言語聴覚士の新たな活躍の場 需要が広がる訪問リハビリの実態とは
公開日:2015.12.07 更新日:2016.01.05
介護保険適用により言語聴覚士の訪問リハビリが活用できるようになったものの、実際に活用する医療機関は限られてきたのが現状です。しかし地域包括事業が推進される近年では、訪問介護や歯科などの分野で言語聴覚士の求人が増えています。訪問リハビリを専門とする言語聴覚士は設備の整った医療施設とは異なる在宅の患者さんに、どのような訓練を行っているのでしょうか。言語聴覚士の新たな活躍の場ともいえる、訪問リハビリについて紹介します。
言語聴覚士による訪問リハビリ
介護保険法の改訂により、2005年から言語聴覚士による訪問リハビリが開始されました。リハビリの対象は主に構音障害や失語症、嚥下障害などをもち自宅療養を行う患者さんです。言語聴覚士による訪問リハビリは患者さんが普段過ごしている家庭内での訓練であり、家族が見守るリラックスした環境で、生活に則したリハビリが行えるというメリットがあります。例えば、家庭内で行う訓練内容は以下のとおりです。
構音障害をもつ患者さん:家庭での発声練習や口腔機能の練習、話し方の工夫や指導、話し相手となる人への指導、そして家庭内にあるものを使った代償手段の活用についての指導を行います。
失語症の患者さん:物の名前を言う練習や、文字の読み書き、そして家族へのコミュニケーションの方法、家庭で用意できる代償手段の活用についての指導などを行います。
嚥下障害の患者さん:本人への嚥下練習や咳の練習、口腔ケアの実施だけでなく、食形態や食事介助など家族への指導も並行して行います。
訪問リハビリによる効果
訪問リハビリでは、実際に介護を行う家族との連携が取りやすい点が大きなメリットです。訪問によってどのような改善が期待できるのかについて、北海道大学病院から報告されている実例を元に、その効果を紹介します。
- 構音障害をもつ患者さんの例
多発性脳梗塞後の構音障害をもつ74歳の寝たきり患者さん。訪問による訓練内容は、発話量と声量の増強を目標とした発声訓練、呼吸筋増強訓練、可動域拡大訓練や構音訓練、そして飲食時の姿勢指導や口腔ケア指導など多岐にわたります。10ヵ月間に計35回の訪問リハビリを受けることで発話明瞭度の改善が見られ、嚥下機能面では飲食時のむせの頻度が減り、発熱が起こりにくくなったという結果が出ています。 - 失語症の患者さんの例
脳出血後に失語を発症した82歳の患者さん。家庭内での実用コミュニケーション訓練を中心に、歌唱やゲームなどを用いて発声訓練を実施。失語症への理解を深めるため、家族へのコミュニケーション指導を行うなど、4ヵ月間で24回の訪問リハビリを実施しました。その結果、理解面と表出面ともに改善がみられ、家族との会話頻度も増加。喚語困難が目立っていた当初に比べて、訪問リハビリ終了後には言葉につまるということもなくなりました。 - 嚥下障害をもつ患者さんの例
脳梗塞後の嚥下障害を患い、寝たきりでの在宅介護を受けている79歳の患者さん。2ヵ月間、計7回の訪問リハビリにおいて、家族へ誤嚥の危険性を説明しながら、飲食時の姿勢指導や食事介護方法、食形態の指導を行いました。その結果、家族による食事介助が改善され、家族も患者さんへの口腔ケアを上手に行えるようになり、患者さんの発熱の頻度が明らかに減少したということです。
訪問リハビリで対象になる患者さんは、寝たきりの状態であることも少なくありません。家庭内でリアルな訓練ができること、家族への指導が具体的に行えるといったメリットが結果につながっていることがわかります。
歯科分野への需要拡大
言語聴覚士による訪問リハビリは、歯科分野での訪問診療と組み合わせたサービスとして進める病院も増えています。歯科と連携している病院での精密検査に対応したり、歯科医師による訪問診療と歯科衛生士による専門的口腔ケア、そして言語聴覚士による嚥下障害や言語障害、失語症などのリハビリを行うことで、歯と口腔の総合的なケアが一度にできるというメリットがあります。チーム体制で経過報告や方針などが共有できるだけでなく、窓口も一ヵ所に絞られることから、患者さんの家族の負担も減らすことができます。
家族にとっても嬉しい訪問リハビリ、新たな活躍の場として期待
介護支援サービスの一環として始まった、言語聴覚士による訪問リハビリ。患者さんが普段過ごす家庭環境で訓練や指導が受けられるのは、家族にとっても魅力的な支援といえます。家庭環境に合わせた指導ができる訪問リハビリならではの需要もあり、言語聴覚士にとって新たな活躍の場として今後も期待が高まります。
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