作業療法士の転職入門 ~作業療法士を辞めたい時に考えること~
公開日:2020.04.24 更新日:2022.01.28
文:田口 昇平
作業療法士/福祉住環境コーディネーター2級
作業療法士として働くなかで、職場によっては期待通りのリハビリができないこともあるでしょう。ときには作業療法士を辞めたいと考えることがあるかもしれません。
私はリハビリ科の責任者として多くの転職希望者にアドバイスをおこなってきましたが、「作業療法士を辞めたい」と考える理由を掘り下げてみると、いまの職場環境が自分に合っていないケースがほとんどでした。
今回は作業療法士を辞めたくなる理由について考えながら、「辞めたい」と思った時の解決策をお伝えしましょう。
作業療法士の仕事は大変?辞めたい理由はさまざま
「作業療法士を辞めたい」理由は人によってさまざまです。とはいえ、作業療法士から他の職業への転職を考えているケースには同じような傾向が見受けられます。
まずは現職の作業療法士が不満に感じやすい原因を元に、転職に至る理由を見てみましょう。
1.患者さん、利用者さんの生活を支援するリハビリができない
作業療法士の仕事は「患者さんや利用者さんの生活を支援する」ものであり、それこそがやりがいといえます。
生活動作や趣味・余暇活動のリハビリを通して、患者さんや利用者さんを支援したいと考える作業療法士は多いのではないでしょうか。ところが、職場によっては思ったように生活を支援するリハビリができないこともあります。
特に病院や老人保健施設では、マッサージやストレッチ、筋力訓練といった体の機能回復を狙った訓練ばかりを実施するよう指示されるかもしれません。作業療法として本来目指していたリハビリができなくなれば、モチベーションも下がるというもの。
患者さんや利用者さんの生活を支援するリハビリができないという不満は、作業療法士からもっともよく聞かれる転職理由のひとつです。
2.上司の管理・指導方法が合わない
「上司が、仕事ぶりをしっかりと評価しない」「上司の指導がきつい」など、上司の管理・指導方法が合わないために、別の仕事に転職をしたいと考えるケースもよくあります。
作業療法士は生活動作や趣味・余暇活動のリハビリをおこないながら、患者さんや利用者さんの精神面もサポートするのが仕事です。そのため、ときには、患者さんや利用さんの話を傾聴したり、遊びを通してリハビリしたりすることもあります。
しかし、こうした働き方について必ずしも自分の上司が理解してくれるとは限りません。なかには、「話を聞いているだけ」「遊んでいるだけ」などと、作業療法士がおこなうリハビリの時間に意味を見出さない上司である場合もあるでしょう。
結果として、自分が求めるリハビリにやりがいが感じられなくなり、作業療法士を辞めてしまうのです。
3.指導してくれる先輩がいない
作業療法士として働くうえで、先輩の存在は貴重なものです。リハビリの知識や技術を身につけていくには、先輩からの指導が欠かせません。
もちろん、文献や論文、外部研修でも、知識や技術を学ぶこともできますが、目の前の患者さんや利用者さんに合わせたリハビリを提供するには、先輩からの具体的なアドバイスがもっとも効果があるからです。
また、目標としたい作業療法士の先輩がいるとキャリアを積んだ自分の将来像もイメージしやすくなり、日々の自己研鑽にも力が入ります。逆に誠実に指導してくれる先輩がいない職場は、学ぶ機会も減り、今後のキャリアプランをイメージすることも難しいでしょう。
そのうちに作業療法士を続けるモチベーションが維持できず、転職を考えてしまうケースが多くあります。
4.相談できる同僚がいない
作業療法士の仕事には悩みがつきものです。患者さんや利用者さんをうまく支援できずに、挫折や無力さを感じることもよくあります。
悩んだ時に相談できる同僚がいると、仕事の大変さや不安な気持ちを共感してもらい気持ちが楽になるものです。しかし、そうした相談相手がいない職場では自分ひとりで悩みを抱えてしまいがち。相談できる同僚がいない孤立感から、作業療法士を辞める人もいます。
このように作業療法士を辞めたいと考える時は、職場の方針や仕事内容が合わなかったり、悩んだ時にサポートしてくれる人がいなかったりするケースがほとんどです。
本当に「作業療法士」を辞めるべきか?
作業療法士を辞めたいと思うからには、他の職業への転職を考えるのが前提でしょう。しかし、「作業療法士という仕事自体を辞めることが必ずしも正しい選択」とは言えません。特に、今の職場の方針や仕事内容、人間関係に対する不満が原因で辞めたいと考えているなら、他職種への転職を決断しないほうがよいでしょう。
なぜなら、作業療法士の仕事を辞めることには、次の2つのデメリットがあるからです。
①せっかく身につけたリハビリの知識や技術が活用できなくなる
作業療法士を辞めてしまうと、これまで積み上げてきた知識や技術が活かせなくなります。「作業活動を用いた評価や治療」「生活動作を支援する方法」「精神面を踏まえた機能訓練のコツ」など、いずれも作業療法士の仕事だからこそ活かせる専門的な知識や技術です。
こうしたスキルを活かせない職業への転職となれば、キャリアにおいても一から築くことになり、キャリアアップの道も後退します。
②自分に向いている仕事が見つからない可能性がある
作業療法士を辞めても、やりたい仕事がすぐに見つかるとは限りません。というのも、現在、作業療法士として働いている人の多くは、人の役に立ったり、そもそもリハビリの仕事が好きだったりするからです。特に、学生時代から作業療法士を目指してずっとがんばってきたのであれば、同じくらい魅力を感じられる仕事は、簡単には見つからないかもしれません。
作業療法士を辞めるとしても、デメリットがあることを自覚しておく必要があります。これまでのキャリアを活かして、やりたい仕事を続けるためには、他の職業への転職は慎重に考えていきたいものです。
まずは職場を変えることを考えよう
作業療法士を辞めたいと思い浮かべたとき、まずは今のスキルが活かせる職場への転職から考えてみましょう。作業療法士としての転職は、以下の2つのメリットがあります。
職場の方針が変わることで、働き方が変わる
作業療法士の仕事は病院や介護施設によって提供しているリハビリの内容が変わります。リハビリ専門病院のなかには機能訓練に力を入れている職場もあれば、作業療法士が中心となって、患者さんの生活動作の訓練や在宅退院支援をおこなうところもあります。
あるいは、職場側が積極的に精神面のサポートを促し、作業療法士に趣味・余暇活動のリハビリを奨励している老人保健施設もあるでしょう。
同じ機能を持った病院や介護施設であっても職場の理念や雰囲気が変われば、作業療法士としていままでとは違った働き方ができる可能性が広がります。
人間関係が変わる
職場の人間関係は、作業療法士としての働きやすさに大きく影響します。
作業療法士のリハビリに理解ある上司のもとで働くことができれば、思い描いていたリハビリを実施できる可能性があります。生活動作を支援したり、患者さんや利用さんと一緒に作業活動を楽しんだりできる職場もあるのです。
また、親身に指導してくれる先輩や相談できる同僚がいれば、リハビリの知識や技術を向上させる機会が増え、自分ひとりで悩みをかかえる心細さも少なくなります。特に作業療法士の経験年数が少ないうちは、キャリアを積み重ねたり、仕事を続けるモチベーションを維持したりするためにも、先輩や同僚の存在が必要です。
ここまでの説明からもわかるように、職場が変わると作業療法士としての働きやすさが変わります。作業療法士そのものを辞めてしまう前に、自分が思い描いている作業療法がおこなえるような職場探しから考えてみましょう。
自分に合った職場を探すには
では、自分に合った職場を探すには、どのような点を意識するとよいのでしょうか? ここからは作業療法士として転職するときに、意識すべきポイントを紹介しましょう。
自分がやりたい作業療法を見直す
やりたい作業療法の方向性が明確でなければ、新しい職場に行っても自分の思い描いたリハビリができるかどうかさえわかりません。
まずは自分がやりたい作業療法を明確にし、しっかりと見据えることが大切です。やりたい作業療法を自覚するためのもっとも良い方法は、興味のある分野を明確にすること。
例えば機能訓練の技術を学びたいのか、生活の支援に力を入れていきたいのか、精神面のサポートをおこないたいのかなど、具体的にすればするほど求める職場環境がわかりやすくなります。作業療法士として転職したい職場も見つかりやすくなるでしょう。
転職後のミスマッチを防ぐためにも事前に自分の興味のある分野を明確にし、やりたい作業療法を見直すようにしましょう。
職場の運営方針をチェックしながら、職場を探す
作業療法士がおこなうリハビリのプランは、病院や介護施設の運営方針にもとづいています。例えば、患者さんや利用者さんの“生きがい”を重要視している職場では、生活動作や精神面のサポートに力を入れることになるでしょう。
一方でからだの機能回復を目指すことを運営方針とする職場では、多くの時間と労力を機能訓練にあてることになります。つまり、自分の希望に合った病院や介護施設を見つけるには、転職先の運営方針をチェックする必要があるというわけです。
職場の運営方針を確認したいなら、ホームページやパンフレットなどをチェックするとよいでしょう。また、転職先の施設を見学したときに採用担当の方に質問をしてみると、より具体的な運営方針を知ることができます。転職をする時には、運営方針をチェックしながら自分に合った職場を探すようにしましょう。
作業療法士のスキルと経験を活かせる転職を
作業療法士を辞めたいと考える時には、自分のやりたい作業療法と職場環境が合っていない場合がほとんどです。ですが、ほかの職業に転職するとこれまで身につけた知識や技術を活用が難しく、一からキャリアを積み上げていかなければなりません。
もちろん、どうしても別の仕事に転職したい人もいるかもしれませんが、本当に後悔しない選択といえるのか、しっかり考えたうえで行動することをおすすめします。
まずはこれまでのキャリアを活かして自分が思い描いた作業療法をおこなうために、作業療法士としてほかの職場への転職を考えてみてはいかがでしょうか。
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田口 昇平
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