【高齢者向けバランス訓練】道具不要の訓練方法とリハビリする際の注意点を解説
公開日:2025.02.04 更新日:2025.02.05
文:かな(作業療法士)
高齢者のリハビリに携わっていると、歩行時にふらつきがある、転倒歴がある患者さんが多くいらっしゃるものです。そんなときに、バランス訓練を取り入れることもあるでしょう。
そこで今回は特別な道具がなくてもできる高齢者向けのバランス訓練や注意点などを解説します。
高齢者のバランス訓練前に行いたい評価方法
バランス訓練を取り入れる背景として、高齢の患者さんや利用者さんに転倒歴や歩行時が見受けられたというケースがほとんどでしょう。
しかし、その状況から、即座にバランス訓練を取り入れるのは早計です。リハビリを行うのであれば、訓練前後の比較は必須であり、先に、バランス機能の評価を行う必要があります。
一定期間、訓練を行ったあとの効果測定や、患者さんへの説明の際に客観的な材料として活用できます。まずは、特別な機器がなくてもできるバランス機能の評価法をいくつか紹介します。
開眼片脚立位
開眼片脚立位は、目を開けた状態でその場で片脚立ちしてもらい、維持できる秒数を測定するという静的な評価方法です。
片脚立ちになる際は、両手を腰にあててもらった状態で実施しましょう。以下の状態になったら、秒数のカウントを終了します。
● 軸足がずれる
● 手が腰から離れる
なお、年代別の平均値は以下の表の通りです。
65〜69歳 | 70〜74歳 | 75〜79歳 | 80歳〜 | |
平均値 | 40.8秒 | 32.5秒 | 25.5秒 | 16.2秒 |
TUG
TUG(Time up and go test)は、座位から歩いて再び座るまでの時間を計測する動的バランスの評価方法です。
実施方法は以下の通りです。
2. 椅子に座り、背もたれに背中をつけた状態でスタンバイする
3. スタートしたら、立って歩いてコーンをまわって椅子に座るまでの時間を計測する
なお、年代別の平均値は以下の表の通りです。
65〜69歳 | 70〜74歳 | 75〜79歳 | 80歳〜 | |
平均値 | 6.34秒 | 6.94秒 | 7.44秒 | 8.69秒 |
ファンクショナルリーチ
ファンクショナルリーチ(FR)は、足はそろえた立位の状態から、水平に手を伸ばしたときのバランス能力を測る動的な評価方法です。実施方法は以下の通りです。
2. 足の位置はそのままで、腕を水平にどこまで前に伸ばせるかを計測する
計測する際には、壁沿いで実施すると分かりやすいでしょう。
上記の3つの評価方法の他に、セラピストがよく用いる検査としてBBS(バーグバランススケール)もあります。
こちらは14項目のスコアによってバランス機能を点数化するものです。詳しくは以下記事をご覧ください。
■関連記事
BBS(バーグバランススケール)の具体的な評価方法について徹底解説
道具なし!高齢者のリハビリにおすすめのバランス訓練
評価を行い、高齢者にバランス訓練を導入しようと思っても、特別な道具が必要になると、訓練までのハードルが高くなってしまいます。
今回は、道具が不要で、自宅でもできるバランス訓練方法を3つ紹介します。
● タンデム歩行
● 横歩き
ダイナミックフラミンゴ療法
ダイナミックフラミンゴ療法は、1分間片脚立ちをするだけのシンプルなトレーニング方法です。
足を5cm程度上げたまま1分間片脚立ちを維持するように促します。ふらつきそうな場合は、セラピストが軽く手を添えて支えるか、手すりや机などに軽く触れた状態で実施します。
立位バランスの改善に加え、骨盤周囲筋の増強や大腿骨近位部の骨密度の改善が期待できます。
また、場所を選ばずに実施できるため、自宅でのリハビリ法として提案するのもよいでしょう。その際、転倒に十分注意するように伝えることが大切です。
タンデム歩行
タンデム歩行は、継ぎ足歩行とも呼ばれ、比較的、取り入れやすいバランス訓練です。
実施方法は以下の通りです。
2. 次に左足の指先に右足の踵をつけるように一歩出す
3. 1~2を繰り返す
上記の通り、継ぎ足で歩いて行く方法で、一本橋や綱の上を歩くようにイメージすると分かりやすいでしょう。
動的バランスの向上効果が期待できるうえ、この歩行自体が評価としても活用できます。
ただし、バランス機能の低下した高齢者の場合は、転倒リスクもあるため、十分注意して行ってください。
■関連記事
タンデム歩行とは?目的や評価のポイントについて解説
横歩き
横方向に歩くという訓練法です。いわゆるカニ歩きですが、中臀筋の強化につながり、歩行の安定性アップが期待できます。
やり方は非常にシンプルですが、難しさを感じる高齢者も多いため、きちんと真横に足が出せているかを注意して確認する必要があります。
また、体が前傾したり骨盤後傾位になったりしないように、姿勢もチェックしておきましょう。反対に、負荷を増やしたい場合は、セラバンドを足に巻いて行う方法もあります。
高齢者のリハビリでバランス訓練を行う際の注意点
バランス訓練自体は若い人でもトレーニングの一環として行う場合もありますが、高齢者の場合は、筋力トレーニングも併行することが大切です。
加えて、転倒リスクがあることを十分に注意しなければいけません。
筋力トレーニングも行う
高齢者はそもそも筋力低下している場合が多いため、バランス訓練単体ではなく、下肢や体幹の筋力トレーニンングも併行して行う方が望ましいでしょう。
バランス機能の評価に加え、筋力の評価も行ったうえで、適切な訓練方法を選ぶことが大切です。
訓練中の転倒に注意する
バランス訓練はその性質から必然的に不安定な動きとなりやすく、実施中の転倒リスクがあります。
特に、転倒歴がある高齢者であれば、手すりや平行棒といったつかめるものがある場所や、壁際など、すぐにもたれられる場所で行うとよいでしょう。最初は負荷の小さい訓練から始め、徐々に強度を上げるような訓練に移行します。
リハビリにおいて、患者さんの能力に合わせた内容と段階付けは非常に重要です。転倒に注意しながらも、より効果が期待できる負荷を探りましょう。
高齢者のバランス訓練の際は転倒に注意
高齢者のバランス機能を改善したいと思ったときに、特別な道具がなくてもバランス訓練は実施できます。ただし、正しい姿勢と取っているか確認したうえで、負荷を調整する必要があります。
また、リハビリで高齢者がバランス訓練を行う際は、事前にしっかり評価をしたうえで行いましょう。筋トレも併行して行い、実施の際には転倒に注意してください。正しく介入してバランス機能をアップと安定した歩行を目指しましょう。
参考
熊本地域リハビリテーション支援協議会|測定マニュアル
一般社団法人 日本運動器科学会|ダイナミックフラミンゴ療法
継ぎ足歩行練習が静的・動的リツイバランスに及ぼす影響

かな(作業療法士)
作業療法士/呼吸療法認定士・福祉住環境コーディネーター2級・がんのリハビリテーション研修修了
身体障害領域で15年以上勤務。特に維持期の患者さんの作業療法、退院支援に携わってきました。家では3人の子ども達に振り回されながら慌ただしい日々を送っています。趣味は読書とお菓子作り。
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