脊髄損傷のリハビリは?損傷部位に応じた内容やリハビリ目標を解説
公開日:2026.07.25

文:内藤 かいせい(理学療法士)
脊髄損傷の患者さんに対してどのようなリハビリを行うべきか、知りたい方もいるのではないでしょうか。脊髄損傷は損傷部位によって症状が大きく変わるため、その方の状態を把握したうえでリハビリプログラムを組み立てることが重要です。
この記事では、脊髄損傷に対するリハビリの重要性や具体的な内容をご紹介します。どのような内容なのかを知ることで、実臨床で役立てられるでしょう。
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脊髄損傷の症状
脊髄損傷を受傷すると、おもに以下のような症状が現れます。
- • 運動麻痺
- • 感覚障害
- • 排泄障害
- • 自律神経障害
ここでは、それぞれの症状について詳しくみていきましょう。
運動麻痺
脊髄損傷の代表的な症状の一つが、手足を思いどおりに動かせなくなる運動麻痺です。脊髄が損傷すると脳からの運動指令が途中で遮断され、筋肉まで届かなくなります。その結果、身体が動かせなくなります。
脊髄損傷の運動麻痺の特徴は、どの部位を損傷したかによって、動かなくなる範囲が大きく変わる点です。たとえば、頸髄を損傷した場合は、手と足の両方に麻痺が出やすくなります。一方で、胸髄や腰髄を損傷した場合は、脚に麻痺が出るものの、手の動きは保たれているケースが多いです。
感覚障害
運動麻痺に加えて、感覚障害も代表的な症状です。脊髄は筋肉への指令を伝えるだけでなく、感覚を脳に送り届ける役割も担っています。そのため、脊髄が損傷されると、触覚や痛覚などの感覚情報が脳へ届かなくなるのです。
感覚障害も運動麻痺と同様に、損傷した脊髄のレベルよりも下の部位に現れるのが特徴です。感覚障害を受傷すると痛みなどの感覚が低下するため、知らないうちに火傷や傷を生じる恐れがあります。
排泄障害
脊髄損傷を受傷すると、排泄障害を引き起こすこともあります。通常、尿や便が溜まるとその信号が脳に伝わり、適切なタイミングで排出できるようになります。しかし、脊髄を損傷すると、こうした脳との情報伝達が円滑に行われなくなります。そのため、自分の意思で排泄のコントロールが難しくなるのです。
排泄障害の症状は、損傷の程度や部位によってさまざまです。尿意や便意をまったく感じなくなることもあれば、膀胱が無意識に収縮してしまい、失禁に至る場合もあります。残尿もしやすくなり、そこから菌が繁殖して膀胱炎を起こし、重症の場合は腎機能に影響が及ぶ可能性があります。
自律神経障害
脊髄損傷になると、自律神経に関係する障害を引き起こすこともあります。自律神経とは、以下のような体調をコントロールしている神経のことです。
- • 血圧
- • 脈拍
- • 体温
- • 発汗
脊髄が損傷するとこれらの機能が低下し、身体の調節が困難になります。自律神経障害を引き起こすと、以下のような症状が現れやすくなります。
- • 血圧の上昇
- • 脈拍の異常
- • 冷や汗
- • 起立性低血圧
自律神経のトラブルは目に見えない部分で起こるため、体調の変化を見逃さないようにすることが大切です。
脊髄損傷に対するリハビリの重要性

脊髄損傷の受傷後は、なるべく早期からリハビリをはじめることが重要です。一度傷ついた脊髄をもとに戻すのは難しいですが、残っている機能の維持が期待できます。リハビリの目的として、残存している神経や筋肉の機能を最大限活用しながら、代償動作や補助具を用いて日常生活の自立度を高めることがあげられます。
受傷してすぐの急性期では、安静になる時間が長くなるため、関節の柔軟性低下や筋肉の衰えなどを引き起こしやすくなります。これを防ぐために、早い段階から関節可動域訓練や筋力トレーニングを行うことが大切です。そして全身の状態が落ち着いた時期には、車イス駆動や歩行などの動作の獲得を目指します。
【損傷部位別】脊髄損傷のリハビリの目標

脊髄損傷のリハビリの目標は、損傷した部位によって大きく変わります。脊髄は高い位置で損傷するほど動かせなくなる範囲が広くなり、低い位置だと残存機能が多くなります。脊髄損傷で残存している運動・生活レベルを以下の表にまとめました。
| 運動レベル | 運動麻痺の程度 | 生活レベル |
|---|---|---|
| C3(第3頸髄)以上 | 呼吸筋の麻痺 | 全介助、呼吸器の使用 |
| C4 | 呼吸筋の麻痺 | 全介助 |
| C5 | 肩や肘の屈曲が可能 | 電動車イスの駆動 補助具を用いた食事や整容 |
| C6 | 手首の伸展が可能 | 車イスの駆動 ベッドと車イス間の移乗 |
| C7 | 肘と手指の伸展が可能 | 日常生活は一部介助〜自立 |
| C8〜T1(第1胸髄) | 手指の屈曲が可能 | 車イスでの生活が自立 |
| T12 | 体幹の屈曲が可能 | 装具や補助具を使用した歩行 |
| L3〜4(第3〜4腰髄) | 股関節の運動が可能 | 装具や補助具を使用した実用的な歩行 |
脊髄損傷の部位に応じたリハビリトレーニング内容

脊髄損傷の部位に応じたリハビリの内容として、以下があげられます。
- • 【第4頸髄以上の損傷】呼吸訓練
- • 【第5頸髄以下の損傷】筋力トレーニング
- • 【第5頸髄以下の損傷】車イス駆動の練習
- • 【胸髄レベルの損傷】歩行練習
- • 【腰髄レベルの損傷】実用的な歩行の練習
ここでは、それぞれのリハビリトレーニングの内容について詳しくみていきましょう。
関節可動域訓練
脊髄損傷の損傷部位に関係なく行うのが、関節可動域訓練です。脊髄損傷の麻痺によって関節を動かさなくなると、筋肉が固まって可動域制限を引き起こす恐れがあります。可動域制限が現れると痛みが生じるだけでなく、動作やリハビリを妨げる原因となります。
このような問題を防ぐために、ストレッチなどの関節可動域訓練を行って関節の柔軟性を確保するのです。また脊髄の上位が損傷している場合、胸郭のストレッチも重要です。胸郭がやわらかくなると肺が膨らみやすくなるため、呼吸が楽になります。
【上位頸髄レベルの損傷】呼吸訓練
上位頸髄が損傷した場合の状態によっては、呼吸訓練が優先されることがあります。このレベルでの損傷では横隔膜をはじめとした、呼吸を行うための筋肉に影響が出やすくなります。そのため、リハビリでは少しでも呼吸機能を維持・改善することを目指します。
具体的には、呼吸筋のリラクセーションや肺に空気を送り込む練習などが中心です。また、咳をする力が弱くなると、痰が喉に詰まって肺炎を起こしやすくなるため、排痰訓練を行うこともあります。
【下位頸髄レベルの損傷】筋力トレーニング
下位頸髄の損傷で肩や腕の機能が残っている場合は、筋力トレーニングを積極的に行います。筋トレによって上半身の筋肉を鍛えることで、移乗や車イスの駆動などの動作が行いやすくなります。
第5頸髄レベルであれば、上腕二頭筋や三角筋が使えるため、重りやゴムバンドを使った筋トレが可能です。このように、筋トレによって麻痺していない筋肉を鍛え、失われた機能を補えるようにすることが重要です。
【下位頸髄レベルの損傷】車イス駆動の練習
下位頸髄の損傷で腕を動かす機能が残っている方は、移動手段として車イスの使用を目標とします。そのため、リハビリでは車イスを安全かつスムーズに動かすための練習を行います。損傷レベルによって使用する車イスのタイプが異なるため、一人ひとりにあわせた種類の導入を進めることが重要です。
たとえば、肘を曲げられるものの手首や指の力が弱い方の場合、一般的な車イスよりも電動車イスのほうがよいケースがあります。その際は、ジョイスティック操作によってうまく移動するための練習が中心です。一方で、手首に力が入る方であれば、車輪を回す部分に滑り止めや突起をつけて、一般的な車イスを駆動する練習を行います。
【胸髄レベルの損傷】歩行練習
胸髄を損傷した場合、日常生活でのおもな移動手段は車イスになることが一般的です。しかし、リハビリの一環として、装具や道具を使った歩行練習を行うケースも少なくありません。
胸髄レベルでの歩行練習では、長下肢装具や松葉杖などを使用して行います。歩行練習は筋力トレーニングの側面があるため、継続によって車イスへの移乗が楽になる、座っている姿勢が安定するなどの効果が期待できます。
【腰髄レベルの損傷】実用的な歩行の練習
腰髄を損傷した場合、より実用的な歩行の獲得を目指してリハビリを進めます。腰髄レベルの損傷であれば、下肢の筋肉の機能が残存していることが多いです。そのため、筋力やバランスなどの条件が整えば、装具や杖を用いて歩行を目指せる場合があります。屋内での移動はもちろん、屋外での活動も視野に入れたリハビリを行います。
脊髄損傷のリハビリトレーニングの内容を知っておこう
脊髄損傷を受傷すると運動麻痺や感覚障害など、さまざまな症状が現れます。症状の現れ方は損傷部位によって大きく異なるため、その方の状態にあわせたリハビリを実施する必要があります。
リハビリの目標も損傷部位によって変化するので、どの程度機能が残存しているかを評価することも重要です。ぜひ今回の記事を参考にして、脊髄損傷のリハビリ内容についておさえておきましょう。
参考
脊髄損傷は、損傷した部位によって運動や感覚障害の現れ方、日常生活への影響が大きく異なる疾患です。そのため、残存している身体機能を正確に評価し、それぞれの状態に合わせたリハビリを進めていくことが重要になります。リハビリでは関節の柔軟性や筋力の維持に加え、車イス操作や歩行練習などを通して日常生活の自立度を高めていきます。適切なリハビリを継続することで、生活の質の向上が期待できます。
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