認知症のリハビリとは?流れとアプローチ4選を解説
公開日:2025.02.07
文:奏かえで(作業療法士)
厚労省によると、認知症の患者数は2040年には584万人あまりと推計され、認知症は今後、さらに多くの人が直面する課題になるといえます。
認知症は記憶障害や判断力の低下だけでなく、不安や混乱といった心理的な負担もあり、生活に大きな影響を及ぼします。そのため、リハビリなどで少しでも症状を和らげたいところです。
この記事では、認知症の基礎知識から治療法、リハビリの流れや代表的なアプローチを4つ解説します。認知症への理解を深め、支援への一歩を踏み出してみてください。
認知症治療の基礎知識
まず、認知症治療の基礎知識について解説します。
認知症とは
認知症とは、脳の病気や障害などが原因で認知機能が低下し、日常生活に支障をきたしている状態です。
主な症状として、記憶障害や判断力の低下などが挙げられますが、その原因や症状は多岐にわたります。
主な認知症の型
代表的な認知症には、次の4つがあります。
アルツハイマー型認知症
認知症の原因で最も多いといわれているのが、アルツハイマー型認知症です。記憶障害から始まることが多く、失語や失認、失行などの症状が現れることがあります。
血管性認知症
脳梗塞や脳出血などの、脳血管障害によって引き起こされる認知症です。症状は障害を受けた脳の部位によって異なり、身体にまひを伴うことがあります。
レビー小体型認知症
認知機能が変動しやすく、症状が落ち着いている時間と、混乱している時間があるのが特徴です。幻視やパーキンソン症状が現れることもあります。
前頭側頭型認知症
主に前頭葉と側頭葉が障害される認知症です。行動の変化が目立つ「行動障害型」と、言葉の障害が目立つ「言語障害型」があります。
認知症の症状
認知症の主な症状は、大きく分けて次の2つです。
中核症状
脳の機能低下による直接的な症状。記憶障害、見当識障害、判断力の低下など。
周辺症状(BPSD)
中核症状によって現れる間接的な症状。不安、うつ状態、幻覚、妄想、徘徊、暴言・暴力など。
中核症状の根本的な改善は難しいとされているため、症状の進行を遅らせ、残存機能を維持する治療が基本です。
一方、周辺症状は環境や人間関係の影響が大きいため、環境調整や心の安定などによって軽減できる可能性があります。
認知症の治療法
認知症治療の目標は、認知機能の低下や症状の進行を抑え、残存機能を維持・向上させることです。
また、日常生活動作(ADL)の維持・改善を図り、その人らしく生活できるよう支援することで、生活の質(QOL)の向上を目指します。
治療は薬物療法と非薬物療法を組み合わせて行われ、非薬物療法に含まれるのがリハビリになります。
認知症リハビリの流れ
ここでは、認知症に対するリハビリの流れを具体的に解説します。
1. 評価
まず行われるのが、認知機能検査です。本人の状態を把握するために、ミニメンタルステート検査(MMSE)などを実施します。
加えてADLと、応用である手段的日常生活動作(IADL)の評価を行い、日常生活での強みと弱みを確認します。
2. 生活史の把握
認知症の症状だけでなく、本人やご家族からお話を伺って、本人の性格やこれまでの生活、価値観に目を向けて情報収集します。
周辺症状がある場合は、その人なりの理由があると考えて背景や要因を探り、適切な支援を考えます。
3. 目標設定
本人やご家族が「何に困っているか」を明確にし「できること」に焦点を当てた目標を設定します。
4. リハビリプログラムの立案と実施
個々の状況に合わせたプログラムを作成し、本人が「これならできそう」と感じられる内容を提案します。
5. 定期的な評価と調整
定期的に評価を行い、必要に応じてプログラムや支援内容を見直しましょう。
この一連の流れを通じて、本人の能力を最大限に引き出し、日常生活の改善とQOLの向上を目指します。
リハビリにおける認知症へのアプローチ4選
認知症のリハビリでは、中核症状と周辺症状に応じたアプローチが行われます。主な目的は認知機能の維持・向上や、行動・心理面でのサポートです。
ここからは、リハビリにおける認知症のアプローチ4選をご紹介します。
認知トレーニング
まず1つ目は認知トレーニングです。これは、主に注意障害や遂行機能障害を対象に行う手法です。具体的には、次の方法があります。
注意機能へのアプローチ
塗り絵や簡単な計算を通じて、注意を持続させる力や選択する力を高める。
遂行機能へのアプローチ
積み木で形を作る構成課題や、料理の献立や調理手順を考える課題を通じて、計画して実行する力を高める。
小学校低学年向けの計算問題などがよく使われますが、難易度は個々の能力に合わせて選ぶ必要があります。難しすぎると自信を失い、簡単すぎるとプライドを傷つける可能性があるため、慎重に調整しましょう。
ADL・IADLの再学習
2つ目は、ADL・IADLの再学習です。
個々の残存能力やニーズに応じて、食事や更衣動作などのADLや、掃除や料理などのIADLの再学習が行われます。
ADLの再学習では、動作を繰り返し練習するだけでなく、工程をわかりやすくしたり、手順を簡略化したりといった工夫が大切です。また、肯定的なフィードバックを行うことで、成功体験を積むことができます。
IADLの再学習では、遂行機能を補う環境調整が有効です。例としては、次のものがあります。
・家電のボタンにラベルを貼り、操作手順を明示する。
これらの再学習を通じて、生活の自由度やQOLが高まるよう支援していきます。
回想法
3つ目は回想法です。これは、認知症の人が過去の体験を語ることで、不安やうつ状態の軽減、意欲向上、情緒の安定を目指す手法です。
認知症の人は新しいことを覚えるのが苦手ですが、昔の記憶は比較的よく保たれています。そこで、古い写真や懐かしい道具、昔の歌などを活用しながら会話を進め、思い出を振り返ってもらうのです。これにより、脳が活性化して活動性や集中力、自発性が高まることが期待できます。
正式な方法ではありませんが、リハビリ室で昔の歌謡曲を流すだけでも、過去を振り返るきっかけになることがあります。利用者さん同士で「懐かしいね」と話が弾んだり、「この曲がはやった頃はね」とスタッフに当時を語ってくれることも少なくありません。
アクティビティ
4つ目はアクティビティです。
認知症リハビリでは本人の興味や関心に合わせて、さまざまなアクティビティを行います。
・趣味活動(園芸や手工芸など)
・創作活動(絵画や工作など)
・運動活動(体操や風船バレーなど)
これらの活動により、次の効果が期待できます。
達成感の提供
「できた」という経験が自尊心や安心感の回復につながる。
社会的なつながりの促進
作業や活動を通して、人や社会との関わりを感じられる。
脳と体の活性化
脳への刺激や身体機能の維持につながる運動効果が得られる。
特に認知症の場合は、本人が慣れ親しんだ活動内容を選ぶと、抵抗なく取り組めるでしょう。実施する際は本人のペースに合わせて進め、疲れないよう適度に休憩しつつ行うことが大切です。
認知症のリハビリのポイント
最後に、認知症リハビリを行う上での大切なポイントを2つ解説します。
リハビリ拒否への対応
認知症の人がリハビリを拒否する場合は、無理に進めず、気持ちに寄り添うことが大切です。拒否の背景には、不安や混乱、疲労などが考えられるため、否定せずに共感しながら理由を探りましょう。
また、夕方など不安定になりやすい時間帯を避けるのも1つの方法です。個別でのリハビリが拒否されてしまう場合でも、仲のよい利用者さまと一緒なら応じていただけることもあります。このように、その人にとってリハビリに取り組みやすい環境を整えると、拒否が和らぐ可能性があります。
家族へのサポート
認知症である本人だけでなく、ご家族の負担を軽減する支援も大切です。具体的には、介助方法をわかりやすく伝えたり、困難な場面での対処法をアドバイスしたりすることが挙げられます。
また、ショートステイや訪問介護などの利用を提案することで、介護負担を軽減できるでしょう。ご家族が心身ともに健康であることが、本人の安心やよりよい介護環境につながります。
その人らしい未来を支えるリハビリを
認知症のリハビリは「今目の前に居る本人」だけでなく、その人がこれまで歩んできた人生や価値観を尊重しながら進めるものです。
個々の背景を踏まえ、残存能力へのアプローチや環境調整を行うことで、その人らしい「これからの人生」を支えることができます。
一人ひとりの歩みを大切にし、寄り添いながら未来への一歩を進めていきましょう。

奏かえで(作業療法士)
医療専門大学を卒業後、回復期病棟を経験しつつ、介護老人保健施設に10年以上勤務。高齢の利用者さんの日常生活動作(ADL)や認知症リハビリに力を入れ、一人ひとりに寄り添った支援を大切にしている。ライターとしても活動しており、医療と介護の現場で培った知識と経験を活かし、健康や医療に関する記事を執筆している。
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