トレンデレンブルグ歩行とは?原因や問題点、解決方法について解説
公開日:2025.05.23
文:rana(理学療法士)
リハビリに携わるセラピストなら「トレンデレンブルグ歩行」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。
トレンデレンブルグ歩行は、整形疾患、脳血管疾患、老年期障害など、さまざまな分野でみられる特徴的な歩行を指します。トレンデレンブルグ歩行は、何を原因として生じ、どのような問題を引き起こすのでしょうか。
本記事ではトレンデレンブルグ歩行とは何か、原因や問題点、解決方法を現役理学療法士が解説していきます。
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目次
トレンデレンブルグ歩行とは?
トレンデレンブルグ歩行とは、歩行時に、患側と反対側に骨盤が傾斜し、体が垂直位を保てずに側屈してしまう歩行障害の一つです。
ドイツの外科医であるトレンデレンブルグが歩行時に生じるこの現象を報告したことが名前の由来です。
例えば、右の下肢に問題がある場合、歩行における右の立脚期に骨盤が左傾斜してしまい、体幹が左側屈するのが臨床でよくみられるトレンデレンブルグ歩行です。
トレンデレンブルグ歩行が生じる原因
トレンデレンブルグ歩行が生じる原因はさまざまですが、主な原因として以下の4つが挙げられます。
● 股関節の可動域低下
● 体幹の筋力低下
● 床反力の影響
臨床では、何が原因でトレンデレンブルグ歩行が生じているのかを評価することが重要です。これら4つの原因について詳しくみていきましょう。
股関節外転筋の筋力低下
トレンデレンブルグ歩行の原因としてまず考えられるのは、股関節外転筋の筋力低下です。
特に中殿筋や小殿筋などの筋力低下があると、骨盤を水平に保つことができなくなるため、骨盤傾斜や体幹側屈が生じやすくなります。
股関節の可動域低下
股関節の関節可動域低下も、トレンデレンブルグ歩行になる原因の一つです。
なかでも股関節伸展や外転の可動域に制限が強いと、相対的に骨盤が傾斜してしまうため、トレンデレンブルグ歩行になりやすいといわれます。
体幹の筋力低下
体幹には腹直筋、腹斜筋、腹横筋、多裂筋、脊柱起立筋などがありますが、上半身を垂直に保つためにはこれらの筋が協調して働かなければなりません。
そのため、体幹の筋力低下があると重力に対して上半身を直立に保つのが難しくなり、トレンデレンブルグ歩行が生じる一因となります。
床反力の影響
足部や靴、中敷きなど、床反力から受ける影響もトレンデレンブルグ歩行を生じる原因と考えられます。
実際に、臨床におけるトレンデレンブルグ歩行は多くの場合、床反力が影響しています。建物でも土台である基礎が歪んでしまえば、柱や屋根が傾くのと一緒で、扁平足や外反母趾、外側の踵がすり減った靴、不適切な高さの中敷きなどはトレンデレンブルグ歩行につながってしまうのです。
トレンデレンブルグ歩行とデュシャンヌ歩行の違い
トレンデレンブルグ歩行と似たような跛行に「デュシャンヌ歩行」という現象があります。デュシャンヌ歩行では、トレンデレンブルグ歩行とは逆に、「患側に体幹が側屈してしまう」のが特徴です。例えば、右が患側だった場合、右の立脚期に体幹が右側屈してしまうのがデュシャンヌ歩行になります。
トレンデレンブルグ歩行と同様、デュシャンヌ歩行の原因は筋力低下や可動域制限、床反力の影響など多岐に渡るのが特徴です。
トレンデレンブルグ歩行によって生じる問題点
では、トレンデレンブルグ歩行が生じるとどのような問題があるのでしょうか。トレンデレンブルグ歩行によって生じる問題点についてまとめました。
関節の変形進行
トレンデレンブルグ歩行を呈すると、股関節や膝関節に対して剪断力が生じるため、関節面にストレスがかかります。
積み重なるストレスによって関節軟骨がすり減ってしまうため、関節の変形が進行する可能性があるでしょう。
腰や股関節の痛み
トレンデレンブルグ歩行では腰や股関節を繰り返し捻るような力が生じます。
そのため、腰や股関節を支える筋肉に過剰な負荷がかかり、痛みや疲労感を訴える方が少なくありません。症状によっては痛みが原因で、長く歩くことが困難になってしまう場合もあるでしょう。
転倒リスクの増大
トレンデレンブルグ歩行は、左右の重心移動が大きくなるため、歩く際にはバランス能力が求められます。
特に高齢者はバランス能力が低下している場合も多く、トレンデレンブルグ歩行によって転倒のリスクが増大してしまうでしょう。
トレンデレンブルグ歩行を改善させるポイント
多くの書籍や文献では、トレンデレンブルグ歩行を改善させるために有効な方法として「中殿筋の筋力強化」が挙げられています。
もちろん、中殿筋が弱っている場合は筋力強化が有効ですが、実際の臨床では、むしろ使いすぎて疲労してしまっているケースもよく目にします。
そのようなケースでは、中殿筋をトレーニングするような治療をすると、逆にトレンデレンブルグ歩行が悪化してしまう可能性もあります。
大切なのは自分が実施したアプローチで動作が改善するのか、悪化するのかをしっかりと見極めることです。
原因は一つとは限りませんし、どの筋肉を促通するのか、どの方向の可動域を改善すべきか、床反力がどう影響しているのかなどを広い視野で評価することが重要になります。
理学療法士の真骨頂である「動作分析」「歩行分析」を駆使して、アプローチ後の変化を捉えることが改善への一番の近道ではないでしょうか。
トレンデレンブルグ歩行を理解して臨床に活かそう
分野を問わず、理学療法士ならほとんどの方がトレンデレンブルグ歩行の診断や治療を経験するかと思います。
何が原因で、どのアプローチが最も有効か、理学療法士ならではの視点でしっかりと捉えられるようにしていきましょう。

rana(理学療法士)
総合病院やクリニックを中心に患者さんのリハビリに携わる。現在は整形外科に加え、訪問看護ステーションでも勤務。 腰痛や肩痛、歩行障害などを有する患者さんのリハビリに日々奮闘中。 業務をこなす傍らライターとしても活動し、健康、医療分野を中心に執筆実績多数。
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