手根管症候群でやってはいけないことは?リハビリでの生活指導について解説
公開日:2025.04.06 更新日:2025.04.08

文:奏かえで(作業療法士)
手根管症候群は、神経の圧迫によって生じる末梢神経障害で最も多い疾患です。一生涯で発症する確率は約10%といわれており、リハビリの現場でも関わる機会の多い疾患です。
症状が進行するとしびれや痛みだけでなく、ボタンをかける、荷物を持つといった日常動作にも支障をきたしかねません。しかし適切な治療やリハビリを行えば、症状の進行を防ぎ、患者さんの負担を軽くできます。
この記事では、手根管症候群の基本的な知識に加え、やってはいけないこと、生活指導のポイントについて解説します。
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手根管症候群とは
手根管症候群は、手首にある「手根管」というトンネル内で正中神経が圧迫され、痛みやしびれが生じる疾患です。
手根管は、手首の骨と靭帯に囲まれた狭い通路で、中には正中神経と指を動かす腱が通っています。何らかの理由でこの手根管が狭くなると、正中神経が圧迫され、指先にしびれや痛みが生じます。
手根管症候群の主な症状

手根管症候群の症状は、主に次の2つです。
しびれや痛み
親指・人差し指、中指、薬指の親指側にしびれや痛みが出やすく、小指には症状が出ません。特に夜間や明け方に痛みが強まり、眠りを妨げることがあります。
ただし、手を振ったり姿勢を変えたりすると、一時的に和らぐのが特徴です。
運動障害
症状が進行すると母指球筋が衰え、ボタンをかけたり小銭をつまんだりといった細かい動作が難しくなります。
さらに悪化すると握力が低下し、物をしっかり握れなくなることがあります。
手根管症候群の原因

手根管症候群の多くは特発性(原因不明)です。その他の原因としては、次のものがあります。
● ホルモンバランスの変化(妊娠、出産、更年期など)
● 腱や滑膜の肥厚(加齢など)
● 炎症や血流障害(関節リウマチ、糖尿病など)
● 手根管の狭窄(骨折、外傷、ガングリオンなど)
● 長期間の透析(アミロイドの沈着など)
これらの要因により手根管内の圧力が高まり、正中神経が圧迫されることで、手根管症候群が引き起こされます。
手根管症候群のチェック方法
患者さんに手根管症候群が疑われる場合は、次のテストを行いましょう。
ティネル様兆候
指先や軽いハンマーを使って手根管の上を軽く叩き、指先にしびれや痛みが走る場合は、手根管症候群の疑いがあります。
ファーレンテスト
両手の甲を押し合わせて、手首を深く曲げてもらいましょう。このとき、指先にしびれが出る場合は、手根管症候群の可能性があります。
パーフェクトO徴候
親指と人差し指でOKサインをつくってもらいましょう。もし丸がきれいにつくれない場合は、手根管症候群によって母指球筋が衰えている可能性があります。
ただし、これらのチェックだけでは手根管症候群と確定できません。最終的な診断には、医師の診察と追加の検査が必要です。
手根管症候群の治療とリハビリ
手根管症候群の治療には保存療法と手術療法があり、症状に応じて選択します。
保存療法(軽症の場合)
しびれや痛みが軽く、筋萎縮がみられない場合は、手首を休めることを重視した保存療法が用いられます。主な治療法は次の3つです。
● 運動療法(関節可動域運動、筋力強化、神経滑走運動)
● 薬物療法(ステロイドの手根管内注射や内服・非ステロイド系消炎薬の使用)
手術療法(重症の場合)
保存療法で症状が改善しない場合や、症状が強い場合、母指球筋の萎縮が進行している場合は、次の手術を検討します。
● 母指対立再建術(母指の動きを回復させるために腱を移行する手術)
手術後は、機能回復を目標にリハビリが行われます。
手根管開放術後リハビリ
関節可動域運動、筋力強化、神経滑走運動など。
母指対立再建術後リハビリ
「腱移行術による機能再建術後プログラム」に沿って訓練を進め、腱の縫合部が安定したらピンチ動作の練習。
これらのリハビリに加え、必要に応じて生活指導を行います。特に保存療法では、生活の中で「やってはいけないこと」を中心に指導するといいでしょう。
手根管症候群でやってはいけないこと
手根管症候群の患者さんへの生活指導では、症状を悪化させる要因を避けるよう指導することが大切です。ここでは、手根管症候群の患者さんが避けるべき行動と、その対策について詳しく解説します。
長時間のパソコン・スマホ操作
長時間のマウスやキーボード操作、曲げた状態でスマホを持ち続けるなどの動作は、手根管に圧力がかかりやすいため注意が必要です。
対策方法
● スマホは両手で持ち、手首を曲げすぎないよう注意する
● 長時間の作業を避ける
手首に負担の少ない操作を意識できるよう、患者さんに合った改善策を考えましょう。
指先を使った細かい作業(裁縫、組み立て作業など)
調理や裁縫、機械の組み立て作業など、指先を使う細かい作業は手根管症候群の症状を増悪させる要因です。こうした動作は手首や指に負担をかけるだけでなく、手根管内の炎症を進行させる恐れがあります。
対策方法
● 道具の持ち方を工夫し、手に負担をかけにくい姿勢を意識する
● こまめに休憩をとる
患者さんが日常的に行う作業を確認し、無理のない範囲で作業方法の見直しを提案しましょう。
強く握る・強い負荷がかかる動作(調理・荷物の運搬など)
包丁を強く握る、重い荷物を持ち上げるといった動作は、手根管への圧力が増し、症状が悪化する恐れがあります。これらの動作は腱や神経に負担をかけるため、手根管症候群の患者さんは特に注意が必要です。
対策方法
● フライパンなどを持つ際は両手で持つ
● かばんはショルダーバッグやリュックを使い、重い荷物はカートで運ぶ
少しの工夫で手首への負担を軽減できるため、患者さんに合った方法を取り入れましょう。
手首を強く曲げる・反らす姿勢
手をついて体重をかけたり、自転車のハンドルを長時間握ったりする動作は、手根管を圧迫し症状を増悪させます。
対策方法
● 寝るときはスプリントを装着し、手首をまっすぐに保つ
● 痛みが強い場合は日中もスプリントを使い、手首を保護する
日常生活では手首を曲げたり反らしたりする場面が多いため、できるだけ負荷をかけないようにしましょう。
痛みを我慢する・無理に手を使う
「少しの痛みなら大丈夫」と手を使い続けると、症状が進行する恐れがあります。また、リハビリの一環でストレッチ指導をすることもありますが、無理に行うと手を痛める可能性があるので注意しましょう。
対策方法
● 自宅でストレッチを行う場合は、中止基準を伝える
無理をすると症状が悪化しかねないため、適度に休息をとるよう指導しましょう。
やってはいけないことを知り、適切な生活指導を
手根管症候群は、正中神経の圧迫によりしびれや痛みが生じ、進行すると日常生活に支障をきたす疾患です。症状を軽減するには、適切な治療やリハビリとともに、患者さん一人ひとりの生活習慣に合わせた指導が大切になります。
手根管症候群における「やってはいけないこと」を知り、患者さんが日常生活で無理なくできる改善策を提案しましょう。
参考
一般社団法人日本理学療法学会連合 理学療法ガイドライン第2版「第10章 手関節・手指機能障害理学療法ガイドライン」

奏かえで(作業療法士)
医療専門大学を卒業後、回復期病棟を経験しつつ、介護老人保健施設に10年以上勤務。高齢の利用者さんの日常生活動作(ADL)や認知症リハビリに力を入れ、一人ひとりに寄り添った支援を大切にしている。ライターとしても活動しており、医療と介護の現場で培った知識と経験を活かし、健康や医療に関する記事を執筆している。
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