【管理栄養士執筆】嚥下障害のリハビリにおすすめしたい「MCTオイル」の活用法
公開日:2021.06.25 更新日:2021.07.09
文:篠塚 明日香
(管理栄養士・分子栄養学カウンセラー)
嚥下能力が低下すると食事が楽しめなくなることになり、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の低下に直結します。くわえて、誤嚥性肺炎や窒息を起こすリスクも高まりますので放置することはできません。
嚥下障害の原因は様々ですが、加齢とともに全身の筋力が低下することも大きな一因です。ただ、食事や運動によって予防することが可能ですので、そうなってしまう前に日頃から意識することが重要となります。
今回は嚥下能力の低下予防と、嚥下障害のリハビリテーション両面で大切になってくる、「食事のエネルギーアップ法」を紹介します。
嚥下障害の原因は「全身」で考えて栄養管理する
嚥下障害とは、口のなかのものをうまく飲み込めなくなる状態のことを指します。飲食物を胃に送り込むには、舌や喉、食道といった複数の器官が関係していますが、これらのどこかに機能低下が生じることで起こります。
嚥下障害になると食が進まず、低栄養や脱水を起こしやすくなるため、ますます食べる機能が低下して衰弱するという悪循環に陥ります。
・むせる
・口が乾く
・薬が飲み込みにくい
・話すときに舌がひっかかる
・食事に時間がかかる
・食後に口のなかに食べ物が残る
嚥下障害の初期症状としてこのような例がありますので、家族や介護者は重症化する前に小さなサインを見逃さないようにしたいところです。
嚥下障害が起きる原因は、腫瘍や神経筋疾患、認知症、薬の副作用などもあるとされますが、加齢による筋力低下もその原因のひとつです。筋力の低下は誰にでも起こることですので、考え方によっては予防や改善が有効であるという見方ができるでしょう。
そして、筋力低下は嚥下に関連する口腔や喉付近だけではありません。加齢とともに全身の筋力も落ちていくわけですが、その全身の筋力も食べる機能に関わっており、低活動、低BMI(ボディマス指数:体重と身長の関係から算出される、肥満度を表す体格指数)はとくに嚥下障害と強い関連を示すことが分かっています。
日頃からしっかりと食べて体を動かすことが、嚥下障害の予防になるというわけです。
たんぱく質も大事だが、エネルギー不足を補うことが最優先
嚥下障害のリハビリテーションでは、言語聴覚士の評価のもと、個々に適する食形態を見つけることが大切です。リハビリテーションの過程では安全な嚥下を重視するので、必要な栄養素が十分に摂取できないメニューになることや、好きな食べ物が食べられないといった問題も生じるため、介護者のなかにはとても悩ましいと感じている人も多いと思います。
とくに高齢者は食事量が少ないため、どんな栄養素を優先して食べたらいいか分からないという声もよく聞かれます。
嚥下障害の原因や筋力低下を改善しようと考えると、どうしてもたんぱく質の摂取を優先しがちになります。しかし、食べたたんぱく質を消化吸収するにも、たんぱく質を筋肉へと合成するにも、エネルギーが必要になることを忘れてはいけません。
そもそもエネルギー不足の状態では、咀嚼する力が出せないだけでなく、消化力も低下しますし、せっかく食べたたんぱく質さえもうまく体内に取り込めていません。
関連することとして、元気が出ない、リハビリテーションに意欲がわかないというのもエネルギー不足のサインですから、嚥下障害を持った高齢者がリハビリを継続するためにも、まずはエネルギーを確保することを考えましょう。
嚥下リハビリテーションの食事では、いかに安全に飲み込めるかという工夫をするため、とろみがついているメニューだったり、口のなかでバラけない食材選びだったりという部分がクローズアップされます。
しかしこのコラムでは、エネルギー不足を補うという視点から、低BMIで筋肉量が少ない高齢者向けに、少量でもカロリーアップできる食事を紹介したいと思います。
エネルギーアップにおすすめしたいMCTオイル
人がエネルギーとして使える栄養素は、糖質、脂質、たんぱく質の3つ。これを、三大栄養素といいます。そして、それぞれが持つエネルギー量は異なっており、1gあたりで換算すると、糖質は4kcal、脂質は9kcal、たんぱく質は4kcalとなっています。少量でも高いエネルギーを持つ脂質は、効率のいいエネルギー源となるわけです。
そういった理由から、食事量が少なく嗜好が糖質に偏りがちな高齢者は、脂質をうまく使いたいところ。そうはいっても、なかなか揚げ物や炒め物、脂の多い肉などは消化力の弱った高齢者には食べにくいというケースも多いのが現実です。
そんなときにおすすめしたいのが、MCTオイルです。MCTオイルは中鎖脂肪酸に分類される脂質ですが、他の植物油や肉、魚に多く含まれる長鎖脂肪酸と異なり、消化の負担が少なく、エネルギーになるのが早いという特徴があります。
消化液をあまり使わずに分解・吸収できるので、消化に使うエネルギーのロスを軽減し、体力温存にもつながります。さらに、オイルによってツルリとした食感になり、パサついた食品がまとまりやすくなるなど、嚥下しやすくなるメリットもあります。
MCTオイルのおもな使い方
最後に、MCTオイルの使い方を紹介します。MCTオイルは、基本的に加熱用には向きません。発煙点が150℃弱と低いため高温調理になると煙が出てしまうためです。
ですから、できあがった料理にかけるドレッシングにするというのがスタンダードな使い方です。
MCTオイルの形状は、液体のオイルだけでなくパウダータイプもありますので、用途に合わせて使いやすいものを選んでください。味や香りはほとんどなく、ほかの油よりも油っぽさも少ないので、クセがなく高齢者の食事に対しても使いやすいでしょう。
- MCTオイルの活用法
- ・サラダのドレッシングとして使う
・マヨネーズやタルタルソースに混ぜる
・ポテトサラダに入れる
・粥やパン粥、味噌汁などの汁物に足す
・おひたしや和え物に混ぜる
・ほぐした焼魚に混ぜる など
- MCTパウダーの活用法
溶かすと白濁してややクリーミーになりますので、牛乳を使った料理によく合います。
-
・シチューやポタージュに入れる
・マッシュポテトに入れる
・コーヒや紅茶に入れる
・ヨーグルトに混ぜる など
摂取量の目安は一食あたり3~5g(小さじ1程度)からはじめてみるといいでしょう。初めは油の存在を感じないくらい、ほんの少し足すだけで大丈夫です。
たとえば、5g×3回=1日15g足せれば、15g×9kcal=合計135Kcalアップさせることができます。これはご飯80gに相当するエネルギーですので、効率的にカロリーアップができるはずです。
ひとつ注意点としては、カップ麺などに使用されるポリスチレン製の容器は、MCTオイルによって溶ける性質があること。利用すると容器が変質し、中身が溢れる可能性があるため気をつけてください。
エネルギー産生が向上すると、元気が出て活動量が増えるだけでなく、気持ちも明るく前向きになり、リハビリテーションへの意欲も高まります。ぜひ、MCTオイルを有効活用してみてください。
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篠塚明日香
管理栄養士・分子栄養学カウンセラー
1977年、茨城県に生まれる。管理栄養士、分子栄養学カウンセラー。東京家政大学短期学部栄養科卒業後、老人介護保健施設での給食管理の実務を経て管理栄養士となる。
現在は、フリーランスとして分子栄養学のセミナー開催やエステサロンでのダイエット指導、企業商品の考案などにも携わる。
所属:合同会社スリップストリーム
プロフィール写真:櫻井健司
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