【新人教育のポイント】新人療法士の臨床スキルを高めるバイザーの指導方法
公開日:2020.10.27 更新日:2020.10.30
文:田口 昇平(作業療法士、福祉住環境コーディネーター2級)
新人療法士が入職して数か月。新人療法士も患者さんを担当するようになり、本格的な臨床業務を始めた時期ではないでしょうか。そうした独り立ちと同時に、自身の業務に追われてしまいバイザーと関わる時間が少なくなりがちです。新人が先輩療法士と同じように仕事ができるようになるには継続的なサポートが必要ですが、なかなか難しいと感じる指導者も多いことでしょう。限られた時間のなかでどのようにフォローを行えばよいのか。新人療法士の臨床スキルを高めるために、バイザーが意識したい指導のポイントについてお伝えします。
理学療法士・作業療法士に必要な臨床スキル
理学療法士・作業療法士が患者さんの支援をおこなっていくためには、「接遇・コミュニケーション」と「治療技術」のスキルは欠かせません。というのも、理学療法士・作業療法士はリハビリ医療を提供すると同時に、患者さんと信頼関係を築く必要があるからです。まずは、新人療法士に指導すべき基本的な臨床スキルについて確認していきましょう。
接遇・コミュニケーション
理学療法士・作業療法士は、医療職であると同時に、さまざまな人と関わりながらサービスを提供していく仕事といえます。患者さんやご家族、他職種、介護事業者などと良い関係性を築くためには、状況や相手に合わせて適切な対応が求められます。たとえば、リハビリの実施内容について難解な説明をしても患者さんは理解できません。とはいえ、くだけた言葉を使うと不快な思いをさせてしまう可能性もあります。接遇・コミュニケーション能力は、療法士自身や職場の信用を築くためにも、しっかりと身につけておくべきスキルです。
治療技術
理学療法士・作業療法士は、的確な評価や治療を通して、患者さんの病態や障害像を把握できることが重要です。新人療法士に起こりがちな問題として、病態や障害像を把握できず、日々のリハビリテーションをおこなっても患者さんに変化が起こりにくい点が挙げられます。結果、患者さんにデメリットが生じるばかりでなく、新人療法士自身が仕事へのやりがいや自信を失ってしまうものです。先輩療法士と同様の仕事ができるようになるには、理学療法士・作業療法士としての基本的な治療技術を身につける必要があります。
臨床スキルを高めるバイザーの指導方法
では、新人の独り立ちに向けて、バイザーはどのように指導をおこなっていけば良いのでしょうか? それぞれの臨床スキルを高めるために、具体的な指導方法を紹介しましょう。
接遇・コミュニケーションの指導は「先のばししない」
接遇・コミュニケーションを指導する時のポイントは、「問題が起こった直後に正しい方法をアドバイスすること」にあります。新人療法士の立場からすると、問題を起こした直後は危機感が強く、バイザーが与える反省点や対処方法のアドバイスを受け入れやすくなっています。しかし、直後の指導ができないまま時間が経過してしまうと、問題意識も低下し、バイザーがフィードバックをおこなっても新人療法士の言動を修正できなくなるでしょう。
理学療法士・作業療法士は、学校や養成校で、接遇・コミュニケーションについて学ぶ機会が少ないため、課題も多いものです。バイザーとして、問題が起こるごとにひとつずつ正しい方法を指導しましょう。
治療技術は患者さんのフォローを通じて指導する
治療技術を指導するには、新人療法士と患者さんをフォロー(治療代行)する機会を利用するとよいでしょう。近くで見たり、話を聞いたりするよりも、実際に代行することで、新人が治療業務で抱える課題を知ることができます。
リハビリがうまく進んでいないケースでは、たとえば、関節の動かし方、声かけの仕方、訓練時の介助方法など、治療方法になんらかの問題がある可能性が高いでしょう。バイザーはフォローを通じて新人療法士の問題を把握しながら、不足している治療技術を指導する必要があります。
また、バイザーが自分の担当患者さんを新人療法士にフォローさせてみるのも一案です。新人療法士として、先輩療法士がおこなっている治療内容を再現することで学びが深まります。うまく再現できたこと、できなかったことを共有できると、治療技術に関する課題も見えやすくなるでしょう。
新人指導について、他の療法士と情報を共有する
理学療法士・作業療法士の場合、新人療法士はバイザーよりも他の療法士と一緒に仕事をする機会が多くなります。
バイザーが見聞きしているのは、新人療法士がおこなっている仕事の一面に過ぎません。そのため、バイザーは普段はわからない新人療法士の状況について、自分から周囲のスタッフに聴取する必要があります。もしも、バイザーに見えている部分だけで新人療法士を評価したり指導したりしてしまうと、「あのバイザーは何も理解してくれない」と思われ、お互いの信頼関係が崩れてしまうことにもなりかねません。新人指導は他の療法士と情報を共有し、職場のスタッフとも協力しながらおこなうようにしましょう。
まとめ
新人が理学療法士・作業療法士として患者さんを支援するには、「接遇・コミュニケーション」「治療技術」の教育が欠かせません。バイザーと新人療法士は、問題や課題を共有しながら臨床スキルを高めるもの。教育には時間や労力がかかって当然です。しかし、そうした過程を経て、新人がスキルアップしていく様子を見られるのもバイザーの特権といえるでしょう。きっと新人の成長に達成感を得られるはずです。バイザーとして、患者さんから信頼される療法士の育成に向けて、継続的な指導をおこなっていきましょう。
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