ピアサポート・ピアサポーターとは?活動例からわかる効果や役割
公開日:2021.09.07 更新日:2021.10.29
文:鎌田康司(作業療法士/サービス管理責任者)
「ピアサポート」という言葉を聞いたことはありますか?
学生時代に同じクラスや部活の仲間に、「一緒に頑張ろう!」と声をかけてもらって勇気づけられた経験はないでしょうか。
同じ「頑張れ」でも、先生に言われる「頑張ろう」と仲間から言われる「頑張ろう」では、立場の違いから受け取る側のニュアンスも変わってきます。
仲間から言ってもらえた言葉のほうが、より身近で心強いものに感じるのではないでしょうか。
ピアサポートでは、このような仲間同士だからできる“対等性”や“共感性”から生まれる支え合いを大切にしています。
今回はさまざまな分野で使われるようになった「ピアサポート」「ピアサポーター」について、筆者が勤める精神科分野での役割や支援内容とともに詳しくお話していきましょう。
目次
ピアサポーターが与える効果とは?利用者さんが前向きになれる理由
私が現在勤めている精神科の分野では、次のような人を「ピアサポーター」という言葉で表しています。
障害や疾病などの経験をもち、それらの経験を活かしながら、対人援助の現場などで働き、障害や疾病をもつ仲間(ピア)のために支援やサービスを提供する人
私が初めてピアサポート・ピアサポーターを知ることができたのは、老年期から精神科に転職をしてからのことで、作業療法士になって4年目のことでした。
当時の病院には、まだまだ長期に入院している方が多く、30年、40年も入院している方もいました。何十年も入院をしていると、もともと住んでいた地域もまったく変わってしまい、世の中が便利になった分、知らないことも増え、退院を拒否してしまう方もいました。
私が作業療法の担当をしていた男性の方も、30年以上入院しており、病院の外に行くときには「シャバに行ってくる」と笑いながら話していたのを覚えています。それぐらい長期間のあいだ、地域や社会と隔たった生活を余儀なくされていたのです。
そのような方々が安心して退院するために、適切なサポートを行う福祉サービスの方々が病院に来る機会がありました。その支援者のなかにピアサポーターの方がいたのです。
また、今まで不安から頑なに退院を拒否していた方が、地域での生活に少し興味をもつようになりました。この変化は、この方にとってはとてもとても大きな変化の一歩でした。
自分の障害や疾病の経験を、同じ経験をもった人のために活かすことができることを知り、強い衝撃を受けたことを覚えています。
そしてこのような関わりは、当事者同士だから生まれる関係性であり、自分にはつくるができない支援関係であることを知ったのと同時に「いずれ自分も、ピアサポーターの方とチームになって一緒に支援ができたらいいな」と思いました。
当事者同士だから伝わる。ピアサポーターが果たす限りない役割
その後、私は病院から地域の訪問看護ステーションに転職をし、現在は障害福祉サービスの事業所で管理者としてピアサポーターと一緒に仕事をしています。
利用者のなかには、さまざまな原因で自宅にこもりがちになっている方や、支援者に対して不信感をもってしまう方、状況の改善のためにいろいろな提案を行っても、それを受け入れることが難しい方がいます。
そのような方でもピアサポーターが関わりを始めると、「家からなかなか出られなかった人が、行きたかったお店に買い物に行くことができた」「ほかのスタッフが提案しても受け入れてもらえなかった提案を受け入れてくれた」といった変化が起きることがあります。
さまざまな要因はあれど、「ピアサポーター自身も障害や疾病の経験をもち、その疾病や障害を抱えながらも自分なりに回復の過程を経ていること」が、大きな違いです。
その経験があるからこそ「私はこのようにしてきた」「こんな工夫をした」「こうしてもうまくいかなかった」という実体験を当事者の方と共有でき、利用者の方の安心につながったり、小さな希望を抱くきっかけになるのではないかなと思っています。
もちろんすべての方にその専門性が活かされるわけではありませんが、同じ支援のチームのなかにそのような専門性をもったスタッフが居てくれることは、とても頼もしい存在です。
「支援し過ぎないこと」も、ピアサポーターには大切
支援を行っていると、その方の悩みを1人で抱え込んでしまったり、自分のできることの限界を超えてしまうときがあります。しかし、そのとき代わりに手助けをしてしまうことは、その方の力を奪ってしまうことにもなりかねません。
ピアサポーターも、「あなただけに話すんだけど……」と頼りにされて相談を受けたり、その方のためにあまりに一生懸命になることで、支援し過ぎてしまうことがあります。
支援者すべてにその可能性はありますが、ピアサポーターはその対等性や共感性を活かして支援を行うことから、対象の方との距離感や関わりで葛藤や課題を抱えてしまうことが多くなってしまうのです。
そのようなときに大切だといわれているのが、「バウンダリー」と呼ばれるものです。バウンダリーとは、「自分と他者との境界や限界」という意味をもちます。
バウンダリーの詳細はここでは割愛しますが、ピアサポーター自身がバウンダリーを念頭に置き、自分の体調や、自分の役割やできることの限界、仕事としての範囲などを把握しておくことが大切といわれています。
また、そのような状況で相談がしやすい職場環境や、困ったときに助言をくれる上司、ピアサポーターの仲間の存在も大切です。同じ職場で2名以上のピアサポーターが居ることが理想ですが、そうでない場合でも、近隣のピアサポーター同士が集まれる機会に参加したりすることが重要です。
ピアサポーターになるには?資格は不要、分野に沿った養成研修も
ピアサポーターになるにあたり、明確な必須資格というのはまだないのが現状です。しかし、さまざまな分野や領域で、その分野に沿ったピアサポートを行うための養成研修を行っています。
研修には、当事者の方の参加がほとんどを占めるものの、ピアサポーターの雇用を考えている雇用先のスタッフが一緒に参加することもあるようです。
得意なことや苦手なこと、大切にしていることなど違いを認め合い、補い合うこと支え合うことができる環境が増えるための取り組みを、私たち一緒に働くスタッフが行っていくことも必要となります。
自分がどんなピアサポーターになりたいのか?役割や業務の整理を
ピアサポートという専門性を活かして働きたいと考えていても、場合によっては専門性以外の役割や業務を行う必要があることもあります。雇用先が求めている役割や業務と、自分が行いたいことや大切にしたいこと、病気や障害に対して受けられる職場内での配慮、そのようなことを整理しながら、働きやすい環境を一緒につくれることが望ましいと思います。
私自身も、ピアサポーターに興味をもった方が、ピアサポーターについて知ることができたり、実習という形で実際に体験をすることができるような機会をつくる活動を、近隣の3カ所の法人で協力して行っています。
プロジェクトを始めて7年になりますが、このような活動を通して実際にピアサポーターとして活動することができたり、人によっては経験を通してピアサポーターではない新たな道や目標を見つける機会にもなっています。このような活動が、ほかの地域でも行われるようになることを活動の目的としています。
おわりに
今回はピアサポーターについて、その役割や専門性について、私の実際の経験を元にお話ししました。
病気や障害を経験し、これまでにない困難に直面したり、先の見えない不安のなかで前に進めず立ちすくんでしまっている方たちの本当の気持ちを理解することは簡単ではありません。それでも、理解することに努めることは大切なことだと思っています。
ピアサポーターやさまざまな専門性・経験のあるスタッフと一緒に、その方がどんなことに困っていて、どうしたいのか、自分たちにできることは何か、そのようなことを「ああでもない」「こうでもない」と言い合いながら、これからも考えていきたいと思っています。
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鎌田 康司
得意分野は精神科、高齢者、訪問看護、障害福祉サービス、施設マネジメント、地域ケア。
介護老人保健施設で勤務後、精神科単科の病院で院内作業療法を経験。患者さんの実生活を知るため、地域の訪問看護ステーションに転職。今は生活訓練という障害福祉サービスの管理者として、精神障害や発達障害、知的障害の方たちの地域生活のサポートをしている。3人の子どもがおり、子育てと家事にも奮闘中。
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