ」〜呼吸器疾患編〜

公開日:2020.06.23 更新日:2022.01.18

文:伊東浩樹  理学療法士・ NPO法人 地域医療連繋団体.Needs 代表理事
社会福祉法人もやい聖友会 地域医療連携室 室長

前回までは脳疾患の患者さんに対するリハビリテーションとして、急性期と回復期の脳梗塞、小脳梗塞の3回に分けて紹介しました。今回は新しいシリーズとなる「呼吸器疾患」に対するリハビリテーションのポイントをお伝えします。

呼吸器疾患とは?

呼吸器疾患は数多く存在しますが、そのなかでも理学療法の対象となるのは呼吸不全を呈する疾患です。まずは「呼吸不全」の概要について確認し、続けて疾患について理解を深めましょう。

呼吸不全とは

呼吸不全を説明する前に、まずは「呼吸」の仕組みについて確認しましょう。

呼吸には、「外呼吸」と「内呼吸」の2つがあります。細胞が酸素を利用することを「内呼吸(細胞呼吸)」といい、その後、二酸化炭素を体外に排出する過程が「外呼吸」にあたります。外気を取り込む、息を吐くといった行為そのものが外呼吸であり、取り込んだ酸素を体内で循環させることが内呼吸になる、といったイメージです。

呼吸不全は、外呼吸の異常があり、内呼吸も阻害されてしまう状態です。

酸素を取り込むことができないので、酸素をエネルギーに変えることができず、身体機能を維持することが困難になります。日本呼吸器学会では、動脈血中の酸素分圧が60mmHg以下になることを呼吸不全と定義しています。

また、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が45mmHg下となる状態を「I型呼吸不全」、45mmHgを超える状態を「II型呼吸不全」と呼びます。呼吸不全の状態が1ヶ月以上続いた場合には「慢性呼吸不全」と呼びます。

呼吸不全を呈する疾患

呼吸不全を呈する疾患は複数あります。ここでは各疾患の特徴を説明しましょう。

1)COPD(慢性閉塞性肺疾患)
タバコ煙などの有害物質を長期間、吸入および暴露することで生じた肺の炎症です。進行性であり、体を動かした際に徐々に生じる呼吸困難や慢性の咳と痰を特徴としています。

2)肺結核後遺症
抗結核薬がなかった1940年代に胸郭形成術や肺切除術などを受けた患者さんが、加齢によって呼吸機能が低下した際に出る症状です。COPDと同じく体を動かした際の呼吸苦や咳を特徴としていますが、先述したとおり、特定の原因によって起こるものを指します。

3)間質性肺炎
原因は不透明ですが何らかの原因で肺胞間質に炎症を生じる疾患の総称です。薬剤や膠原病が由来するといった原因がわかるもの以外で起こる突発性間質性肺炎などは予後不良とされており、平均生存期間は2.5〜5年とされています。

4)気管支喘息
アレルギー性炎症によって気道が過敏に反応して気道狭窄が生じ、繰り返し起こる咳や呼吸困難で特徴づけられる閉塞性呼吸器疾患です。気管支喘息に関しては、自然または治療による可逆性を示す疾患でもあります。

5)肺炎
肺胞に炎症が起きる疾患です。基本的には病原微生物が原因とされていることが多く、肺炎球菌性、緑膿菌性、マイコプラズマなどが挙げられます。肺炎の症状としては発熱と頭痛、全身倦怠感、食欲不振などがあり、痰や咳の有無や強度は、原因となる病原微生物によって異なります。基本的には感染症であるため、抗菌薬による治療が中心です。

6)誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎を発症した患者さんのうち、90%を占めるのが65歳以上の高齢者であり、高齢者が起こしやすい誤嚥と関連があるとされています。水分や食物などが咽頭下部の気道に侵入することが主な原因です。

7)無気肺
気管支や肺がさまざまな原因で閉塞したり圧迫されたりした結果、肺全体または一部の空気が極端に減少したり、空気が入っていない部分ができたりして、呼吸不全を起こします。病変のある肺に強烈な痛みが生じたり、発熱や急激な血圧の低下が起こったりする可能性がある疾患です。

理学療法評価

では、リハビリを実施する際の具体的な評価を確認しましょう。まずは、以下のような視点で理学療法評価を実施します。

理学所見

呼吸器疾患だけではなく、理学療法を実施するうえでは、事前の情報収集や問診がとても大切です。呼吸器疾患の患者さんの場合は特に、喫煙歴から現病歴につながりはないか、喫煙歴はなくても家族の喫煙はないか、会話をしている際に会話が息切れすることなく続くかなど事細かに見聞きする必要があります。

主観的な評価のポイント

1)呼吸困難の程度
呼吸不全の場合、理学療法士が客観視して評価できることはわずかであり、患者さんから、自身の状態を聞いて確認することが重要です。問診でよく話を聞いたうえで、呼吸苦について評価する必要があります。具体的には程度、持続時間、どのような日常生活を行うと増悪するかなどを評価しましょう。

2)胸痛
胸痛に関しても呼吸苦と同様で、他者にはわかりにくい部分です。評価としては胸痛が出るパターンの把握と痛みの持続時間、そして頻度を把握します。

3)全身状態
全身状態についての評価は幅広く、呼吸苦や咳などの症状によって食欲が減退していないか、それに伴う体重減少はないか、肺炎などの場合を含めて炎症により発熱や倦怠感はないかを評価しておくとよいでしょう。

4)理解度
呼吸器疾患の場合、喫煙が原因となることも多く、リハビリテーションにおける教育において禁煙指導が必要な場合もあります。そのため、今の状態とその原因についてどの程度理解しているのかを確認しておくことは、今後リハビリテーションを進めていくうえでとても大切です。

客観的な評価のポイント

ここで、客観的に評価を行う際に用いる視診、触診、打診、聴診などそれぞれのポイントをまとめます。

1)視診
視診において、まず呼吸数をチェックします。通常、成人で安静時、12〜20回/分が正常範囲です。25回/分以上が頻呼吸、11回/分は徐呼吸とされます。

上記の数値を元に、呼吸数が正常範囲にあるか否かを判断しましょう。吸気時間が長い場合は息が吸いにくいと考え、また、呼気時間の延長は息を吐きにくい状態だと考えます。

呼吸数を視覚的に確認する部位としては、背臥位の患者さんを側面から視る場合には、胸郭や腹部の動きを、頭側や足下からであれば左右の胸郭の拡張などの差異を視ることができます。呼吸パターンは腹式、胸式、胸腹式に分類されます。健常者では腹部が優位ではありますが、胸郭も動きます。そのため、腹部のみが動き、胸郭の動きが全く見られない場合は視診で異常を疑った方がよいでしょう。

2)触診
触診では胸郭の硬さ、可動性、左右差の有無を確認することが大切です。また、胸郭に対して徒手で圧迫を加える際、患者さんが不快に感じない程度の圧にすることが重要です。

触診によって得られる情報は、気管の変位があれば腫瘍や気胸などの可能性、呼吸に使用する筋緊張の評価などがあります。また、触診をすることで横隔膜の動きを把握することができるため、横隔膜の動きが十分にない場合は、呼吸に伴いエネルギー消費が多いことがわかります。こうした理由から、COPDの患者さんは横隔膜ではなく呼吸補助筋によって努力性の呼吸が頻回となり、呼吸苦を呈することが多くなる可能性があります。

3)打診
打診は胸部や腹部を指で叩くことで生じる音を頼りに、肺の状態を把握することが目的です。基本的には、評価する部位の肋間に利き手ではない方の中指を当て、やや体表に圧をかけて行います。そのまま、利き手の中指を密着させている中指のDIP関節目掛けて叩き、胸部全体を左右比較しながら打診していきます。濁音の場合は胸水貯留などの可能性、清音は健常者、鼓音は肺が過膨張している可能性があります。

4)聴診
聴診を行う際の準備として、まず、患者さんの側面に位置取ります。正面には座らないのは、飛沫による感染を防ぐためです。

上から左右に位置を変えていき、可能な方は背面も聴診するようにしましょう。その際には病変を見逃さないように2呼吸ずつ聴くことが大切です。呼吸音が減弱している場合は喘息や無気肺、胸水などが考えられ、増強している際には過換気症候群や一側肺の無気肺などが生じている可能性があります。それぞれ、水泡音や捻発音などの副雑音も胸水などの場所を把握するうえで大切です。しっかり評価しておくようにしましょう。

5)その他
呼吸に関する評価だけでなく、社会復帰を目指すために、現時点でどれくらい運動ができるのかを評価したうえで、ADLにつなげていかなくてはいけません。そのため呼吸器疾患の患者さんにおいては、自転車エルゴメーターや6分間歩行で運動耐用能を評価してリハビリ前後の効果判定に用いることがあります。

理学療法

続いて、具体的なリハビリテーションのポイントをまとめます。

1)コンディショニング
呼吸器疾患を呈した患者さんは全身の筋肉や、関節の柔軟性低下、身体機能の失調を認めることがよくあります。そのため、まずはリラクゼーションや呼吸練習などを実施し、全身のコンディションを整えてから徐々に運動療法に移っていくようにしましょう。

特に、リラクゼーションにおいては、患者さんが安心できるポジショニングが大切であり、安楽な姿勢を把握し、運動療法の際にはその姿勢をとるように意識します。そうすることで全身の筋緊張低下や不安感の解消など、呼吸練習をしやすい状況を生み出すといった良い効果が期待できます。

具体的には、リラックスした状態で頭頸部や胸部、肩甲骨周囲筋のストレッチや、口すぼめ呼吸などを指導します。その他、排痰や呼吸介助に伴う手技についても実施することがありますがその場合、医師の指示に従って安全に行うことが大切です。

2)運動療法
呼吸器疾患の患者さんへ運動療法を実施していく場合、
①運動に対する恐怖感を解消させる
②個別性
③ADLを重視したプログラム
④下肢運動による全身持久力トレーニングを中心としたプログラムを立案する
といった点を重視します。

呼吸器疾患の患者さんは体動による呼吸苦を体感しており、常に不安を抱えています。できるだけ安心感を与えるためにも、個別で相談を受けられる環境を整えるとよいでしょう。面談時や問診時に、家屋情報なども聞いておくと、どのような運動療法を実施していけばよいかを考えやすくなるでしょう。

また、下肢を中心とした全身持久力トレーニングを実施する際には、自転車エルゴメーターや、歩行、階段昇降などその人の運動耐用能に合わせて考えていきましょう。患者さんごとの状況にもよりますが、当初の運動強度はBorgスケールの2〜3程度から開始した方がよいかもしれません。

3)教育
呼吸器疾患には、さまざまありますが、なかには原因が明確なものがあります。なかでも気をつけたいのは「喫煙」です。特にCOPDなどの患者さんは喫煙がきっかけで罹患してしまうことが多く、治療開始から自宅復帰後に再び喫煙をしてしまい、状態が悪くなることもあります。喫煙に関しては個人の裁量にはなりますが、喫煙によるリスクがある以上はセラピストとして自宅退院後の過ごし方を指導していく必要があります。

また、社会復帰する際に、身体機能維持として在宅酸素療法を開始する患者さんもいます。そうした患者さんには、接続部からの酸素漏れによる容量不足と火災、酸素を吸入することによるCo2ナルコーシスや酸素中毒について注意を促す必要があります。在宅酸素療法を実施する患者さんには、酸素の残量と吸入する酸素量の確認や火器使用時に関する注意点をしっかりと説明するようにしましょう。

まとめ

呼吸器疾患の原因はさまざまですが、自身の生活習慣から症状を招いてしまうことも多いのが実情です。生きるうえで呼吸は必要不可欠なことであり、まずは呼吸器疾患が軽度の場合は重症化しないよう予防をしていくことが大切です。また、在宅酸素療法などが必要となった際にも、どのようなことに気をつけていけば日常生活に支障なく暮らしていけるかを理解していただくことも、理学療法士の重要な役割といえるでしょう。

参考URL

参考文献

 
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