作業療法士が行う芸術活動の性質と課題
公開日:2015.04.23 更新日:2015.05.11
作業療法において、芸術活動を治療媒体として扱うことは少なくありません。特に精神障害を持つ患者さんとの作業療法では利用率が非常に高く、中心的な治療手段として用いられています。今回の記事では、作業療法と同様に芸術活動を治療に用いる芸術療法と、作業療法における芸術活動の違いを明らかにし、作業療法ならではの芸術活動の特性、そして課題に迫ります。
作業療法と芸術療法における芸術の扱い方の違い
芸術療法では、音楽療法、絵画療法、ダンス療法、心理劇の鑑賞、詩歌療法など、さまざまな芸術のなかからひとつの分野を集中的に扱っている場合がほとんどです。これは、作業療法における芸術活動と芸術療法の大きな違いのひとつといえます。
複数の芸術様式を扱う表現アートセラピーという分野もあります。しかし、多様な芸術ジャンルを扱い包括的なアプローチを試みる表現アートセラピーと、治療を目的としてさまざまな作業活動のなかから患者さんに最も適した芸術活動を選びだす作業療法とでは、そのコンセプトが異なります。また、療法士がそれぞれの芸術分野において訓練を積み、専門知識や技術を取得する芸術療法に比べ、作業療法士の行う芸術活動は例外を除いて非専門的性格を持つといえるでしょう。
それでは、作業療法ならではの芸術活動の特性とは、どのようなものなのでしょうか。
作業療法における芸術活動の特性とは
目的中心
作業療法においては、第一に治療目的が設定され、治療計画は目的達成に合わせて立てられます。治療の経過において、常に目的が意識されているということです。一方、芸術療法においては目標設定とその実現よりも、芸術活動のプロセスや集団活動が重視される場合もあり、芸術を通しての経験が治療目的より重視されることがあります。
つまり、作業療法においては芸術を「作業」という枠のなかで捉え、目的達成のためにどのような作業活動でも利用しようという姿勢があるのです。各芸術分野における理論や手順が重視される芸術療法との大きな相違点がここにあります。たとえば絵画療法では、水彩絵の具、クレヨン、アクリル絵の具など、それぞれの素材の特徴を理解して作品制作をし、その中で自分の表現を探っていくプロセスが重要視されます。一方で作業療法での絵画制作は、初めに手のリハビリなどの目的があり、そのための手段として行われます。そのため、素材の性質や制作手順の理解などは必ずしも重視されないといえます。
作業療法ではこのような目的中心主義的な考え方があるために、クライアントの主体的関与が重視されます。芸術療法でも最近はクライアントの意思を尊重する傾向にありますが、それでも目標設定の時点でクライアントの意見を積極的に取り入れたという例は稀です。これは、芸術療法では治療者によって精神療法的操作が行われるケースが多いためと考えられるでしょう。
多様性・流動性
作業療法における芸術活動では、大衆芸術に属するバンド活動やビーズ細工のような手芸作品、複合的芸術活動である演劇、油画などの本格的な芸術作品など、実にさまざまな芸術分野が選択されます。そのうえ、ひとつの治療経過において、複数の活動が選択されることも珍しくありません。作業療法においては作業の定義がとても幅広いので、治療方法の特性として多様性や流動性が挙げられるのです。
作業療法における芸術活動の特性である多様性・流動性は、その芸術活動の幅広さに留まらず、治療目的の多様性にも反映されています。たとえばバンド活動を通して、上肢機能の改善、自信の向上、社会適応など、多様なことが目指されるのです。
また、治療の背景となる理論や学問においても、作業療法士は臨床の場において柔軟にさまざまな理論を取り入れようと試みます。クライアントの回復過程に合わせて活動内容や対応を変化させていくという考え方も、作業療法の流動性を示す重要な特性のひとつです。
作業療法士が行う芸術活動の課題
作業療法では明確な芸術観を検討されることが少なかったので、多様な芸術観に対して開かれていないという弱点があります。作業療法における芸術の捉え方はどちらかといえば古典的なもので、例えばアウトサイダーアートなど、一般の人の想像を超える芸術の存在、現代における芸術の変容に対しては無関心であったといえます。多様性・流動性の性質を持つ作業療法だからこそ、本来であればもっと芸術の自由さを取り入れることが可能なのではないのでしょうか。そのためには作業療法士もさまざまな芸術分野や議論に関心を向け、そこに関わろうとしていく態度が必要となります。
芸術に対する考察を深め、多種多様である芸術のあり方を受け入れること。そのための具体的方策を立て、芸術療法とはまた違った独自の芸術理論を確立していくこと。これらが作業療法における芸術活動をより深めるための今後の課題といえるでしょう。
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