内反尖足とは?原因や日常生活への影響、対処方法について解説
公開日:2025.06.04
文:rana(理学療法士)
リハビリに携わるセラピストなら「内反尖足(ないはんせんそく)」という言葉を一度は聞いたことがあるでしょう。
足部の変形である内反尖足は、歩行や立ち上がりなどの動作に大きな支障をきたすため、しっかりと状態を把握したうえでリハビリを進めていく必要があります。
今回は、内反尖足とは何か、原因やメカニズム、対処方法などについて現役理学療法士が解説します。
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内反尖足とは?
内反尖足とは、足関節が底屈と内反の方向へ偏位してしまう病態です。足関節の主な底屈筋である腓腹筋、ヒラメ筋、後脛骨筋の痙性麻痺(痙縮)や短縮、さらに前脛骨筋や腓骨筋群の筋力低下、協調性低下などによってアライメントが崩れることで生じます。
内反尖足は、関節が拘縮を起こして動きが生じない「固定変形」と、可動性はあるものの筋の協調性低下が生じている「動的変形」とに分けられ、理学療法士には臨床的な見極めが求められます。
内反尖足になる原因
内反尖足が生じる原因は、主に以下の2つに分けられます。
● 先天的な要因
それぞれ解説します。
脳卒中による痙性麻痺
内反尖足の原因として最も多いのは、脳卒中後の錐体路障害による痙性麻痺です。
このケースは、回復期の病院や脳卒中のリハビリに携わる理学療法士であれば多くの方が経験するでしょう。
痙性麻痺では、抗重力筋の異常な筋緊張がみられ、自分の意思とは関係なく筋肉が反復的に収縮と弛緩を繰り返す異常運動(クローヌス)が生じることもあります。
先天的な要因
先天的な内反尖足は、新生児において1000〜2000人に1人の割合で発生するとされています。骨の構造異常、関節包や靭帯の短縮、筋の発達異常などが複合的に関与して内反尖足に至ります。
内反尖足による日常生活への影響
内反尖足になると日常生活に影響を及ぼし、さまざまな支障をきたします。内反尖足による日常生活への影響についてまとめました。
歩行能力の低下
内反尖足では足底の接地面が限られるため、歩行中の安定性や推進力が著しく低下します。
特に荷重応答期から立脚後期にかけて下腿が前傾せず、骨盤が後方へ回旋したり、膝が過伸展したりする現象がみられやすいでしょう。
また、歩行スピードが遅くなることや、疲労で耐久性が低下することもあります。
転倒リスクの増加
内反尖足が生じていると、転倒のリスクが高まります。つま先が上がらないため障害物につまずいたり、バランスが取りづらくなりふらついたりすることが主な原因です。
この場合は、転倒予防のために杖や手すりなどの福祉用具の検討が必要になります。
膝痛や腰痛
内反尖足による足部の変形により、連鎖的に膝関節や腰椎への負担が増大します。膝が過伸展したり、腰椎が回旋したりするメカニカルストレスが生じ、膝痛や腰痛を引き起こしやすくなるでしょう。
浮腫
内反尖足では足部の浮腫が生じやすくなります。これは、足部の運動障害によって下腿の筋肉の収縮がうまくいかず、静脈還流が滞って血流が悪くなるのが主な要因です。
内反尖足への対処方法
セラピストは内反尖足に対して適切な対処を施したうえでリハビリを進めていかなければなりません。ここからは、内反尖足への主な対処方法を見ていきましょう。
可動域訓練や動作訓練
底屈・内反方向に短縮している筋や腱に対して、持続的なストレッチや関節モビライゼーションを実施して、可動域の改善・維持につなげます。
特に腓腹筋、ヒラメ筋、後脛骨筋の柔軟性の改善、距腿関節の背屈方向への骨運動が重要です。また、立ち上がりや歩行などの動作訓練を反復し、足の接地方法、全身の使い方を指導することもあります。
装具療法
内反尖足の制御には、短下肢装具(AFO:Ankle Foot Orthosis)と呼ばれる足関節装具の処方も有効です。
AFOは足関節や足部に障害のある患者さんの歩行機能を改善するために臨床では広く用いられています。AFOにはスプリング式、プラスチック製、金属支柱付きなどさまざまな種類があり、セラピストは患者さんの状態に合わせて処方します。
手術
保存療法で効果がない場合や、合併症のリスクがある場合、痛みが強い場合など、日常生活に多大な支障があると判断したときには「筋腱延長術」をはじめとした手術が選択肢となります。
手術後は可動域維持、筋力訓練、動作訓練など、セラピストによるリハビリが不可欠です。
ボツリヌス治療
内反尖足に対しては「ボツリヌス治療」も選択されることがあります。ボツリヌス治療とは、ボツリヌス菌(食中毒の原因菌)が作り出すタンパク質を有効成分とする薬を筋肉内に注射し、筋肉の緊張を和らげる治療方法です。
注射後は筋肉の緊張が低下し、可動域が向上したり、歩行しやすくなったりする効果が期待できます。
※ボツリヌス治療の効果は一時的であり、併行してリハビリテーションを行うことが、持続的な改善に不可欠です。
内反尖足を理解して適切な対応を
内反尖足は、脳卒中の患者さんへの対応や、回復期の病院などで経験することが多いでしょう。患者さんによって病態は異なるため、解剖学、生理学、運動学の複合的な問題として考えなければなりません。
内反尖足について病態をしっかりと理解し、適切な対応を選択できるようにしていきましょう。
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参考

rana(理学療法士)
総合病院やクリニックを中心に患者さんのリハビリに携わる。現在は整形外科に加え、訪問看護ステーションでも勤務。 腰痛や肩痛、歩行障害などを有する患者さんのリハビリに日々奮闘中。 業務をこなす傍らライターとしても活動し、健康、医療分野を中心に執筆実績多数。

監修:関 勇宇大(理学療法士)
2014年、理学療法士免許を取得。回復期リハビリテーション病院にて、脳血管障害患者を中心にリハビリテーション計画を立案し、早期社会復帰を支援。訪問リハビリでは、在宅療養者とその家族に対し、生活環境に即した個別支援を提供。臨床経験で培った専門的知見をもとに、現在は医療ライターとして活動。運動療法クラウドサービス『リハサク』では、運動メニューの解説・動画制作も担当し、医療と表現の両面から、実用性と信頼性の高い情報発信を行っている。
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