高齢者の前のめり歩行の問題点と原因は?リハビリ職としての対処法も解説
公開日:2025.06.05 更新日:2025.06.23
文:かな(作業療法士)
臨床現場で高齢者と接していると、「前のめり歩行」を目にするのは日常茶飯事ではないでしょうか? 前のめり歩行は見た目の変化だけでなく、転倒リスクや歩行効率など、さまざまな面で悪影響を及ぼします。
そこで今回は、高齢者の前のめり歩行に関する問題点や原因、リハビリ職の介入方法について紹介します。
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高齢者の前のめり姿勢・歩行の問題点
前のめり歩行は見た目の問題だけではなく、安全面や心理面にも影響を及ぼします。具体的には以下の点が挙げられます。
● 歩行効率や呼吸効率の低下
● 日常生活への悪影響
ここからは、それぞれの問題点について解説します。
転倒リスクの増加
前のめり歩行では身体の重心が前に偏るため、つまずきやすく、転倒リスクが高まります。
また、視線が足元に集中しがちになるため、周囲への注意が低下する点も転倒リスクを高める要因です。
特に高齢者は、転倒による骨折や頭部外傷の危険性が高く、要介護の状態に陥りやすいため、注意が必要です。
歩行効率や呼吸効率の低下
前のめり歩行は歩幅が減少し、歩行速度が低下するため、歩行効率が悪くなります。
また、前傾姿勢により胸郭の動きが制限され、腹部が圧迫されることで腹式呼吸がしにくくなり、呼吸効率も低下します。
呼吸効率が低下すると、酸素供給能力が低下し、歩行中に労作性の息切れや疲労感が増加します。
日常生活への悪影響
前のめり歩行により安定した歩行が難しくなると、日常生活に支障をきたす可能性があります。
バランスが悪い方や転倒歴がある方は、「再び転ぶかもしれない」という不安から外出を控え、生活の範囲が狭まったり社会的に孤立したりする危険性もあります。
高齢者の前のめり姿勢の主な原因
高齢者が前のめり姿勢となりやすい理由には、以下のようなものがあります。
● パーキンソン病
● 腰や下肢の可動域制限や筋力低下
加齢による姿勢の変化
加齢に伴い脊柱の変形が進むため、特に円背の高齢者は、足よりも上半身が前に出てしまいがちです。この前傾姿勢が足を十分に上げることを妨げ、歩行がすり足気味になる結果、転倒リスクが高まります。
パーキンソン病
パーキンソン病はドーパミンが不足することで起こる進行性の神経変性疾患で、高齢者に多く見られます。
パーキンソン病は、安静時の振戦や固縮、無動とともに、姿勢反射障害が生じ、前傾姿勢で歩行が制御できなくなる突進歩行を引き起こしやすくなります。
体幹や下肢の可動域制限や筋力低下
腰や下肢の関節が十分に動かない、または筋力が低下していると身体をしっかり起こすことが難しくなり、前のめり姿勢になりがちです。特に体幹の筋力が弱くなると、自然と前傾姿勢が固定してしまうことがあります。
運動不足や入院中など長期間の安静状態は、これらの状態を悪化させるため、日々の食事や運動によって、身体機能を維持することが大切です。
前のめり姿勢への対策
高齢者が前のめり姿勢を防いだり改善したりするためには、以下のようなアプローチが有効です。まずは筋力や柔軟性、姿勢の評価を行い、個々に合わせた対策を講じましょう。
姿勢矯正に向けたアプローチ
姿勢矯正のために、壁立ち姿勢や姿見を活用しましょう。前のめり姿勢と指導後の姿勢の違いが分かりやすいため、視覚的な自己認識を促せます。
特に高齢者は骨盤が後ろに傾きやすく、その結果円背につながることも多いため、骨盤の前後傾運動を取り入れて正しい位置を保つ訓練が効果的です。
筋力や柔軟性の向上
体幹や下肢の筋力を鍛えることで、安定した姿勢を維持できます。
ブリッジや腹筋、スクワットなどの筋トレと、体幹や股関節を中心としたストレッチは、前のめり歩行の改善に効果的です。患者さんの状態に合わせて運動プログラムを作成しましょう。(※腹筋運動は腰痛を誘発する可能性があるため適切なフォーム指導が必要)
パーキンソン病に対するリハビリ
パーキンソン病の患者さんには、早期段階からの運動療法が推奨されます。
筋力や関節可動域を維持・向上させる運動療法に加え、視覚刺激や音刺激を使った歩行訓練も有効です。
近年ではLSVT®︎BIGのようなリハビリプログラムを採用する施設も増えており、患者さんの症状やオン・オフの状態に応じた対策が求められます。
福祉用具の活用
運動療法だけでなく、歩行器やシルバーカーといった歩行補助具の利用も歩行姿勢の改善に寄与します。使用中の補助具の高さ調整などによっても効果が期待できます。
また、適切なサイズの靴選びも重要です。踵が高い靴は避け、前のめりになりにくい靴を選びましょう。
まとめ|前のめり歩行を改善して転倒リスクを下げよう
前のめり歩行は、単なる姿勢の問題に留まらず、転倒リスクの増大や歩行機能の低下、さらには日常生活への悪影響をもたらす可能性があります。
原因は、筋力や柔軟性の低下、神経疾患、可動域の制限などが考えられ、リハビリ職は各患者さんの状態を評価したうえで適切な対策が求められます。
これにより、転倒や介護予防にもなり、患者さんの生活の質向上につながるでしょう。
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参考
横幕鍼灸院|パーキンソン病の症状 突進歩行
横浜市総合リハビリテーションセンター|呼吸障害の方・はじめに
小野薬品工業株式会社|パーキンソン病患者さんのためのリハビリテーション
地域密着型 特養 清揚苑|福祉用具の活用でこんなにも違います
ときわ会|介護予防の視点

かな(作業療法士)
作業療法士/呼吸療法認定士・福祉住環境コーディネーター2級・がんのリハビリテーション研修修了
身体障害領域で15年以上勤務。特に維持期の患者さんの作業療法、退院支援に携わってきました。家では3人の子ども達に振り回されながら慌ただしい日々を送っています。趣味は読書とお菓子作り。

監修:関 勇宇大(理学療法士)
2014年、理学療法士免許を取得。回復期リハビリテーション病院にて、脳血管障害患者を中心にリハビリテーション計画を立案し、早期社会復帰を支援。訪問リハビリでは、在宅療養者とその家族に対し、生活環境に即した個別支援を提供。臨床経験で培った専門的知見をもとに、現在は医療ライターとして活動。運動療法クラウドサービス『リハサク』では、運動メニューの解説・動画制作も担当し、医療と表現の両面から、実用性と信頼性の高い情報発信を行っている。
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