【理学療法士実習生向け】「統合と解釈」と「考察」の違いと書き方について
公開日:2022.12.14 更新日:2023.09.25
文:rana(理学療法士)
理学療法士の実習では、症例レポートを作成する際、必ず「統合と解釈」、「考察」の項目を記載します。どちらも自分の考えを言葉にしてまとめる項目で、重要な意味合いを持ちますが、それぞれの具体的な内容や書き方にはどのような違いがあるのでしょうか。今回は、実習をがんばる学生に向けて、経験年数14年目の理学療法士が「統合と解釈」と「考察」の書き方や違いについて解説します。
実習レポートにおける「統合と解釈」「考察」の重要性
近年、理学療法士実習のあり方が変わり、レポート作成を行わない施設も増えてきているようです。しかし、私が理学療法士の学生だった頃は、実習で症例レポートを作成することは必須でした。約50ページにも及ぶ内容を、夜な夜なパソコンの前で作成していたことを思い出します。自分の考えを言語化し、まとめてレポートにする作業は、臨床で患者さんのリハビリを行う上でとても大切です。特に、自分の知識や思考過程を整理する「統合と解釈」と「考察」は重要なウエイトを占めています。
実際に新人教育するなかで、実習レポートを経験している人は、自分の考えを表出することが得意であるように感じています。学生のうちから自分の知識や思考過程を整理しておく経験は、今後の成長においても重要であるといえるでしょう。
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「統合と解釈」と「考察」の違い
では、改めて、実習レポートに記載する「統合と解釈」と「考察」にはどのような違いがあるのでしょうか。それぞれの意味合いについてまとめました。
「統合と解釈」
「統合と解釈」は、症例の動作レベルと検査結果との因果関係を結びつける作業をまとめる意味合いがあります。主に情報収集、動作観察・分析、検査測定、各種評価などを元に、問題点の抽出、目標設定までを記載します。得た情報や評価結果を統合させて、どのような意味を持つのかを解釈する作業といえるでしょう。
流れとしては
1. 症例の概要
2. 目標とする動作や能力
3. 問題となる動作
4. 評価との照らし合わせ
5. 今後の展望や改善のための要点
という形で記載すると良いでしょう。
「考察」
「考察」は、「統合と解釈」を元に立案したプログラムやアプローチが妥当であったかどうかをまとめる意味合いがあります。自分の仮説と、治療の方向性は正しかったのかなどを記載するため、症例を担当し、ひと段落してから全てを振り返る作業といえるでしょう。
行った評価や治療について全て記載すると、長くなりすぎたり、まとまりがなくなったりすることがあります。自分が伝えたいこと、重点をおいたことなどに要点を絞り、一つのことに着目して記載すると良いでしょう。
統合と解釈、考察の例文
「統合と解釈」と「考察」を言葉で表すと前述したようになりますが、ややイメージがつきにくいかもしれません。簡易ではありますが、実際の症例レポートに記載される例文を紹介しましょう。参考にしてみてください。
以下、対象となる患者像は、「大腿骨頸部骨折後に左人工関節置換術を施行した70代女性」とします。
「統合と解釈」例文
本症例は○月○日に買い物中に転倒し、大腿骨頸部骨折を呈した70歳代の女性である。○月○日に左股関節人工関節置換術を施行し、○月○日よりリハビリ開始となっている。HOPEは自宅復帰であるが、本人、同居する夫の希望から、自宅復帰するには身辺動作の自立が条件となる。
現在のADLは杖歩行見守りで身辺動作も自立しているが、自宅復帰後の家事動作や徒歩での長距離移動をするのが困難な状況である。
退院後の家事動作や趣味活動を行うために必要な歩行能力を獲得するための問題点を中心に、統合と解釈を述べていく。
本症例の歩行能力は、杖歩行見守りにて100mの連続歩行可能。しかし、距離が増えるに伴い、左臀部の疼痛や疲労感の訴えがあり、脈拍の上昇もみられている。
歩行では左立脚期初期から中期にかけてのトレンデレンブルグ徴候、中期から後期にかけての下腿前傾・股関節伸展不足が観察され、前方への推進力に乏しい動作となっている。
また、ふらつきもあることから、転倒リスクも高く、見守りは外せない状況である。自宅復帰するには、歩行距離の拡大、転倒リスクの解消が必要になる。
可動域は左股関節の伸展が−5度、左足関節の背屈が0度。下肢筋力は、左側中殿筋と大殿筋はMMTで3レベル。
また、歩行前と歩行後のバイタルチェックでは、収縮期血圧が20mmHgの上昇、心拍数は40回/分上昇していたことから、心肺機能低下もみられている。
上記から、歩行能力に必要な左股関節、足関節の可動域改善、中殿筋、大殿筋の筋力強化は必須であると考えられる。また、心肺機能向上を目的に、エアロバイクなどの有酸素運動も効果的ではないかと考えられる。
「考察」例文
本症例は左大腿骨頸部骨折後に人工関節置換術を行った70代女性である。退院時の目標である歩行能力の向上を獲得するために8週間の理学療法を実施した。
介入初期、本症例は杖歩行にて100mほどで疲労感と疼痛の訴えがあり、耐久性に乏しい様子であったが、最終評価時的には30分独歩での自立歩行を獲得し、退院の運びとなった。問題点であった、左股関節周囲筋の筋力低下に対しては中殿筋、大殿筋に対しての筋力トレーニングを実施。初回評価でMMT3レベルだった両筋はMMT5レベルに改善がみられた。
また、左股関節伸展、左足関節背屈制限に対しては静的ストレッチを継続して行い、最終評価時には歩行に必要な股関節伸展10度、背屈5度を獲得。
これらの改善により、効率の良い歩行が獲得できたことが本症例の目標達成に大きく影響したのではないかと考えられる。本症例は70代ということで、今後加齢による筋力低下や体力低下が懸念される。そのため、退院後も機能維持のために、行っていたリハビリメニューを自主トレとして継続することが必要であると考える。
臨床で成長するためには常にカルテに記載すること
今回は実習レポートにおける「統合と解釈」「考察」について例文を添えて解説しました。
実際に臨床に出ると、症例レポートほど濃い内容を記載する機会は少ないかもしれません。
しかし、日々のカルテで常に「統合と解釈」と「考察」を意識して記載することで、自分の考えを言語化することにつながり、理学療法士として成長できるものと筆者は感じています。実習生のうちからしっかりと自分の考えをまとめられるようにしておくことが大切です。
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rana(理学療法士)
総合病院やクリニックを中心に患者さんのリハビリに携わる。現在は整形外科に加え、訪問看護ステーションでも勤務。 腰痛や肩痛、歩行障害などを有する患者さんのリハビリに日々奮闘中。 業務をこなす傍らライターとしても活動し、健康、医療分野を中心に執筆実績多数。
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