リハビリ器具の種類と選び方 ~目的別にわかる活用ポイントと注意点~
公開日:2025.09.08

文:まさ(理学療法士)
セラピスト(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)は、それぞれの患者さんの状態や目標に合わせてリハビリを行っています。そのなかで欠かせないのがリハビリ器具の活用です。
平行棒や歩行器といった基本的な補助具から、油圧式トレーニングマシン、さらにはリハビリ支援ロボットのような先進的な機器まで、リハビリ器具の種類は年々広がりをみせています。しかし、器具を導入すること自体が目的になってしまうと、本来の効果が発揮されません。
そこで本記事では、リハビリ器具の種類や特徴、導入時の注意点、臨床現場での具体的な活用例までを解説します。
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リハビリ器具とは?
リハビリ器具は、身体機能の改善や維持、向上を目的として使われる医療機器のことで、主に次のような場面で活用されます。
● 日常生活動作(ADL)の支援
● 痛みの緩和
ケガや病気で動きが制限された方に対して、セラピストは少しでも以前の生活に近づけるように、さまざまな方法で支援します。そのなかで、リハビリ器具は手技だけでは難しい繰り返し練習や運動負荷の調整、安全性の確保、自主トレーニングの促進など、幅広い役割を担います。
リハビリ器具は単なる道具ではなく、リハビリの安全性や効率、継続性を支える貴重な存在です。効果を引き出すためには、患者さんの状態や目的に合った的確な器具選びと、正しい使い方をすることが重要です。
リハビリ器具の主な種類と特徴

リハビリ器具は、症状の重さやリハビリの目的に応じて、以下のような種類に分類されます。
よく使われる基本的な器具
基本的なリハビリ器具は医療や介護の現場で広く活用されており、操作が簡単で安全性が高いため、多くの患者さんに対応できます。
例えば、平行棒や歩行器、杖などは、バランスが不安定な方や、下肢の筋力が低下している方に使用されます。
セラバンドは、ゴム製の伸縮性のある素材を使った筋力トレーニング用の器具です。特に手術後や筋力が弱っている場合でも、負担が少なく自宅でのトレーニングを行うことができるため、在宅リハビリでもよく使用されます。
また、ホットパックなどの温熱療法は患部を温めて血行を促進し、電気刺激装置は痛みの軽減や筋力回復の目的で使われるなど、物理療法機器も基本的な器具として用いられます。
機能的訓練用の器具
機能的訓練用の器具は、基本的な動作の獲得だけでなく、日常生活に近い応用的な動作能力の向上を目指す際に使用されます。持久力やバランス能力を高める目的でも有効です。
例えば、自転車型のトレーニング器具であるエルゴメーターは、下半身の筋力強化や持久力向上に役立ちます。
バランスマットは、床面にわざと不安定さを加えることで、体幹や下肢の安定性を高める訓練に活用され、日常生活の動きに近い身体の使い方を習得でき、転倒予防にもつながります。
テクノロジーを活用したリハビリ器具
近年の技術進化により、より精度の高い訓練や個別性のあるリハビリが可能となる器具が開発されています。
油圧式トレーニングマシンは、油圧の力で運動負荷を細かく調整できます。そのため、関節への過剰な負担を避けつつ、初心者から高齢者まで幅広い方にトレーニングを提供できます。
また、リハビリ支援ロボットは、患者さんの動きを補助する機能や、運動データをリアルタイムで取得し、分析する機能を備えているため、効率的な訓練計画の立案が可能になります。
リハビリ器具を活用するメリット

リハビリ器具は、次のようなメリットがあります。
自分のペースで練習できる
患者さん自身が自主的に取り組んでいるという感覚を持てることは、リハビリを続けるうえで重要です。器具を使うことで、セラピストが常にそばにいなくても、自分のペースで何度でも練習できる環境が整います。
例えば、エルゴメーターは、安全性が高く、セラピストが初期設定を行えば、その後は自主的に継続的に練習できます。それにより、以前よりうまくできるようになったという成功体験を積み重ねることで、リハビリへの意欲や習慣づけにもつながります。
運動の効果を実感できる
最近のリハビリ器具のなかには、運動の回数や強度、移動距離、時間などを記録できる機能が備わったものも増えています。数値として自分の進歩を確認できることで、「今日はここまで動けた」「先週よりも少し伸びた」など、前向きな実感が得られます。
こうした客観的なデータは、患者さんのモチベーションを高めるだけでなく、セラピストが運動量や負荷を調整する際の参考にもなり、より効果的なリハビリ支援が可能になります。
在宅でも継続して行える
リハビリ器具は病院だけでなく、在宅でも取り入れられます。例えば、ゴムチューブ、バランスボール、ポータブルタイプの電気刺激装置などは、自宅でも使いやすく、日常のなかで無理なく運動習慣の継続が可能です。
病院でのリハビリが終了した後も、筋力の維持や生活機能の改善には継続が重要です。特に高齢者の場合、加齢によって筋力が低下しやすいため、自宅でもコツコツとリハビリに取り組める環境づくりを意識しましょう。
器具の導入時に注意すべきこと
リハビリ器具は、使い方を誤ると、かえって身体に負担をかけたりリハビリの効果が軽減したりする可能性もあるため、器具の導入時には以下の内容に注意する必要があります。
患者さんに合わせた器具選びをする
リハビリ器具は、すべての患者さんに同じように適しているわけではありません。身体機能の状態、疾患の種類、年齢、既往歴、痛みの有無などを総合的に考慮し、それぞれに合った器具を選ぶことが大切です。
例えば、筋力の低下が著しい方には、補助機能のある器具や軽い負荷で使える機器が適しています。また、痛みが強い場合には、無理な動作を避ける必要があり、器具の使用そのものを見直すこともあります。
このように合わない器具を使ってしまうと、痛みの悪化や動作の不安定さを招くおそれがあるため、器具の選定は必ず医師やセラピストの助言を受けながら行うようにしましょう。
器具任せにならない
リハビリ器具は便利ですが、「器具を使っていればリハビリになる」わけではありません。器具はあくまで補助的な役割を担うものであり、医師やセラピストの判断のもと、患者さんの状態に応じて使用量や方法を調整しながら活用することが重要です。
特に、在宅での使用は、ただ器具を使うだけで終わってしまい、目的や効果を十分に理解しないまま続けてしまうこともみられます。運動のやり方や目的をしっかり理解したうえで取り組むことが、リハビリの成果につながります。
現場で活躍する器具の活用例
リハビリ器具は、病院内だけでなく外来や通所、さらには在宅の場面でも幅広く活用されています。ここでは、代表的な活用シーンごとに、どのような器具が使われているのかを紹介します。
回復期リハビリテーション病棟での活用
回復期リハビリテーション病棟では、脳卒中や骨折などの急性期治療を終えた患者さんが、再び日常生活に戻るためのリハビリを集中的に行います。この段階では、立つ・歩く・座るなどの基本的な動作を獲得するためにさまざまな器具が活用されます。
例えば、平行棒は立ったり歩いたりする練習のために使われ、エルゴメーターは下肢の筋力や持久力の向上に役立ちます。また、リハビリ支援ロボットは、動作の補助や運動データの記録や分析を通じて、より効率的な訓練を可能にします。
これらの器具を組み合わせて活用することで、身体機能の改善だけでなく、ADL(日常生活動作)の改善にもつながります。
外来、通所リハビリでの活用
外来や通所リハビリでは、限られた時間のなかで効率よく訓練を行う必要があります。そのため、扱いやすく、運動の量や強度を柔軟に調整できる器具がよく使われています。
例えば、油圧式のパワーリハビリ機器は、関節に負担をかけずに筋力トレーニングができるため、高齢者にも適しています。バランスボールは体幹の安定性を高める訓練に、重錘(おもり)は手足の筋力強化に活用されます。
在宅での自主トレーニング
在宅でのリハビリでは、使いやすく安全性の高い器具が選ばれます。例えば、セラバンドは軽い負荷で筋力トレーニングができ、ステップ台は下肢の筋力やバランス能力の維持に役立ちます。家庭用の電気刺激装置も、筋力低下の予防や痛みの緩和に活用されています。
さらに最近では、スマートフォンやタブレットと連動したセンサー付きのリハビリ器具も登場しています。これにより、運動データを記録や分析をしながら、遠隔での助言やサポートを受けることも可能になってきました。
リハビリ器具は適切に使えば、改善を支える重要なツール
リハビリ器具は使い方次第で、運動を繰り返しサポートする、自主性を引き出すだけでなく、成果を見える化することで、リハビリの継続にもつながります。
しかし、リハビリ器具がすべての方に合うわけではありません。安全性や対象者との相性を見極めながら、セラピストが的確に選び、活用することが重要です。
また、最近ではロボットなどのリハビリ器具も普及し、より効率的かつ個別性の高い訓練が可能になってきました。リハビリ器具は、使えば効果が出るものではなく、どのように使うかを考えることが重要です。
リハビリ器具を使用するにあたって気になることがある場合は、医師やセラピストに相談して、ご自身に合ったリハビリ器具を選ぶようにしましょう。

まさ(理学療法士)
2010年頃に理学療法士の国家資格を取得してから10年以上病院で勤務している。また理学療法士の資格だけでなく、ケアマネジャーの資格も取得しているため、医療・介護系の知識に精通している。それ以外にも、現在は管理職として在籍しているため、体のことだけでなく、医療・介護にかかわる制度など幅広い分野において情報を発信できる。

監修: 浅川 貴介(あさかわ たかすけ)
2010年私立東邦大学医学部卒業/ 浅川クリニック 副院長/ 合同会社世田谷産業医事務所 代表社員
リハビリ器具は、ただの「道具」ではありません。正しく使えば、患者さんの回復力を引き出す非常に有用なツールです。しかし、誤った使い方をすれば、逆に関節や筋肉に過度な負担をかけてしまうこともあります。
医療の現場では、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士といった専門職と連携しながら、患者さんの状態や回復段階に合わせた器具選定が行われています。特に在宅での使用では、「安全性」と「継続性」が非常に重要です。
本記事を通じて、リハビリ器具の正しい理解が広まり、より多くの方が安全かつ前向きにリハビリへ取り組めるようになることを願っています。何か気になることがあれば、どうか一人で悩まず、かかりつけの医師やセラピストに相談してください。
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