大腿骨頚部骨折におけるリハビリプログラムの例と、実施における注意点
公開日:2025.07.10

文:伊東浩樹(理学療法士)
高齢者に多く見られる大腿骨頚部骨折は、転倒などによって起こる重篤な外傷の一つであり、その後の生活に大きな影響を与えます。特に、歩行能力の低下が生じたり、寝たきり状態になったりすることで、介護負担の増加や認知機能の低下など、身体的・社会的側面にも及ぶ問題を引き起こします。
大腿骨頚部骨折では、手術後早期から適切なリハビリを行い、ADL(日常生活動作)の維持・回復を図ることが重要です。この記事では、大腿骨頚部骨折の基礎知識からリハビリプログラムの内容、自宅で可能なリハビリや注意点も含めて解説していきます。
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目次
大腿骨頚部骨折とは?

大腿骨頚部骨折は、大腿骨の上端、骨頭と転子部の間に位置する「頚部」と呼ばれる部位の骨折です。特に骨粗鬆症(骨量の減少により骨がもろくなる病気)のある高齢者に多く、軽い転倒でも大腿骨頚部骨折が発生するリスクがあります。大腿骨頚部骨折は骨折の仕方によって以下の2種類に分類されます。
・ 大腿骨頚部外側骨折……関節包外で起こる骨折です。内側骨折に比べて骨癒合を期待しやすい特徴があります。
大腿骨頚部骨折の治療方法
治療方法は、大腿骨頚部内側骨折か、大腿骨頚部外側骨折か、転位の有無、患者さんの年齢やADLレベルに応じて決定されます。転位があまり無い場合には保存療法が選択されることが多いものの、多くの場合は手術療法が選択されます。
手術療法では、スクリューやプレートで骨を固定するものや、人工骨頭置換術(骨頭自体を人工物に置き換えるもの)、人工股関節全置換術(骨頭とそれを受け止める臼蓋の両方を人工関節に置換するもの)などがあります。
いずれの場合も、術後の離床とリハビリ開始が、合併症の予防や機能回復には不可欠です。
大腿骨頚部骨折のリハビリプログラム

大腿骨頚部骨折におけるリハビリの目標は、可能な限り術前のADLまで回復させ、再骨折や寝たきりを予防することです。そのためリハビリプログラムの立案はとても大切です。
ここからは、術後の時期別にリハビリプログラムの例を紹介します。
術後早期(1〜7日)
・ 離床訓練:起き上がり、端座位保持、立ち上がり動作など
・ 呼吸訓練:術後肺炎予防のための深呼吸・排痰指導
離床は早ければ術後翌日から開始されます。痛みの評価や全身状態を見ながら、段階的に進めます。
回復期(術後1週〜1ヶ月)
・ 筋力強化訓練:中殿筋・大腿四頭筋を中心とした抵抗運動を実施していきます。(例:SLR、ヒップアブダクション)
・ 荷重訓練:手術の有無や状態によりますが、全荷重が最初から可能な場合と、時間を要する場合がありますので、医師の指示に従い段階的に移行していきます。
大腿骨頚部骨折の受傷後は特に中殿筋の機能低下によるトレンデレンブルグ歩行を予防するため、片脚立位や側臥位での外転訓練が重要となってきます。
関連記事:トレンデレンブルグ歩行とは?原因や問題点、解決方法について解説
維持期・自立支援期(術後1ヶ月以降)
・ 応用歩行練習:屋外歩行、方向転換、障害物回避など
・ ADL練習:トイレ動作、更衣動作、入浴動作の再獲得
この時期は患者さんのモチベーションが、リハビリの効果に大きく関係してきます。退院や転院などその後の展望に応じて理学療法士が心理的サポートや目標設定を意識することが大切です。
大腿骨頚部骨折の治療後に自宅でできるリハビリ
大腿骨頚部骨折の治療後は、退院した後も自宅などで継続的にリハビリをすることが筋力低下予防や転倒などを予防するうえで重要になってきます。
以下にいくつか自宅で実施しやすいリハビリを挙げます。
・ 立った状態での踵上げ、膝の伸展運動
・ ゴムバンドを使用した股関節の外転運動
・ 廊下や庭での短時間の歩行練習
このように自宅で可能なリハビリはありますが、セラピストがいない状況下でのリハビリとなるため、家庭内での安全確保、手すり設置、段差の除去なども含め、運動の「習慣化」を図る指導が重要です。
リハビリプログラムの実施における注意点
医師の指示のもと根拠を持ってリハビリを始めても、実施にあたっては様々なリスクが考えられます。以下の点に注意しながらリハビリを進めていきましょう。
室内環境の整備、視力と視野の確認、靴や杖の点検を行いましょう。特に片脚立位の評価などバランスが求められる場面では、転倒リスクに十分気をつける必要があります。
・ 痛みの管理
疼痛はリハビリの大きな阻害因子となります。NRSなどを活用して適宜痛みを評価して、看護師や薬剤師と連携しながら必要に応じて医師へ報告し、適切に疼痛管理を行いましょう。
・ 骨粗鬆症の治療
再骨折を防止するためには、薬物療法を併用することが効果的とされています。
・ 認知機能の低下への対応
認知機能の低下も、リハビリの妨げになることがあります。特に、認知症の患者さんでは混乱や拒否が見られることもあるため、家族や看護師との連携が不可欠です。可能であれば術前にMMSE(Mini-Mental State Examination)などの評価を行い、事前に対策をすることが望ましいでしょう。
また、保存療法か手術療法かによって、骨の癒合状況や荷重制限も異なります。過剰な訓練によって骨接合部に悪影響が出る可能性もあるため、医師の指示は必ず守りましょう。
大腿部頚部骨折におけるリハビリの重要性
大腿骨頚部骨折は、ADLやQOLを大きく低下させる可能性がある外傷ですが、適切なリハビリの継続により生活自立を目指すことが可能です。理学療法士の役割は、身体的回復を促すだけでなく、患者さんが再び自分らしい生活を取り戻せるよう、心身両面から支援することにあります。
現場では医師をはじめとして多職種と連携しつつ、根拠に基づいたプログラムを提供し続けることが重要です。
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参考
参考
理学療法ハンドブック 店頭予防
大腿骨頭のリハビリテーション
骨粗鬆の予防と治療ガイドライン

伊東 浩樹(理学療法士)
理学療法士として総合病院で経験を積んだ後、予防医療の知識等を広めていくためにNPO法人を設立。その後、社会福祉法人にて障がい部門の責任者や特別養護ホームの施設長を経験。医療機関の設立や行政から依頼を受けての講演、大学、専門学校等での講師なども勤める。

監修:中原 義人(理学療法士)
札幌医科大学保健医療学部理学療法学科 卒業
急性期病院、訪問看護ステーション、慢性期病院にて勤務。通所・訪問リハビリテーションの立ち上げを経験。
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