増加傾向にある認知症において言語聴覚士の役割とは
公開日:2016.10.07 更新日:2021.10.14
ますます高齢化する社会のなかで、大きな課題となっているのが認知症の増加です。高齢者に多い嚥下機能障害に加え、認知症による言語障害が重なれば、さらなる生活力の低下につながってしまいます。認知症患者へのリハビリだけでなく、認知症予防にも期待される言語聴覚士の役割について考えてみましょう。
増加の一途をたどる認知症
認知症発症において、最大の危険因子といわれる加齢。高齢化社会が進むに伴い、認知症が増加傾向にあるのは当然のことともいえます。
厚生労働省が運営するメンタルヘルスのサイトによると、65~69歳で認知度の低下が認められた有病率は1.5%で、以後5歳ごとに倍増し、85歳ではなんと27%に達しています。また加齢を原因とした認知症だけではなく、脳血管性認知症、アルツハイマー病、頭部外傷後遺症、前頭葉変性症などの疾患も関わっています。原因はさまざまですが、どの認知症も共通して、「認知機能障害」「行動異常」「精神症状」といった症状が認められるものです。特に認知障害によるコミュニケーション能力の低下には、言語障害も大きく関わります。増えゆく患者数に対応するためにも、言語分野を専門とする言語聴覚士の役割は非常に大きいと言えるでしょう。
認知症患者に対する言語聴覚士としての役割
認知症におけるコミュニケーション障害は言語野だけではなく、大脳皮質の広い範囲に損傷が起きるため、記憶やその他機能の低下にも影響を与えます。これに行動、心理症状も重なり合って、目に見える症状は千差万別。同じコミュニケーション障害であったとしても、失語症と構音障害では対応の仕方が異なるため、両者の見極めや適切な対応が重要となります。そこで求められるのが言語聴覚士の専門性です。
言語聴覚士が関わる分野には高次脳機能(知能機能)、コミュニケーション、摂食、嚥下障害などがあり、それぞれの評価と訓練・指導と多岐に渡ります。言語聴覚士は総合的な知識を持つからこそ、認知症への対応が可能です。例えば、失語症と構音障害に対するアプローチが違うことは言語聴覚士には当然のこと。しかし患者さんの家族には理解が難しく、不安に感じてしまうことでしょう。
こうした認知症のリハビリに言語聴覚士が関わることで、家族間でのコミュニケーション方法も大きく変わります。
大切なのはコミュニケーション
高齢者のリハビリでは嚥下機能の訓練に加えて、認知症悪化を防ぐ環境づくりを意識しましょう。コミュニケーションがとりにくい環境が続けば、社会からの離脱が起こり、認知症の悪化を招きます。言語指導を行う際に気をつけたいポイントを紹介します。
- 行動障害が出た場合でも、焦らず、まずはセラピスト自身がリラックスすること。
- 患者さんの状態を可能な限り把握し、微細な評価を行っておくこと。
- 会話に集中できるよう、患者さんにわかりやすい位置、適切な距離感を保つこと。
- 強い刺激とならぬよう、ゆっくりしたスピードで、少し低めの穏やかな声色で話しかけること。
- ひとつの質問にはひとつの答えで済むよう、簡潔にわかりやすく、ゆっくり・はっきり話しかけること。
- 口調にはふだんより抑揚をつけることを意識し、視覚的な情報も活用すること。
患者さんの顔つき、声量、発語の状態を観察し、不快にさせないように適切な距離を維持することが大切です。急な気分の変化が起こりやすい患者さんや、投薬によって眠気が強く、そのために発語がうまくいかない患者さんもあります。特に、脳血管性認知症の場合、片麻痺や構音障害を伴うことが多いため、嚥下機能の訓練を含めたリハビリが必要になります。一方で、アルツハイマー型では、同じ失語症でも意味性認知症なのか、語義失語かによってもコミュニケーション方法が異なるため、認知症の種類によって、正しい評価を行うことがとても大切です。
どちらの場合でも、会話の内容はイメージしやすく単純なものから始めながら、リハビリの前後と比較した認知度の確認を行います。また、グループワークやこれまでの治療など、慣れ親しんでいて患者さんが得意だった題材を使うこともいい刺激となります。落ち着いた状態でリハビリを行い、会話をなるべく多く取り入れることで、より楽しみながらリハビリに取り組みやすくなるのではないでしょうか。
言語聴覚士だからこそできるケアを
コミュニケーションの分野に特化している言語聴覚士は、認知症の患者さんと医療スタッフ、そして家族の懸け橋となる存在です。認知症の患者さんが生活力を維持し、社会参画を継続するためにも言語聴覚士の存在には大きな責任があります。敬意と愛情をこめたリハビリで、認知症患者さんの助けとなりましょう。
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