理学療法士の腕が試される?歩行分析のポイントや歩行訓練の種類について解説
公開日:2022.12.09
文:rana(理学療法士)
どの領域においても、理学療法士なら必ずといっていいほど、歩行分析や歩行訓練を行います。歩行は、人間の基本動作の中でも重要な位置を占めており、理学療法士の得意とする専門領域といっても過言ではありません。とはいえ、歩行分析や歩行訓練に苦手意識を持っている理学療法士も多いのではないでしょうか。
今回は、経験年数14年目の理学療法士が歩行分析のポイントや歩行訓練の種類について詳しく解説します。
そもそも歩行とは?
直立二足歩行は、私たちが移動する手段として最も効率的な手段であり、人類だけが行える特異的な動作の一つです。元々人類は、四つ足歩行から進化して現在の二足歩行となったといわれています。サルやゴリラ、ダチョウなども二足歩行をしますが、胴体部分である体幹を直立させて歩く直立二足歩行を行えるのは人類だけです。
リハビリでは、病気や怪我などによって歩行能力が低下した人に対し、多くの理学療法士が歩行分析や歩行能力改善の介入を経験します。また、歩行は動き方のクセが現れるため、身体にかかっているストレスや筋肉の緊張を予測するためにも、理学療法士にとって重要な評価ツールにもなるのです。
正常歩行が理想的?
一般的に、書籍などには「正常歩行」の例が多く記載されていますが、実際にそのような歩行をしている人はどのくらいいるでしょうか。実際の歩行は、年齢や性別、スポーツ歴など人によってさまざまな特徴がみられます。
なお、筆者は理学療法士として14年の経験がありますが、「この人こそ正常歩行だ」と思ったことは一度もありません。一般的に正常歩行といわれている動きは、さまざまな人の平均を取った値が記載されている「平均歩行」と捉えた方がしっくりくるのではないかと筆者は考えています。
歩行は前に身体を運ぶ手段です。そのため、その人にとって効率的に前に進めていることが理想的な歩行であると考えた方が臨床的ではないでしょうか。
歩行分析のポイント
お伝えしたように、歩行にはさまざまなケースがあるため、歩行分析は多くの理学療法士が苦渋を強いられます。私もこれまでにたくさん悩んできました。多くの経験を積んだり、知見を得たりした結果、現在、筆者が臨床で行っている歩行分析のポイントは主に以下のものになります。
- ・動きに流動性はあるか
- ・動きにリズムはあるか
- ・いかに効率的に前に進めるか
- ・左右方向へのブレや動揺はないか
- ・過剰な回旋を呈している関節はないか
上記の点に着目しつつ歩行分析を行いますが、歩行周期全てを分析することは非常に困難です。そのため、筆者は、遊脚期はひとまず除外して、立脚期での動きを中心に分析を行っています。特に立脚初期から中期にかけては上半身・骨盤・下肢の左右方向へのブレに着目、立脚中期から後期にかけて股関節の伸展、足部の前方推進力に着目して分析を行います。分析をした後に何らかのアプローチをして、改善が得られていれば、効果的であると判断をします。
歩行訓練としてのアプローチの種類
歩行能力を向上させるためにはどのようなアプローチが行われるのでしょうか。主な種類についてまとめてみました。
1.可動域訓練
効率よく歩行するためには、必要な関節可動域を獲得しなければなりません。例を挙げると、正常といわれている歩行では足関節の背屈が10度、股関節の伸展が10度必要とされています。この可動域に制限があると、代償的な動作が生じ、歩行効率が悪くなったり、痛みを引き起こしたりして不都合が生じます。そのため、効率よく歩行できるための関節可動域を確保するためのアプローチが必要です。
2.筋力訓練
歩行時には、身体を支えるための筋力が必要とされます。筋力低下によって、力が発揮されなければ効率よく歩けません。そのため、歩行に必要な最低限の筋力を強化するための訓練を行います。
ポイントとして、どの歩行周期でどの筋肉が働くのか、主に歩行時は制御として遠心性に筋肉が働くことを念頭においてアプローチをするようにしましょう。
3.バランス訓練
歩行は立位で前方に進む動きとなるため、倒れないようにバランスを取る必要があります。特に高齢者はバランス能力が低下していることも多く、転倒リスクが高いことを念頭に置いておかなければなりません。安定した歩行ができるように、バランス訓練を行うことも多いでしょう。
歩行能力をアップさせる道具の種類
実際にリハビリを行っていても、完璧に元通りと言えるほど回復しない場合もあります。特に、脳卒中後の重度麻痺や、進行した関節変形などを抱える患者さんの場合、歩行能力が思うように向上しないことも少なくありません。そのような場合には、道具を使用し歩行能力をアップさせることも一つの手段です。主な手段について紹介していきます。
杖
歩行用の杖には、T字杖、4点杖、松葉杖、ロフストランド杖などの種類があり、患者さんの身体に合わせて選択します。
杖は患側の負担を軽減し、支持性を向上させることが一般的な役割として知られています。専門的には、歩行時における支持基底面を広げ、重心を健側に移動させることで負担を軽減し、歩行をスムーズにする役割といえるでしょう。
装具
歩行用の装具には、長下肢装具、短下肢装具、アキレス腱用装具、PTB免荷装具などの種類があります。それぞれ、疾患によって使い分けられますが、共通の役割として、身体の一部を外部から支えて歩行能力の向上や疼痛の軽減を図ることが挙げられます。
足底板
靴の中敷きに、足底板を入れて足のアーチを補てんすることも効果的な方法です。
足底板にはさまざまな種類がありますが、ただ足型を取って合わせるタイプより、歩行動作をチェックしながら作成する足底板の方が歩行能力アップには効果的なケースが多いでしょう。足底板には歩行だけではなく、パフォーマンスを向上させる効果も期待できるため、使用しているスポーツ選手も多くいます。
理学療法士なら歩行を必ずチェックしよう
歩行は人間の基本的な動作であり、歩き方からその人の動作のクセや、障害箇所のメカニカルストレスを拾えます。経験を積んでいかなければ難しい部分もありますが、とにかく場数を踏むことが重要です。動作分析のスペシャリストである理学療法士である以上、リハビリでは必ず歩行をチェックして考えることをおすすめします。
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rana(理学療法士)
総合病院やクリニックを中心に患者さんのリハビリに携わる。現在は整形外科に加え、訪問看護ステーションでも勤務。 腰痛や肩痛、歩行障害などを有する患者さんのリハビリに日々奮闘中。 業務をこなす傍らライターとしても活動し、健康、医療分野を中心に執筆実績多数。
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