【介助・介護で役立つ】声かけの効果と対象者に動いてもらうポイント(前編)
公開日:2021.06.22 更新日:2023.03.14
文:福辺 節子
理学療法士/医科学修士/介護支援専門員
「声かけ」は介助(その他のセラピーやケアも同様)の重要な要素であり、声かけだけで介助は大きく変化します。対象者に動いてもらえるかどうかの7〜8割は「声かけ」にかかっているといっても過言ではないほどです。
しかし、ただ話しかければ良いわけではなく、声かけにもコツがあります。今回は介助で積極的に取り入れたい4つの「声かけの基本とその効果」について、ひとつひとつ解説していきます。
目次
声掛けの基本(1)すべての人に声かけをする
声掛けの対象者に例外はありません。
聴力障害、認知症、介護拒否、言葉が通じない、などで声かけをする意味がないと思われてきた対象者は、反対に声かけが絶対必要な人と言えます。
何らかの障害で「周囲の状況が把握できない」「現状を受け入れられない」人に対して、何の前置きもなく介助を始めたら、恐怖や不安をあたえてしまうからです。
「声かけしてもどうせ伝わらない」とあきらめず、「どうしたら伝わるか?」を考えることが、介助者には求められます。
声掛けの基本(2)伝わる声かけをする
では、言葉が通じない人にどのようにすれば「伝わる声かけ」ができるのでしょうか。
まずは当然のことですが、可能な限りの伝える努力をしたかどうかです。
いくつかの言葉が伝わらなかったからといって、対象者を「言葉が通じない人」「認知症」と決めつけないでください。話し方、音量、筆談、身振り手振り、ゼスチュアなど、その人に通じるコミュニケーションの方法を見つける努力が必要です。
ただし、伝える努力をした上でどうしても伝わらない場合にはどうすればよいのでしょうか。その場合は、必ずしも内容は伝わらなくてもかまいません。
内容ではなければ、いったい何を伝えるのか? 伝えたいのは「私はここにいます」というメッセージです。
「これから私が○○をするけれどいいですか?」
「私と一緒に〇〇をしてもらえますか?」
「触れるかもしれないけれど、よろしいですか?」
このような気持ちを含んだ「ここにいます」という声かけです。
伝わる声かけとは、介助する側が「伝えようという意思・意図」を持ってする声かけです。介助者が「絶対に伝えるんだ」「伝わるのだ」と思わなければ、被介助者には伝わりません。
実は、「この人の言うことを聞いてみよう」と思うのに話の内容はあまり関係ないと言われています。
結果に影響を与える要素として、内容の占める割合は1割にも満たず、あとの9割以上を言葉以外の要素が占めています。具体的には、話し手の表情や雰囲気、身振り、手振り、声のトーン、大きさ、声色などです。
・話し手の表情や雰囲気
・身振り
・手振り
・声のトーン
・大きさ
・声色
言葉遣いがいかに丁寧でも、表面だけをとりつくろった声かけは、相手にすぐにバレてしまいます。重要なのは介助者が相手を“声かけが通じる人”だと信頼して、心を込めて声をかけることです。
声掛けの基本(3)伝わったかどうか確認する
こちらが思うような反応がなくても、リアクションがあれば、何かは伝わっています。
「はい」「いいえ」と返してもらえることも、うなずきなどで返してもらえることもあるでしょう。
動き、言葉に障害のある対象者であれば表情を見ます。
重い認知症の人やパーキンソンの人など表情も読み取りにくい対象者は、表情の中でも目を見て、「相手からの視線を捉えることができるかどうか」で伝わったかどうかを確認します。
「目を見る」という行為は、介助者がここにきて初めてする行為ではなく、声かけを始める前から介助者が既にしているはずの行為です。
以前、介助とは“感覚を入力することによって、相手の動きを引き出すこと”であるとお話しししたことがありますが、声かけにもさまざまな“感覚の入力”が含まれています。
声かけとは、言葉による聴覚への働きかけだけではなく、視覚からの働きかけでもあるのです。
顔も目も見ず「立ってください」と言われても、立とうという気にはなりません。目を合わせて「立っていただいてもいいですか?」と手を差し出されたら「立ってみようかな」という気持ちになり、思わず差し出された手を握ってしまいます。
聴覚だけでなく「視覚からも対象者を捉えられているか」また「同時に対象者からも捉えられているか」をよく観察することが重要です。
声掛けの基本(4)これらをすべて行い、必要であれば介助をはじめる
ここまでご説明してきた(1)~(3)をすべて終え、介助が必要であると判断したらそこで初めて相手に触れます。
他人の体に触ることは特別なことであり、ヘルパー、介護福祉士、看護師、セラピスト、医者などは、『免許』があって他人に触れることが許されている職種です。
「触れる」動作はとても特別なことであるのに、介助者と被介助者になった途端、十分な声かけもしないで相手の体に触るのが当たり前になってしまっているのは、おかしなことです。
他人に触れることの意味や特別さを、もっともっと意識して介助する必要があります。
また、触れてすぐに対象者を誘導しても相手は動いてくれません。
「立っていただいていいですか」「……はい」と相手からの返事が返ってきて、そこから「では、」と一呼吸おくくらいの間があってはじめて対象者の動きを引き出すことが可能になります。
声かけをしながら相手を動かしたり、「どうせ通じない」と思いながら声かけをしたりするのでは、相手の力を引き出すことはできません。
もし一生懸命視線を合わそうとしても視線が合わない場合は、聴覚と視覚以外の感覚刺激を少しずつ増やしていきます。
対象者と視線を合わせられないまま介助(セラピー)を始める場合は、たとえ対象者の身体を抱きかかえていたとしても、相手の意識がこの場所・時間にないことを考慮して介助をします。意識がここにない人ならば、立ってもらえなくて当たり前です。知覚も鈍っているので、ケガをしないようにいっそう注意を払わねばなりません。
ただし、その場合もセラピストが一方的に相手を動かすのではなく、対象者の動きを引き出すように働きかけるのは必須です。声かけの視覚や聴覚による刺激だけでなく、触覚、圧覚、運動覚、位置覚、平衡感覚などで対象者に働きかけることがセラピストや介助者の大きな武器と言えます。
こちらに意識を向けてもらえるよう、様子をうかがいつつ、感覚刺激を増やしてみましょう。
対象者(の意識)がこの場に帰ってきたときには、対象者の足が地面を捉え、頭や体幹が起き、上肢で介助者の身体を持ち、表情も一瞬にして変わります。そんな介助(セラピー)の醍醐味を味わうことができた介助者は、この魅力から逃れられなくなるはずです。
声掛けは「対象者の力」を引き出すことができる
対象者を信頼しない、対象者を待てない介助は、その人の能力や意欲、プライドを奪ってしまいます。
対象者の力を引き出せない一方的な介助は、単に介助者がやってしまうというだけではなく、対象者の能力や意欲、生きる力まで奪ってしまう行為であることを、介助者はもっと自覚しなければならないと思います。
対象者の力を引き出すきっかけとして、声かけは非常に重要な要素であることを覚えておきましょう。
この記事は後編「【介助・介護で役立つ】声かけの効果と対象者に動いてもらうポイント(後編)」に続きます。
福辺 節子 (ふくべ せつこ)
理学療法士・医科学修士・介護支援専門員
一般社会法人白新会 Natural being代表理事
新潟医療福祉大学 非常勤講師
八尾市立障害者総合福祉センター 理事
厚生労働省老健局 参与(介護ロボット開発・普及担当)
一般社団法人 ヘルスケア人材教育協会 理事
大学在学中に事故により左下肢を切断、義足となる。その後、理学療法士の資格を取り、92年よりフリーの理学療法士として地域リハ活動をスタート。「障がいのために訓練や介助がやりにくいと思ったことは一度もない。介護に力は必要ない」が持論。現在、看護・介護・医療職などの専門職に加え、家族など一般の人も対象とした「もう一歩踏み出すための介助セミナー」を各地で開催。講習会・講演会のほか、施設や家庭での介助・リハビリテーション指導も行っている。
<著書>
イラスト・写真でよくわかる 力の要らない介助術/ナツメ社(2020)
生きる力を引き出す!福辺流 奇跡の介助/海竜社(2020)
マンガでわかる 無理をしない介護/誠文堂新光社(2019)
福辺流力と意欲を引き出す介助術/中央法規出版(2017)
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