半側空間無視のリハビリ完全ガイド!リハビリ職別の役割・評価方法・訓練法を解説
公開日:2025.08.28

文:奏かえで(作業療法士)
半側空間無視の症状に直面して「本当に必要な評価ができているのか」「今のアプローチで合っているのか」と迷うことはありませんか?
半側空間無視は視覚、身体、行動の各レベルで多様に現れるため、評価も介入も一筋縄ではいきません。
本記事では、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士のそれぞれの関わり方や評価法、ガイドラインにもとづく訓練方法を解説します。明日からの臨床に自信が持てるよう、ぜひ実践に役立つ知識を身につけてください。
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半側空間無視は高次脳機能障害の1つ

半側空間無視は、主に右大脳の損傷後に起こる代表的な注意障害で、高次脳機能障害の一種です。
半側空間無視の原因
半側空間無視は、脳卒中などで左右どちらかの大脳がダメージを受けることで出現します。
同名半盲とは異なり、目が見えていないわけではありません。視覚情報は入っているのに、無視側に注意を向けられない状態です。
とくに、右大脳の損傷で起こりやすいとされていますが、左大脳の損傷でも現れることがあります。
半側空間無視の主な症状
右大脳の損傷によって生じる半側空間無視では、以下のような症状が見られます。
●移動中に左側の障害物によくぶつかる
●顔や視線が常に右側を向いている
半側空間無視の患者さんは、こうした症状に対して病識が乏しい、あるいは欠如していることも珍しくありません。そのため、症状だけでなく身体機能や日常生活動作(以下、ADL)に対するリハビリにも支障をきたすことがあります。
適切な支援のためには、まず患者さんの状態を正確に把握し、一人ひとりに合わせたリハビリを進めていくことが重要です。
半側空間無視に対する各リハビリ職の役割
半側空間無視へのアプローチは各リハビリ職が連携し、それぞれの専門性を生かした支援を行う必要があります。
理学療法士の役割
理学療法士は、患者さんの基本的な運動能力や姿勢、歩行能力の改善を目的に介入します。
半側空間無視は、座位バランスの崩れや転倒、歩行能力の低下などにつながるため、以下のような配慮が必要です。
●移動時は無視側と反対の壁に沿って歩くよう促す
作業療法士の役割
作業療法士は、ADLの自立や生活の質(QOL)の向上を目標に支援を行います。
半側空間無視に対しては、無視そのものの改善を目指すより、ADL訓練を通じて機能を高めるアプローチが有効な場合もあります。そのため、以下のような実生活に即した介入や環境調整が大切です。
●車椅子のブレーキレバーを延長し、視認性を高める
言語聴覚士の役割
言語聴覚士は、言語やコミュニケーション能力、注意力、認知機能の改善を中心にアプローチします。
半側空間無視に対しても、視覚的な注意や認知機能のリハビリを通じて、日常生活での困難の軽減を目指します。主な支援内容は、以下のとおりです。
●空間性失書(文字の重なりや配置の偏り)への補助や訓練
各職種が効果的なリハビリを行うには、まず患者さんの状態を正しく評価し、それに応じた適切なアプローチを選択する必要があります。
半側空間無視の主な評価方法

半側空間無視の病態を把握するには、複数の評価が必要です。ここでは、半側空間無視の主な評価方法について解説します。
行動性無視検査(Behavioral Inattention Test:BIT)日本版
行動性無視検査(以下、BIT)は、半側空間無視を評価するための検査で、通常検査と行動検査の2部構成になっています。
●行動検査:写真や電話、時計など日常生活場面を想定した9項目の課題
BITは多角的に評価できる一方で、検査で異常が検出されなくても、実際のADL場面で無視の症状が見られることがあります。そのため、次に紹介するCatherine Bergego Scale(以下、CBS)などの行動観察評価との併用が望ましいとされています。
Catherine Bergego Scale (CBS)
CBSは、半側空間無視がADLにどのような影響を及ぼしているかを評価する、観察ベースの評価尺度です。
BITなどの机上検査では見逃されがちな、実生活での無視を捉えるのに有効とされています。評価は、以下を含む10項目です。
●左を向くのに困難さを感じる
●整髪またはひげそりの際に左側を忘れる
合計点が10点以上の場合に「半側空間無視」と判断され、点数が高いほど重症度が高くなります。
CBSの特徴は、観察者だけでなく患者さん本人も自己評価をする点です。半側空間無視に対する病識の有無や、程度の把握にも役立ちます。
Fluff test
Fluff testは半側空間無視のなかでも、身体空間に関わる障害を評価する検査です。
患者さんの体幹や両上下肢に24枚のステッカーを貼り、目を閉じた状態でステッカーを外してもらうことで、無視の程度を評価します。ステッカーの外し忘れの数や、かかった時間などが評価の指標となります。
半側空間無視は多面的な症状を伴うため、上記に挙げた検査などの複数の検査を組み合わせて、総合的に評価することが大切です。の検査を組み合わせて総合的に評価することが大切です。
現場で使えるリハビリアプローチ
半側空間無視のリハビリでは、無視側の空間に対する気づきを促すことが基本となります。
『脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2025)』では、半側空間無視に対するリハビリが推奨度Bと推奨度Cに分けて示されています。
推奨度B・エビデンスレベル中のリハビリ
脳卒中治療ガイドラインで「行うことは妥当である」とされているリハビリです。
反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)
脳に磁気刺激を与えて活動を調整する治療法です。
半側空間無視は、脳卒中などにより左右の脳半球間の活動バランスが崩れることが原因の1つとされています。
rTMSでは、損傷していない側の後部頭頂皮質などに低頻度の磁気刺激を与えることで、脳のバランスを整えることが期待できます。
経頭蓋直流電気刺激(tDCS)
脳に微弱な電流を流し、脳活動を調節する治療法です。
rTMSと同様に、脳半球間のバランスを整えることを目的としています。
視覚探索訓練
プリント課題などを使って、意識的に無視側への注意を促す訓練です。
例としては、以下のものがあります。
●読書訓練:無視側に視覚的な目印を設置し、読字課題を通して注意を高める
●抹消訓練:文字などの抹消課題を通じて探索範囲の拡大を図る
プリズム眼鏡を用いた訓練
視野をずらすプリズム眼鏡をかけて、目の前の目標に繰り返し手を伸ばす訓練です。
動作を繰り返すことで、実際の位置とのズレに脳が適応し、視野が次第に無視側へと補正されます。その結果、患者さんが正面と認識する位置が無視側にシフトし、注意の偏りの改善につながります。
推奨度C・エビデンスレベル低のリハビリ
脳卒中治療ガイドラインで「考慮してもよい」とされるリハビリです。
鏡像を用いた訓練(ミラーセラピー)
鏡を使って非麻痺側の手の鏡像を見せ、麻痺側の手が動いているように錯覚させる訓練です。運動錯覚を起こすことで、無視側への注意を促す効果が期待できます。
冷水・振動・電気刺激を用いた訓練
半側空間無視に対しては、感覚刺激を活用するアプローチも検討されます。
主な方法は以下のとおりです。
●頸部筋振動刺激:後頸部の筋肉に振動を与え、運動錯覚を誘発する方法
●電気刺激:麻痺側の皮膚や筋肉に電気刺激を与え、体性感覚の入力を高める方法
ただし、冷水刺激の効果は短時間で、めまいや吐き気などが起こることもあり、臨床での報告は少ないとされています。
アイパッチを用いた訓練
損傷側と同じ側の目をアイパッチで覆い、左右の視覚刺激のバランスが変化させ、無視側への注意を促す方法です。
ここまで紹介したリハビリは、半側空間無視に対するアプローチの一部に過ぎません。
セラピストは評価をもとに、患者さんそれぞれの症状や病態に合わせて、適切なアプローチを選択、調整する必要があります。
半側空間無視を多角的に捉え、確かな支援につなげよう
半側空間無視は、視覚や身体、行動などさまざまなレベルで症状が現れます。そのため、1つの評価や訓練だけでは対応が難しいケースも少なくありません。
大切なのは、多角的な視点から正確に評価し、患者さんの状態に合ったアプローチを選ぶことです。各職種で連携しながら、患者さんにとって最適な支援を検討していきましょう。
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参考
一般社団法人日本脳卒中学会「脳卒中治療ガイドライン 2021(改訂2023)」
慶應義塾大学病院KOMPAS「高次脳機能障害のリハビリテーション」
太田 久晶「空間性注意障害のみかた
―半側空間無視症状の理解のために―」
水野 勝広「半側空間無視のリハビリテーション ―最近のトピックス―」

奏かえで(作業療法士)
医療専門大学を卒業後、回復期病棟を経験しつつ、介護老人保健施設に10年以上勤務。高齢の利用者さんの日常生活動作(ADL)や認知症リハビリに力を入れ、一人ひとりに寄り添った支援を大切にしている。ライターとしても活動しており、医療と介護の現場で培った知識と経験を活かし、健康や医療に関する記事を執筆している。

監修:酒井 康輔
作業療法士
作業療法士として2016年より勤務開始。訪問看護ステーション・急性期病院を経験。現在も病院で勤務しており、高齢者から小児まで幅広い年齢層のクライエントに対して作業療法を実践している。臨床業務の傍ら、自身の得た知識を一般の方に届けたいという想いから2021年よりWebライターとして活動を開始。ブログも運営している。作業療法士KousukeのWriter Office
半側空間無視は、「注意の偏り」として現れる複雑な症状であり、日常生活やリハビリの進行に大きく影響を及ぼすことがあります。
本記事では、評価方法や職種ごとの関わり方、リハビリの選択肢まで丁寧にまとめられており、現場での実践に役立つ内容となっています。
対応に迷ったとき、改めて患者さんの姿を多角的に見直すきっかけとして、活用いただければと思います。
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