セラピストの基本!歩行周期における立脚相の役割を確認しよう
公開日:2025.06.02
文:伊東浩樹(理学療法士)
セラピスト、特に理学療法士にとって、歩行の分析と介入は必須のスキルとされています。
しかし、歩行評価に苦手意識があったり、限られた時間内で評価・介入・記録をこなすために、つい感覚や見た目だけで評価してしまったりするセラピストもいるかもしれません。
今回は、歩行周期を基本から振り返り、「立脚相」に焦点を当てた評価と介入のポイントを解説します。歩行評価が苦手な人も、明日からの臨床に活かせるようにぜひ最後までお読みください。
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歩行についての基礎知識
歩行は、二足を交互に使用し、身体を前方に推進する運動であり、人が生活するうえで、移動するための最も基本的な動作といえます。人間の歩行は、上肢・下肢・体幹・頭部といった全身の運動によって成り立っています。
ただ足を動かしているだけでなく、バランス・筋力・柔軟性・協調性・感覚入力・認知機能など、あらゆる身体機能を総合的に活用しているのです。また、歩いて移動するためには左右対称性やリズム、推進力もポイントとなります。
歩行周期とは
人が歩くとき、片方のかかとが地面についてから、再び同じかかとが地面につくまでの一連の動作を「歩行周期」といいます。この1周期には、「立脚相(stance phase)」と「遊脚期(swing phase)」が含まれています。
● 遊脚相:地面から足が離れている期間(歩行周期の約40%)
ランチョ・ロス・アミーゴ方式では、立脚相と遊脚相は、さらに以下の8つに分類されています。
①初期接地
歩行のなかで、かかとが地面に最初に触れる瞬間です。
このとき、股関節は約30°前に曲がっており、お尻の筋肉(臀筋群)の働きにより身体を安定させています。膝はほぼ真直ぐに近い状態で、太ももの前にある大腿四頭筋が支えています。足関節は中間位で、すねの前にある前脛骨筋が、筋肉の長さを変えずに収縮します(これを等尺性収縮といいます)。
②荷重応答期
かかとの接地から前足が地面に接地する期間です。このとき体重を片脚で受け止めるため、太ももの前の筋肉である大腿四頭筋や臀筋群が働き、足にかかる衝撃を和らげています。
③立脚中期
反対の足が地面から離れて、体重を支持脚のみで支えている状態です。このとき、支持脚の重心が最も高くなり、バランスを保つのが重要になります。臀部の横の筋肉(中臀筋)が骨盤を安定させる役割を果たします。
④立脚終期
かかとが地面を離れるまでの期間を指し、前方への推進力を生み出す重要な場面です。ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)が強く働き、足首を下に曲げる動き(底屈)を行います。
⑤前遊脚期
反対側の足がちょうど地面につくタイミング(初期接地)です。体重を支えるフェーズから、降り出すフェーズ(遊脚相)へと切り替わるとともに、腸腰筋が足を持ち上げる動き(股関節屈曲)を行います。
⑥遊脚初期
つま先が地面から離れ、大腿が前方へ出始める最初の段階です。足を前に降り出すために、股関節を曲げる腸腰筋、足首を持ち上げる前脛骨筋などが働きます。
⑦遊脚中期
大腿がさらに前に振り出され、足首がしっかりと上向きにキープされることで、つま先が地面につかないように調整しています。主にすねの前にある前脛骨筋が働きます。
⑧遊脚終期
膝が少し伸びて、かかとが地面につく準備に入ります。太ももの前にある大腿四頭筋と、太ももの裏にあるハムストリングスが協力して膝を安定させる動きをします。
立脚相の役割と重要性
立脚相は、歩行周期の約60%を占める、歩行においては最も安定性が求められるフェーズです。立脚相の役割は主に以下の4つに分類されます。
● 衝撃吸収:かかと接地に発生する衝撃を下肢全体と体幹で吸収します。
● 推進力の生成:足関節、膝関節、股関節の協調運動により身体を前方へ推進させます。
● バランス保持:重心が移動するにあたって、身体全体のバランスをコントロールします。
特に「②荷重応答期」や「③立脚中期」では、大殿筋や大腿四頭筋、腓腹筋などの筋活動が適切に機能しなければ、バランスを崩して転倒のリスクが高まります。
立脚相の安定性は、歩行の安全性とエネルギー効率にも大きく関与しているため、セラピストが最も注意深く評価・介入すべきポイントといえます。
理学療法士が立脚相へ関わるポイント
歩行において重要な立脚相に対するアプローチを行うときに、理学療法士として意識したい視点をまとめます。
荷重支持能力の評価と改善
荷重支持が不十分な場合、トレンデレンブルグ徴候(健肢側の骨盤が過度に下がる現象)が起き、歩行時に左右への偏位が生じます。
対策としては、中殿筋・小殿筋の筋力トレーニングや、片脚立位の安定性トレーニングが有効です。
衝撃吸収機能の最適化
初期接地から荷重応答期にかけては、膝関節の屈曲運動による衝撃吸収が不可欠です。
膝伸展拘縮がある場合、衝撃を腰椎や股関節が過剰に負担するため、膝関節可動域訓練が必要となってきます。
足関節の可動域と筋力
立脚終期からかかと離地までの足関節底屈可動域が制限されると、推進力が低下します。足関節の背屈・底屈の柔軟性と腓腹筋・ヒラメ筋の筋力を維持・向上させましょう。
姿勢と重心移動の指導
立脚中期は、重心が前方へ移動する最中であり、体幹の安定性とアライメントが鍵となります。体幹筋の強化や歩行時の姿勢修正指導が重要です。
動的バランスの訓練
片脚立脚時におけるバランス保持のために、バーグバランススケール(BBS)やファンクショナルリーチテスト(FRT)などの指標を用いてバランス能力を評価し、個別に動的バランスを訓練しましょう。
まとめ
歩行周期の理解は、理学療法士にとっての基本でありながら、臨床現場では深く考える機会が少ないかもしれません。
しかし、歩行周期のうち、特に立脚相は、歩行の安定性・安全性・効率性を左右する重要なフェーズであり、この部分への介入は患者さんの歩行機能とQOL向上に直結します。
歩行周期に関しては、理論を学ぶことも大切ですが、評価と治療を具体的に結びつける視点を持つことで、歩行分析に対する苦手意識が解消されるかもしれません。ぜひ、今回の内容を明日からのリハビリテーションに役立ててみてください。
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参考
観察による歩行分析 医学書院2005年6月1日初版 Kirsten Gotz-Neumann著
基礎運動学 医歯薬出版株式会社 1976年4月25日第1版 中村 隆一 著

伊東 浩樹(理学療法士)
理学療法士として総合病院で経験を積んだ後、予防医療の知識等を広めていくためにNPO法人を設立。医療機関の運営や地域医療に関する課題解決に携わる。障がい福祉に関する責任者、特別養護老人ホームの施設長なども経験。医療機関の設立や行政から依頼を受けての講演、大学、専門学校等での講師なども勤める。

監修:中原 義人(理学療法士)
札幌医科大学保健医療学部理学療法学科 卒業
急性期病院、訪問看護ステーション、慢性期病院にて勤務。通所・訪問リハビリテーションの立ち上げを経験。
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