関節モビライゼーションとは?効果ややり方を解説
公開日:2025.05.24
文:伊東浩樹(理学療法士)
理学療法士の手技にはマッサージやストレッチといったさまざまな選択肢があり、患者さんの疾患や身体面における筋肉、神経、骨などの状態を踏まえて適切な方法を選択していくことが重要です。
どの手技も習得するまでには時間がかかり、習得後も常にアップデートが必要です。
今回は、理学療法士の手技のなかでも整形的な手技である「関節モビライゼーション」に焦点をあて、効果や具体的なやり方について見ていきます。
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目次
関節モビライゼーションとは
そもそも「モビライゼーション」とは、特定の部位の動きを改善するために手技や運動を用いながら組織に働きかける技術の総称です。
モビライゼーションには大きく分けて、以下の3つがあります。
● 関節モビライゼーション
● 神経モビライゼーション
筋肉・筋膜・腱・靱帯などの軟部組織にアプローチする場合は軟部組織モビライゼーション、末梢神経に対するアプローチの場合は神経モビライゼーションを用います。
本記事で紹介する関節モビライゼーションは、関節系への構造的アプローチを行う手技の1つです。
理学療法士の手によって患者さんの関節を他動的に動かし治療をしていく場合に関節モビライゼーションが用いられます。
関節モビライゼーションの効果
関節モビライゼーションは、主に病気や怪我などによって関節が動かしづらい状況にある、もしくは痛みがある場合に、その関節の可動域を改善させたり、痛みを緩和させたりする効果が期待できます。
関節包や靱帯が硬くなると関節の動きが制限されますが、モビライゼーションにより徐々に可動域が改善されれば、関節痛の軽減や、安定性向上にもつながります。
そのため、慢性的な関節痛のほか、五十肩や、関節の術後リハビリなどにも関節モビライゼーションが用いられます。
関節モビライゼーションの効果を判定するには、関節可動域と疼痛を診ていくケースが多くなります。
関節モビライゼーションを実施できないケース
関節モビライゼーションには相応の効果が期待できますが、正しい状況で正しく用いることが必要です。
例えば、原因不明の痛みがある関節の場合、神経性の難病や炎症が起きている可能性があるため、関節モビライゼーションは実施してはいけません。
また、関節の動きが通常よりも顕著に大きい場合は骨折の可能性も考えられるため、関節を動かすこと自体がNGとなります。
関節内の滲出液が多く出ているとわかっている場合も、関節モビライゼーションを行わず、医師などに判断を仰ぐ必要があります。
関節モビライゼーションのやり方
関節モビライゼーションは以下の5つの動きを用いて行うことが多くなります。
● 圧迫
● 滑り
● 転がり
● 軸回旋
これら5つの動きを使いながら関節モビライゼーションを実施していきますが、実際に触れて、動かしながら覚えていくことが基本となりますので、研修に積極的に参加して学ぶことをおすすめします。
関節モビライゼーションを実施する際は、身体の構造と関節構造(正常な位置)などを理解しておくことが前提となりますが、特に、関節の遊び(joint play)と構成運動(component motion)からなる、「副運動」と呼ばれる関節包内運動についてはしっかりと理解しておかなければなりません。
理学療法士になる人は、学生時代から繰り返し「骨の動き」を勉強しているはずですので、学生時代に学んだ基礎が実際の施術にも役立つでしょう。
関節モビライゼーションとマッサージの違い
関節モビライゼーションとマッサージは一見似た手技に思えますが、関節モビライゼーションは関節や骨などを動かすことによる治療的アプローチですので、筋肉に働きかけるマッサージとは根本的に異なります。
マッサージは、筋肉をほぐし、血流を促進するリラクゼーション的アプローチです。
両者を混同せず、治療の目的や適応する疾患や器官などに応じて使い分けることが大切です。
関節モビライゼーションを活用しよう
理学療法士が行う治療にはさまざまな手技が用いられますが、今回は関節モビライゼーションを紹介しました。
関節モビライゼーションは、あくまで手技の1つであることを理解し、さまざまな手技があるなかで、何を選択するか、もしくは組み合わせるのかを考えていくことが理学療法士としての治療をスキルアップすることにつながります。
関節モビライゼーションについて学び、治療で使えるようになるまでには時間を要しますが、治療の選択肢が増えれば、さまざまな困りごとを抱えた患者さんに対応できる理学療法士になれるでしょう。
理学療法士として成長し続けるためにも、興味があれば関節モビライゼーションについて学び、活用していきましょう。
参考

伊東 浩樹(理学療法士)
理学療法士として総合病院で経験を積んだ後、予防医療の知識等を広めていくためにNPO法人を設立。その後、社会福祉法人にて障がい部門の責任者や特別養護ホームの施設長として勤務。医療機関の設立や行政から依頼を受けての講演、大学、専門学校等での講師なども勤める。
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