大腿骨転子部骨折のリハビリとは?おもな治療法や生活上でのポイントも解説
公開日:2025.02.05
文:内藤 かいせい(理学療法士)
大腿骨転子部骨折を発症した際に、どのようなリハビリや治療が行われるのか知りたい方はいませんか?大腿骨転子部骨折を発症した場合、治療の中心は手術によるものであり、その後のリハビリも重要です。
この記事では、大腿骨転子部骨折の概要や治療法、リハビリの内容をご紹介します。どのようなリハビリを行うのかを知ることで、大腿骨転子部骨折の治療をスムーズに進めるきっかけになるでしょう。
目次
大腿骨転子部骨折とは
大腿骨転子部骨折は、太ももの付け根にある大腿骨の転子部の一部が折れてしまう骨折です。転子部は、股関節を作っている大腿骨頭(球状の骨)の下側の比較的太い部分の場所です。
転子部骨折を発症すると、太ももの付け根に強い痛みが現れます。股関節を作っている骨が折れるため、体重を支えられなくなり、立つことや歩くことが困難になります。高齢者が発症した場合、寝たきりになって介護が必要となる要因となるので、早期からの対処が重要です。
大腿骨転子部骨折の原因
大腿骨転子部骨折のおもな原因は、転倒によるものです。高齢者の場合、交通事故や転落事故などの大きな衝撃でなくとも、転倒で容易に骨折することも珍しくありません。
この背景には、加齢にともなう骨粗鬆症の影響が大きく関係しています。骨粗鬆症によって骨の強度が低下すると、日常生活での些細な転倒でも骨折するリスクが高まるのです。とくに女性は骨粗鬆症になりやすいため、大腿骨の骨折を引き起こしやすく、発症割合は男性の約4倍とされています。
転倒によって股関節の強い痛みが続く場合は、転子部骨折を疑ったほうがよいでしょう。
大腿骨転子部骨折の治療
大腿骨転子部骨折を発症した場合、どのような治療が行われるのでしょうか。ここでは、具体的な治療内容について解説します。
保存療法
大腿骨転子部骨折の保存療法では、患部の安静を保ちながら痛みの軽減と骨の癒合を目指します。この治療は限られたケースでのみ選択され、例として大転子(転子部の側面の骨)のみの骨折で、骨片の転位がほとんどない場合があげられます。保存療法で行われる内容は、おもに以下のとおりです。
● 運動療法
高齢者の場合、長時間の寝たきりは身体機能を低下させ、さまざまな合併症を引き起こすリスクが高まります。そのため、治療中もできるだけ活動量を高めることが重要です。
手術療法
基本的に、大腿骨転子部骨折では手術による治療が第一選択となります。手術内容は骨折部位や患者さんの年齢など、さまざまな要素によって決定されます。代表的な手術方法としては、「ガンマネイル」や「プレート固定術」などです。
ガンマネイルとは、大腿骨のなかに髄内釘という金属棒を挿入して固定する方法です。プレート固定では、骨折部を金属プレートで固定します。また、骨折によって大腿骨が激しく損傷している場合は、大腿骨頭を人工物に入れ替える「人工股関節置換術」が行われるケースも珍しくありません。
手術後は、医療機関で定められたスケジュールに従ってリハビリが進められます。
大腿骨転子部骨折の手術後のリハビリ
大腿骨転子部骨折の手術後では、どのようなリハビリが行われるのでしょうか。ここでは、具体的なリハビリ内容について解説します。
筋トレ
手術後による筋力の低下を改善するために、筋トレが行われます。筋トレの内容は、その方の痛みや活動量の程度にあわせて実施します。たとえば、立った状態での積極的なリハビリが難しい場合は、お尻上げや膝伸ばしなどのベッド上での筋トレが中心です。
立った状態で運動できる場合は、スクワットや横歩きなどの重力下での筋トレが行われます。このような筋トレを継続し、問題なく生活を送れるようにするための筋力を確保します。
ストレッチ
ストレッチによって、筋肉の柔軟性改善を図ることも重要です。手術後は、安静期間や痛みなどによって筋肉の柔軟性が低下しやすくなります。筋肉が硬くなると足の動きが悪くなり、普段の動きに支障をきたす恐れがあります。
股関節まわりの筋肉をストレッチする方法は、以下のとおりです。
股関節前面についている「腸腰筋(ちょうようきん)」をストレッチする方法です。
1. あお向けになり、両足を伸ばす
2. 片膝を曲げて両手で支える
3. 片膝をできるだけ身体に近づけて、その状態を20秒ほどキープする
4. 反対の足で行う
太ももの裏についている「ハムストリングス」をストレッチする方法です。
1. イスに浅く座って片足を伸ばす
2. 伸ばした片足に向かって身体を傾ける
3. 身体を傾けた状態を20秒ほどキープする
4. 反対の足で行う
大腿骨転子部骨折のリハビリはどのくらい続けるべき?
大腿骨転子部骨折のリハビリは、最低でも術後6か月間は継続することが推奨されています。身体機能を改善するためにはリハビリが重要であり、早期に中断すると十分な回復が望めないからです。退院したとしても、術後6か月間はリハビリを継続しましょう。
ただし、これは6か月以降のリハビリが無駄というわけではありません。とくに高齢者の場合、リハビリの継続によって活動量を維持することは、健康寿命を延ばすきっかけにもなります。期間に関係なく、できるだけ活動量を高めることを心がけましょう。
大腿骨転子部骨折後のリハビリや生活でのポイント
大腿骨転子部骨折後は、リハビリや生活ではどのような点を注意すべきなのでしょうか。ここでは、具体的なポイントについて解説します。
股関節を曲げすぎないようにする
できるだけ股関節を曲げすぎないように注意してください。股関節を深く曲げると関節や筋肉に負担がかかりやすく、痛みが現れる恐れがあります。
とくに人工股関節置換術の手術を受けた方は脱臼のリスクがあるので、必ず避けましょう。そのほかにも足を大きく広げたり、ひねったりする動作にも注意が必要です。これらの問題を解消するには、和式から洋式のトイレに改修する、床ではなくイスに座る生活に切り替えるなどの工夫がおすすめです。
必要に応じて歩行補助具を使用する
歩行時の安定性を確保するために、必要に応じて歩行補助具を使用しましょう。手術後も股関節の不安定さや痛みがある場合、歩行時にふらつく原因となります。また、手術側の足をかばうことで反対側の負担が強くなり、結果的に両足に痛みが現れる場合もあるでしょう。
杖やシルバーカーなどの補助具を使用すれば股関節にかかる負担を軽減でき、安全な歩行につながります。ぜひ自分にあった歩行補助具を活用してみましょう。
大腿骨転子部骨折のリハビリをおさえておこう
大腿骨転子部骨折は、大腿骨の転子部が骨折した状態で、発症すると強い痛みをともないやすくなります。骨折をそのままにすると寝たきりのリスクが生じる恐れがあるため、早期からの治療が重要です。
治療は基本的に手術が行われ、場合によっては保存療法が実施されます。治療後はリハビリを継続し、身体機能の維持・改善に努めることも大切です。ぜひ今回の記事を参考にして、大腿骨転子部骨折のリハビリについて把握しておきましょう。

内藤 かいせい
理学療法士として回復期病院と訪問看護サービスに従事し、脳血管疾患や運動器疾患などの幅広い症例を経験する。リハビリで患者をサポートするとともに、全国規模の学会発表にも参加。 新しい業界にチャレンジしたいと決意し、2021年に独立する。現在はWebライターとして活動中。これまでの理学療法士の経験を活かして、医療や健康分野で多くの執筆・監修に携わっている。
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