下肢のMMTのやり方を解説|評価基準や実施中の注意点もご紹介
公開日:2025.02.28

文:内藤 かいせい(理学療法士)
下肢のMMTを評価する際に、どのようなやり方で行えばいいのか知りたい方はいませんか?MMTは筋力の程度を調べるための評価であり、筋肉ごとにやり方が大きく異なります。
この記事では下肢のMMTのやり方や、実施中の注意点をご紹介します。適切なやり方をおさえることで、スムーズかつ信頼性の高い評価を行えるでしょう。
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MMTの目的・意義
MMT(徒手筋力テスト)とは、患者さんの筋力を評価するための検査方法です。おもに筋力低下の有無や程度を判定することを目的として行われます。さらに、MMTは以下のような役割もあります。
● リハビリ実施後の効果判定
このように、MMTは幅広い場面で活躍できるため、うまく活用することで効果的なリハビリにつなげられるでしょう。
MMTの評価基準

MMTは、筋力の強さを0〜5の6段階で分類します。それぞれの数値の具体的な評価基準は以下のとおりです。
● 4(Good):抵抗を加えても関節の全可動域を動かせる
● 3(Fair):重力化で関節の全可動域を動かせる
● 2(Poor):重量を除けば関節の全可動域を動かせる
● 1(Trace):関節の動きがなく、筋収縮を確認できる
● 0(Zero):筋収縮を確認できない
これらの基準をもとに、それぞれの筋肉を評価します。
下肢のMMTのやり方
ここでは、臨床でよく評価をする下肢のMMTのやり方についてご紹介します。
股関節屈曲
股関節屈曲の作用がある「腸腰筋」の筋力を評価します。MMTを実施する手順は以下のとおりです。
1. イスや検査台に座ってもらう
2. イスや台に大腿をすべて乗せて、下腿は降ろしてもらう
3. イスや台に手を添えてもらう
4. 可動域の最終域まで股関節を屈曲してもらう
5. 検者は被検者の大腿遠位部から下方向に抵抗をかける
1. 側臥位になってもらい、上の下肢を支える
2. 下肢を支えた状態で股関節屈曲してもらう
3. 股関節屈曲が可能かどうかを評価する
1. 背臥位になってもらい、下肢を支える
2. 支えた股関節を屈曲し、力を入れてもらう
3. 腸腰筋の筋収縮を確認する
股関節伸展
股関節伸展の作用がある、「大殿筋・ハムストリングス」の筋力を評価します。
1. 腹臥位になってもらう
2. 膝を伸ばしたまま股関節を伸展し、足を最終域まで上げてもらう
3. 検者は大腿遠位部(または下腿遠位部)から下方向に抵抗をかける
1. 側臥位になってもらい、上の下肢を支える
2. 下肢を支えた状態で股関節伸展してもらう
3. 股関節伸展が可能かどうかを評価する
1. 腹臥位になってもらう
2. 股関節を伸展方向に力を入れてもらう
3. 大殿筋・ハムストリングスの筋収縮を確認する
股関節外転
股関節外転の作用がある、「中殿筋・小殿筋」の筋力を評価します。
1. 側臥位になり、上の下肢をやや股関節伸展位にしてもらう
2. 股関節を外転し、真上に足を上げてもらう
3. 検者は大腿遠位部(または下腿遠位部)から下方向に抵抗をかける
1. 背臥位になってもらい、片足を支える
2. 下肢を支えた状態で股関節外転してもらう
3. 股関節外転が可能かどうかを評価する
1. 背臥位になってもらい、片足を支える
2. 股関節外転方向に力を入れてもらう
3. 中殿筋・小殿筋の筋収縮を確認する
股関節内転
股関節内転の作用がある「内転筋群」の筋力を評価します。
1. 側臥位になってもらい、上の下肢を外転位の状態で支える
2. 下の足を内転してもらう
3. 検者は下の足の大腿遠位部から下方向に抵抗をかける
1. 背臥位になってもらい、片足を支える
2. 下肢を支えた状態で股関節内転してもらう
3. 股関節外転が可能かどうかを評価する
1. 背臥位になってもらい、片足を支える
2. 股関節内転方向に力を入れてもらう
3. 内転筋群の筋収縮を確認する
膝関節屈曲
膝関節屈曲の作用がある「ハムストリングス」の筋力を評価します。
1. 腹臥位になってもらい、膝を約45度屈曲してもらう
2. 検者は曲げた足の下腿遠位部から下方向に抵抗をかける
1. 側臥位になってもらい、上の下肢を支える
2. 下肢を支えた状態で膝関節屈曲してもらう
3. 膝関節屈曲が可能かどうかを評価する
1. 腹臥位になってもらい、膝が約45度になるように支える
2. 膝屈曲方向に力を入れてもらう
3. ハムストリングスの筋収縮を確認する
膝関節伸展
膝関節伸展の作用がある「大腿四頭筋」の筋力を評価します。
1. イスや検査台に座ってもらう
2. イスや台に手を添えてもらう
3. 膝関節を伸ばし切らない程度に伸展してもらう
4. 検者は膝裏を支えつつ、下腿遠位部から下方向に抵抗をかける
1. 側臥位になってもらい、上の下肢を支える
2. 下肢を支えた状態で膝関節伸展してもらう
3. 膝関節伸展が可能かどうかを評価する
1. 背臥位になってもらう
2. 膝伸展方向に力を入れてもらう
3. 大腿四頭筋の筋収縮を確認する
足関節底屈
足関節底屈の作用がある「下腿三頭筋」の筋力を評価します。
1. 立位になり、手すり等に軽く手で支えてもらう
2. 片足立ちになり、かかとを上げてもらう
3. 25回連続で行えればMMT5と判定する
4. 2〜24回行えたらMMT4と判定する
5. 1回行えたらMMT3と判定する
6. 1回も行えない場合は、MMT2の方法で評価する
1. 腹臥位になり、足関節を底屈してもらう
2. 検者は足首を支えつつ、足底部を下方向に抵抗をかける
3. 抵抗をかけても底屈を維持できる場合はMMT2と判定する
1. 腹臥位になってもらう
2. 足関節底屈方向に力を入れてもらう
3. 下腿三頭筋の筋収縮を確認する
足関節背屈
足関節背屈の作用がある「前脛骨筋」の筋力を評価します。
1. イスや検査台に座ってもらう
2. 検者の大腿部に被検者のかかとを乗せる
3. 足関節を背屈してもらう
4. 検者は足首を支えつつ、足部背面から下方向に抵抗をかける
1. イスや検査台に座ってもらう
2. 足関節を背屈してもらう
3. 可動域の一部分を動かせればMMT2と判定する
1. イスや検査台に座ってもらう
2. 検者の大腿部に被検者のかかとを乗せる
3. 足関節背屈方向に力を入れてもらう
4. 前脛骨筋の筋収縮を確認する
MMTの注意点

MMTを正確に行うためには、いくつかの点に注意する必要があります。ここでは、MMTを実施する際の注意点について解説します。
代償動作が起きないように注意する
MMTを正確に評価するためには、代償動作を起こさないように注意しましょう。代償動作とは、本来評価したい筋肉以外の部位を使用して動作を行おうとする反応のことです。
たとえば、股関節屈曲のMMTを行う際に、上体が後ろに反って太ももを上げようとする反応があります。股関節外転の際は、股関節を屈曲させて「大腿筋膜張筋」の筋肉を使おうとすることも少なくありません。
このような代償動作に気づかずにMMTをすると、誤った評価をする可能性があります。正確にMMTを実施するには、それぞれの検査でどのような代償動作があるのかを把握しつつ、正しい肢位で行ってもらうことが重要です。
患者さんの疲労度に注意する
MMTを実施する際は、患者さんの疲労度にも注意を払いましょう。患者さんが疲れていると本来の筋力を発揮できず、正確な評価が難しくなります。患者さんの疲労をためないようにするには、朝の時間帯で評価をする、リハビリ前にMMTをするなどの工夫が大切です。
また、検査中は患者さんの表情や動作の変化にも注意を払いましょう。MMT中に苦しそうな表情を浮かべていたら、一度休憩を挟むのもおすすめです。
抵抗の強さを一定にする
MMTの評価を行う際は、一定の抵抗をかけることが重要です。抵抗の強さにばらつきがあると、正確な評価ができなくなります。評価の信頼性を高めるためには、以下の点に気をつけることが大切です。
● 評価の前に軽く練習して力加減を確認する
患者さんの動きを最小限にする
MMTではさまざまな肢位で評価を行いますが、患者さんの動きは必要最小限にすることが大切です。肢位を毎回切り替えながら評価するのは非効率であり、患者さんの負担につながります。
MMTを行う際は、どの肢位でどの評価が行えるのかを把握したうえで、まとめて実施しましょう。たとえば、座位で下肢のMMTを行う際は、以下の評価を行えます。
● 膝関節伸展
● 足関節背屈
このように、肢位ごとにまとめて実施することで、スムーズな評価が可能です。
下肢のMMTのやり方をおさえておこう
MMTは、筋力の程度やリハビリプログラムの指標などに役立つ評価です。MMTを行う際は代償動作に気をつけつつ、抵抗の強さを一定に設定することが重要です。
またスムーズに評価するために、肢位ごとにまとめて実施することを心がけましょう。ぜひ今回の記事を参考にして、正確な下肢のMMTを評価してみてください。

内藤 かいせい
理学療法士として回復期病院と訪問看護サービスに従事し、脳血管疾患や運動器疾患などの幅広い症例を経験する。リハビリで患者をサポートするとともに、全国規模の学会発表にも参加。 新しい業界にチャレンジしたいと決意し、2021年に独立する。現在はWebライターとして活動中。これまでの理学療法士の経験を活かして、医療や健康分野で多くの執筆・監修に携わっている。
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