腱板断裂とは? 原因、症状、リハビリ方法をわかりやすく解説
公開日:2025.02.08
文:加藤真太郎(理学療法士)
腱板断裂のリハビリで、「何をすればいいのか」「どのようなリハビリが効果的なのか」と迷う方も多いでしょう。リハビリを進めるにあたり、症状や患者さんの状況に応じた適切な対応が必要です。
この記事では、腱板断裂の基本的な知識からリハビリの目的や具体的な方法、日常生活での注意点までをわかりやすく解説します。
最後までご一読いただければ、きっと腱板断裂のリハビリについての理解が深まると思います。
腱板断裂とは
回旋筋腱板(別名:ローテーターカフ)は、肩甲骨と上腕骨を結ぶ4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)の総称で、これら筋肉の腱が1つの板に見えることから「腱板」といわれています。この腱板が、何かしらの原因で断裂してしまった状態を「腱板断裂」といいます。
腱板断裂の好発年齢は60代です。症状としては肩関節の運動障害、運動時痛、夜間痛などがあります。
腱板断裂の種類(部分断裂と完全断裂)
腱板断裂は、損傷の程度によって部分断裂と完全断裂に分類されます。部分断裂は腱板の一部が損傷した状態で、痛みや違和感を覚えながらもある程度の動きが可能です。
完全断裂は腱板が完全に切れており、肩関節の動きが大きく制限されます。
腱板断裂の原因
腱板断裂の主な原因は次のとおりです。
・肩関節の過度な使用
腱板断裂のリハビリを進めるうえで原因を理解していないと、患者さんの生活指導や気をつけてほしい動作を伝えることができません。そのため、腱板断裂の原因となる動作をしっかり理解しておきましょう。
加齢による変性と外傷による腱板断裂
年齢を重ねるにつれて、腱板の組織は徐々に劣化し、弾力性や強度が低下します。これは、血流の減少により腱板への栄養供給が不十分になることや、コラーゲン繊維の劣化など、組織自体の質的な変化によって引き起こされます。
脆弱になった組織に強い力(無理な姿勢で重たい物を持ち上げたり、転んで腕をひねったりなど)が加わると、腱板断裂を引き起こす可能性が高くなるわけです。
肩関節の過度な使用による腱板断裂
野球やテニス、水泳など、肩を多く使うスポーツをする人や、腕を頭より上に上げる作業が多い仕事をしている人は、腱板に繰り返し負担がかかります。その結果、小さな損傷が積み重なり、腱板断裂につながることがあります。
また、肩関節を過度に使用しているのに加えて、不良姿勢や生活習慣により筋力のバランスが崩れて一部の筋肉に過度な負荷がかかっている場合も、腱板断裂になる可能性があります。
腱板断裂の症状
腱板断裂の主な症状は、肩関節の痛みと機能障害です。腕を上げたり、後ろに回したりする動作で痛みが強まる場合が多く、夜間に痛みが増して睡眠を妨げることがきっかけで受診する方も多くいます。
肩の力が入らず、重い物を持ち上げるのが困難になったり、肩関節の可動域が狭くなったりなどの機能障害で、日常生活動作に支障が出る場合もあります。
痛みや動かしにくさから、肩関節を使う頻度が減ることにより筋力低下や可動域制限につながる場合があるため、注意が必要です。
腱板断裂はリハビリで治る?
腱板断裂がリハビリで治るかどうかは、損傷の程度や患者さんの年齢、生活スタイルなどさまざまな要因があるため、リハビリで治るとは言い切れません。
部分断裂の場合、リハビリで筋力強化や可動域の改善を図ることで、痛みの軽減や機能の回復が期待できます。一方、リハビリで断裂してしまった組織をつなげることはできないため、完全断裂の場合は手術が必要になるでしょう。
腱板断裂のリハビリの主な目的
腱板断裂の主なリハビリの目的は次の4つです。
・可動域の改善
・筋力強化
・日常生活動作の改善
それぞれ解説します。
痛みの軽減
痛みの軽減を図るために、物理療法(アイシングや超音波、電気刺激など)や痛みを引き起こす特定の動作を避けたり、活動量の調整などの患者指導を行います。
痛みはリハビリの意欲や生活の質低下につながるため、患者指導は、痛みの原因の1つである炎症を抑えるために大切なポイントになります。
可動域の改善
腱板断裂により肩関節の動きが制限されると、日常生活や仕事に支障をきたすことから、まずは、肩関節の柔軟性と可動域の拡大を目指します。
また、肩関節の動きが制限されることで、さらに可動域が低下する恐れもあります。強い痛みを出さないように注意しながら、可動域を改善できるようにストレッチや可動域訓練、姿勢の改善などを行います。
筋力強化
回旋筋腱板は、肩関節を安定させ、スムーズな動きを可能にするために欠かせない筋肉です。肩関節を動かす際に痛みがある場合は、等尺性収縮(関節を動かさずに筋肉を収縮させる運動)を活用するといいでしょう。
痛みの出現に注意しながら、少しずつ動きを加え、筋力を徐々に強化します。ただし、急に筋肉に強い収縮をさせると痛みが悪化する可能性があるため、無理をせず慎重に進めるようにします。
日常生活動作の改善
日常生活動作の改善は、患者さんが自立して生活を送るために重要なポイントです。肩関節の機能が低下すると、食事、着替え、洗髪などの基本的な動作にも支障が出ます。そのため、適切な動作パターンを身につけて肩関節への負担を軽減するための運動学習が必要となります。
また、高いところに物を置かない、洗濯物を干す高さを低くするなど、肩関節に負担をかけない工夫を取り入れるといいでしょう。
腱板断裂におすすめのリハビリ
腱板断裂におすすめのリハビリメニューは次の3つです。
・チューブを使った筋力トレーニング
・姿勢改善
それぞれ解説します。
肩関節周囲のストレッチング
腱板断裂の痛みが強い場合は、肩関節ではなく、肩甲骨の可動性を向上させる運動を行うといいでしょう。
痛みが落ち着いている場合は、痛みの出現に注意をしながら回旋筋腱板のストレッチングをします。ストレッチングの方法はたくさんあるため、患者さんの状態に合わせて適切なものを選択しましょう。
具体的な方法が知りたい場合は、「回旋筋腱板 ストレッチ方法」で検索してみてください。または、具体的な筋肉名(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)で検索するのもおすすめです。
チューブを使った筋力トレーニング
腱板断裂のリハビリで、チューブを使った筋力トレーニングは、肩の筋力を強化するために非常に効果的な方法です。
チューブは使用する色や持つ長さを調整することで抵抗量を変えられます。一般的に黄色➔赤➔青➔黒の順番でチューブが硬くなります。肩関節の状態に応じて、負荷を調整しながらトレーニングを進めてください。
とくに回旋筋腱板を鍛えるためには「外旋運動」や「内旋運動」が必要になりますが、その際はチューブトレーニングがおすすめです。トレーニング中は正しいフォームを心がけ、肩関節に不必要な負担がかからないように注意しましょう。
手術をしていたりや痛みが強かったりする場合は、主治医の指示に合わせてリハビリを進めてください。
姿勢改善
腱板断裂のリハビリでは、姿勢の改善も重要なポイントです。肩甲骨周の筋肉を適切に活用することで、肩関節の動きを安定させ、負担を軽減する効果があります。
デスクワークやスマートフォンの使用が多い人は、前かがみ姿勢が長時間になるのを避け、定期的に姿勢を整えることで肩関節への負担を減らすことができます。
姿勢が肩関節に影響を及ぼすため、リハビリでは姿勢へのアプローチが重要になります。
まとめ
腱板断裂は、肩の重要な筋肉群である回旋筋腱板が損傷する状態で、痛みや機能障害を引き起こします。リハビリは、損傷の程度に応じて適切な方法を選び、痛みの軽減、可動域の改善、筋力強化、そして日常生活動作の向上を目指します。
肩関節周囲のストレッチング、チューブを使った筋力トレーニング、姿勢改善が効果的です。これらを継続的に行うことで、肩関節の動きや痛みが改善し生活の質が向上するでしょう。

加藤真太郎
理学療法士/ダイエットインストラクター/姿勢改善アドバイザー
回復期の病院で8年間勤務し、その後は養成校の教員として働いている。副業として介護・医療分野を中心にライター業、筋トレ関連のブログ運営を行っている。プライベートでは3児の父親であり、日々子育てと仕事に奮闘している。
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