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Oberテスト(オーバーテスト)とは?腸脛靭帯症候群を例に解説

公開日:2022.02.02 更新日:2023.10.12

文:臼田 滋(理学療法士)
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授

道具を使用しない整形外科的テストのひとつ「Oberテスト」は、PTやOTが臨床において使用する機会も多いため、正しく実施方法を知ることが肝心です。腸脛靭帯症候群を例に、評価やリハビリテーションにも言及します。

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Oberテスト(オーバーテスト)とは?

Oberテスト(Ober’s test)とは、側臥位で下肢の運動機能を評価するテストです。オーバーテストまたはオーベルテストと呼ばれます。原法は膝関節を屈曲させてテストしますが、伸展させてテストする変法(modified Ober’s test)があり、臨床的にはよく使用されています。

一般に「大腿筋膜張筋(Tensor Fasciae Latae: THL)」や「腸脛靱帯(Iliotibial band: ITB)」の硬さを評価するために使用されます。これらの筋・腱が硬くなり、伸張性が低下して、長さが短くなっているときに「陽性」となります。

ITBが関与する代表的な病態である「腸脛靭帯炎・腸脛靱帯症候群(Iliotibial band syndrome: ITBS)」は、ランナー膝とも呼ばれ、大腿骨外側上顆周囲の炎症です。膝関節の屈曲・伸展運動の繰り返しで、腸脛靱帯と大腿骨外側上顆の間の摩擦により炎症が生じます。

走行、自転車などでのオーバーユースにより発症し、このITBSにより、ITBが硬くなると、Oberテストが陽性になります。

腸脛靱帯の解剖・運動学的特徴

大腿部の筋全体の表面は、大腿筋膜により包まれています。大腿筋膜は、上方は鼠径靭帯・腸骨稜・仙骨外側縁および恥骨弓から、下方は下腿筋膜に続いています。その外側部の厚い組織が腸脛靭帯(ITB)です。

ITBの近位は、上前腸骨棘と腸骨稜、および大殿筋と大腿筋膜張筋の停止腱として起こり、大腿の外側を外側広筋の表面を下行して、脛骨上端の前外側部のGerdy結節につき、さらに下腿筋膜にも放散しています(図)。

ITBは、大腿筋膜張筋の停止腱として股関節の屈曲、外転、内旋の作用を有し、股関節から大腿、膝関節までの前額面の安定性に寄与します。特に膝関節については、大腿骨外側上顆の周辺を外側から補強するため、前述のITBSを生じやすくなります。

図:腸脛靭帯と大腿筋膜張筋・大殿筋

図:腸脛靭帯と大腿筋膜張筋・大殿筋

Oberテスト(オーバーテスト)の実施方法

Oberテストは、テストする側を上にした側臥位でテストします。詳しいやり方と陽性・陰性の判断について説明しましょう。

テストする際の姿勢

・患者をテストする側を上にした側臥位とします
・下側の股関節と膝関節を屈曲させ、腰椎の前彎(ぜんわん)を減らします
・検者は患者の後方に立ち、上側の骨盤と大転子を固定します
・検者はもう一方の手で、上側の膝関節から遠位の下腿部を保持し、膝関節を屈曲させます
・上側の股関節を伸展、外転させて、空間で保持します

テストの実施

・上側の下肢の支えを減らして、ゆっくりと下方へ下肢を下ろします:股関節内転
・その際に、上側の股関節が内旋や屈曲しないように骨盤を固定します
・股関節が内旋、屈曲するようであれば、腸脛靱帯が短縮している可能性があり、正確にテストされていません

陽性・陰性の判断

・上側の下肢が水平よりも下方へ下がり、疼痛が生じなければ、陰性です
・上側の下肢が下がらずに、股関節が外転したままで股関節の内転を矯正することで、患者が膝関節の外側に疼痛を認めるようであれば陽性です。腸脛靱帯が硬いことを示します

Oberテスト変法(オーバーテスト変法)の実施方法

Oberテスト変法(modified Ober’s test)も、Oberテストと同様に側臥位でテストします。原法よりも、膝関節の内側および膝蓋骨周囲の違和感を軽減し、大腿直筋の短縮による影響が軽減されます。

テストする際の姿勢

・患者をテストする側を上にした側臥位とします
・下側の股関節と膝関節を屈曲させ、腰椎の前彎を減らします
・検者は患者の後方に立ち、上側の骨盤と大転子を固定します
・検者はもう一方の手で、上側の下肢を下から支え、下肢を伸展させて保持します:股関節、膝関節ともに伸展
・上側の股関節を外転させます

テストの実施

・上側の下肢の支えを減らして、ゆっくりと下方へ下肢を下ろします:股関節内転
・上側の股関節が内旋しないように、骨盤と大腿部を保ちます
・その際に、上側の股関節が内旋や屈曲しないように骨盤を固定します

陽性・陰性の判断

・上側の膝関節が伸展したままで、骨盤が中間位のまま、上側の下肢が水平よりも下方へ下がり、疼痛が生じなければ陰性です
・上側の下肢が下がらずに、股関節が外転したままであれば陽性です。腸脛靱帯が硬いことを示します

Oberテストの信頼性と妥当性

Oberテストの信頼性や妥当性は十分に報告されていません。

▼Melchioneら(1993)
10名の膝関節痛を有する患者を対象にOberテストでの股関節内転角度の信頼性を報告しています。検者内信頼性と検者間信頼性の級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficients: ICC)は、それぞれ0.94と0.73であり、信頼性が確認されました。

▼Resseら(2003)
61名の健常者を対象に、OberテストとOberテスト変法での股関節内転角度の検者内信頼性と両者のテストの差を報告しています。Oberテストと変法のICCはそれぞれ0.90と0.91でした。また、Oberテストに比較して、変法の方が有意に内転角度は高値でした。

▼Willettら(2016)
献体された解剖実習用遺体を対象に、Oberテストの妥当性を報告しています。その結果、Oberテストと変法の股関節内転角度は、ITBよりも中殿筋、小殿筋および股関節の関節包の長さの方が、より影響していることが示唆されました。

腸脛靱帯症候群(ITBS)に対するリハビリテーション

腸脛靭帯症候群(ITBS)は、下肢の形態異常、筋の硬さ(柔軟性の低下)、筋力低下を背景に、過度な、あるいは不適切なトレーニングが原因で、オーバーユースにより発症するスポーツ障害です。

急性炎症に対する消炎鎮痛剤の使用やアイシング、十分な安静に加えて、ストレッチング、筋力トレーニング、適切なトレーニング器具・用具の使用、練習フォームの修正などを組み合わせてリハビリテーションを行います。

表:腸脛靭帯症候群(ITBS)の主な原因

表:腸脛靭帯症候群(ITBS)の主な原因

van der Worpら(2012) のシステマティックレビューでは、腸脛靱帯症候群(ITBS)に対するリハビリテーションは、股関節・膝関節の協調性トレーニングとランニングフォームに対するアプローチが必要で、柔軟性トレーニング、股関節の筋力トレーニング、ランニングシューズとトレーニングする際の路面のアドバイスが特に重要であると報告されています。

また、Mckayら(2020) の介入研究では、患者をITBのストレッチング群、従来のトレーニング群、股関節の筋力トレーニング群の3群に割り付けて、8週間のトレーニングを実施。その結果、症状や運動機能は、3群間で有意差を認めませんでしたが、股関節の筋力トレーニング群が最も改善する傾向を示したことが報告されています。

ストレッチングのみでのアプローチには、その有効性に限界がありますが、コンディショニングエクササイズとして、日常的なITBのストレッチングが重要です。

代表的なITBのストレッチングの方法を紹介します。

腸脛靱帯(ITB)に対するストレッチング

息を吐きながら、ゆっくりとストレッチし、20~30秒程度保持します。ストレッチしたい股関節を内転させることがポイント。5回程度繰り返します。

どの運動も、腰痛などの疼痛が生じない範囲で実施します。

立位での下肢の交差(左側のストレッチング)

1.真っ直ぐに立ちます
2.左足を、右足の後ろから交差させ、両方の小趾を揃えます
3.指先を床につけるように、体幹を前屈させて、左ITBを伸ばします

側臥位でのストレッチング(左側のストレッチング):Oberテストと同様の方法です

1.右を下に側臥位になります
2.右肘を床につきます
3.左膝を屈曲させ、股関節を伸展し、左手で、後方から左の足首を持ちます
4.左手で左足を後方にゆっくり引き、左の大腿前面をストレッチします
5.そのまま左の膝を床に下ろすように、左股関節を内転させて、左ITBを伸ばします

座位でのストレッチング(左側のストレッチング)

1.両足を前方に投げ出した長座位になります
2.左膝を立て、左足を右膝の外側に置いて、足を交差させます
3.左手を床につけ、体幹を左側へ回旋させながら、右肘を左膝の外側につけます
4.右肘で左膝を右方向へ押しながら、左股関節を内転させて、左ITBを伸ばします

背臥位でのストレッチング(左側のストレッチング)

1.背臥位になり、左股関節、膝関節を深く屈曲させます。右下肢は伸展したままです
2.右上肢を伸ばし、右前腕背側を左下腿外側部につけて、左股関節を内転させて、左ITBを伸ばします
※右側をストレッチングするときは、上記と反対の動きとなります。

ストレッチングは対象者にあったものを取り入れること

Oberテストにより腸脛靭帯(ITB)の硬さが認められたときは、対象者にあったストレッチングを日常的に取り入れていくことが大切です。

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[出典・参照]

Melchione WE, Sullivan MS: Reliability of measurements obtained by use of an instrument designed to indirectly measure iliotibial band length. J Orthop Sports Phys Ther 18(3): 511-5, 1993.

Reese NB, Bandy WD: Use of an inclinometer to measure flexibility of the iliotibial band using the Ober test and the modified Ober test: differences in magnitude and reliability of measurements. J Orthop Sports Phys Ther 33(6): 326-30, 2003.

Willett GM, Keim SA, Shostrom VK, Lomneth CS: An Anatomic Investigation of the Ober Test. Sports Med 44(3): 696-701, 2016.

van der Worp MP, van der Horst N, de Wijer A, Backx FJG, Nijhuis-van der Sanden MWG; Iliotibial band syndrome in runners: a systematic review, Sports Med 42(11): 696-92, 2012.

Mckay J, Maffulli N, Aicale R, Taunton J: Iliotibial band syndrome rehabilitation in female runners: a pilot randomized study. J Orthop Surg Res 15(1): 188, 2020.

臼田 滋

臼田 滋

群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
群馬県理学療法士協会理事
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。

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