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【OT教員が教える】作業療法士の辛い実習を乗り越える3つのヒント

公開日:2021.10.15

つらい作業療法士の実習を乗り越えるコツ

文:泉良太(作業療法士)

作業療法士になるための学校(養成校)を決めるとき、「実習時間が長い」ことが学校選びの上位になる学生が多いです。それは「実習が多ければそれだけ深く学ぶことができる」という判断からだと思います。

ところが入学後はしばしばそれが逆転することがあります。実習が近づくと不安になり、「実習は短いほうがいい」「ないほうがいい」と思う人が少なくありません。

今回は作業療法士の養成校教員である筆者が、「実習のつらさを乗り越えるコツ」について「実習に対して不安を感じる理由」とともにお伝えします。

作業療法士をめざす人には共通する特徴がある

学生が実習に不安を感じてしまう理由、この答えを出す前に作業療法士をめざす人の特徴をお話したいと思います。

作業療法士の志望動機で多いのは、次のような理由です。

「人の役にたちたい」
「おじいちゃん、おばあちゃんが好き」
「親のすすめ(自分はやさしい性格だから合っているのでは?)」

どれも本当だとは思うのですが、裏腹な気持ちを含んでいることも多々あります。

「人の役に立ちたい」→「人の役に立っている自分を感じたい」
「おじいちゃん、おばあちゃんが好き」→「自分をやさしく受け入れてくれる人と一緒にいたい」
「親のすすめ」→「自分で進路を決める自信がない」

実は自分に自信がなく、「自己肯定感の低さから脱却したい」「そんな自分でも輝いて生きていきたい」という願いが志望動機の根っこにあることがあります。

過去に私が行った調査では、作業療法学生の約6割が「対人関係に関して自分に自信がない」と答えました。また、ほかのアンケート調査では「実習での一番の悩みは指導者との人間関係」という結果もあります。

つまり学校入学前は、実習時間が長ければ時間をかけてトレーニングできることに安心を感じても、実際に実習が近づいてくると、もともともっている自己肯定感の低さや不慣れな実習地での人間関係の不安が大きくなってしまうのかもしれません。

もちろん、作業療法士をめざす全員にこのような特徴があるわけではありません。しかし常日頃、学生とふれ合っている私から見ると、コンプレックスを抱えていたり、人間関係に不安を感じていたりする人が少なくないような気がします。

コミュニケーションへの不安は「丁寧に」を心がければ乗り越えられる

私は所属する養成校で、1年生の「コミュニケーション技法」に関する授業を長年担当しています。初回の授業では必ず「作業療法士をめざす人はコミュニケーションが下手な人が多い」という話をします。たいていの学生の反応は、笑ったり、うなずいてくれたりです。

この授業は「コミュニケーションは技術。練習すれば誰でも上手になれる」をテーマに、さまざまな技術を日常生活から実践して、いずれ現場力に変えられるようにしています。

ここでひとつ、コミュニケーションのアドバイスをさせていただくのなら「丁寧」に行うということです。

“上手に”コミュニケーションを行うのではなく“丁寧”に行うのです。

挨拶を丁寧にする、自分の考えを丁寧に表現するなど、丁寧に伝えようとすると、たとえたどたどしくても想いは伝わり、相手は耳を傾けてくれるものです。

実習前には「根拠」を必ず理解しておく

つらい作業療法士の実習を乗り越えるコツ
実習に行く前にぜひ身につけておいてほしい習慣があります。

それは、常に「根拠は何か?」と考えてほしいことです。

養成校では、担当講師が教科書の内容を要約したプリント資料を配ることがよくあります。このプリントは複数の教材の要点がまとめられているので、授業を受けるとわかった気になりますが、「なぜそれが重要なのか?」「なぜそうなるのか?」ということまで理解していないことがあります。

実習の現場は医療機関です。何をするにしても実施する「根拠」が求められます。そのため、復習をするときはプリントと一緒に教科書を開いて、授業の要点の「根拠」を理解するようにしてください。

最初は分厚い教科書に抵抗を感じるでしょうし、調べることに時間をとられると思います。でも、「そうか、なるほど! そういう理由だったのか!」と根拠までたどり着いた知識はそう簡単には忘れないのです。

実習において”根拠”が大切な理由

では、なぜ根拠が大事なのでしょうか。

それは、医療現場では、患者さんの状態に合わせてやり方を柔軟に変えること、つまり「応用力」が求められるからです。

柔軟に対応をするためには「なぜそれをするのか」という目的や、「どのようなことに注意して実施しなければならないのか」を理解しておく必要があります。

ですから、作業療法の検査方法や治療介入など技術的なものであっても、やり方よりも「目的」や「注意点」の理解のほうが大切なのです。

実技を練習するときに心がけてほしいこと

多くの人は、方法を示した写真や絵のまねをする練習から入りますが、なかなか上手にならず、実習地で使える技術にまでならないことがよく見られます。

それは、見よう見まねで作業をしているだけで、「何が大切なのか」までわかっていないからです。

現場では写真や絵とまったく同じようにできるとは限りません。しかし、「なぜそれをするのか」という根拠をしっかりと理解しておけば柔軟に対応することができます。

ですので、実技を練習するときは、必ず教科書に書いてある「目的」と「注意点」をよく読んで理解しておいてください。

「実習がつらい」と感じるのは“新しい自分”に生まれ変わるから

「実習がつらい、きつい」と感じる理由として、学生からは次のような言葉をよく耳にします。

「見知らぬ場所で過ごすのが不安」
「指導者からの指導が怖い」
「毎日行う課題や患者さんのことがまったくわからない」

確かにそうした事実はあるでしょう。しかしつらさの本質は別にところにあると私は考えています。

私はこれまで教員として多くの実習生を見てきました。学生たちは実習を通してさまざまな自分と直面します。

「勉強不足な自分」
「うまく立ち回れない自分」
「上手にコミュニケーションがとれない自分」
「患者さんのことが理解できない自分」

悩み、葛藤のなかで、「なぜ自分は作業療法士をめざしたのか」「私に作業療法士ができるのか」と自問自答することもあります。そのうちにどんどん深みにはまっていきます。

つまり、実習のつらさの本質は、自分と向き合わざるを得ないことではないかと思っています。でもこれは、人として成長する過程でとても健全なことです。

実習をつらく感じるのは成長している証拠

多くの作業療法学生は20歳前後の青年期です。この時期は大人へとステップアップするときにさまざまな葛藤や混乱がつきものです。

人間発達で有名なエリクソンは、「青年期の自己確立には仕事が必要だ」と言っています。自分の仕事が誰かを助けたり、社会貢献したり、誰かに認められたりする経験を通して、「自分は自分である」と感じ、自分を認めることができるようになるのです。

もし、あなたが実習をつらいと感じたのならそれは、健全に成長している証であり、必要な成長痛だと思ってほしいのです。

実習の表面的なつらさに惑わされず、近い将来作業療法士という仕事をして、なりたい自分になっている姿を強く想像し、そこへ向かって進んでいるのだと信じてください。
 

実習不安はゼロにはならないが、いまのがんばりは未来の自分をつくる

つらい作業療法士の実習を乗り越えるコツ
今回は学生の心理面に触れました。これを読んで不安になった人もいるかもしれません。私が伝えたかったことは、学生時代に「自分」を知っておきましょう、ということです。

対人援助職は、まず自分を知らないと他者を理解することはできません。私は学生時代に実習指導者から、「実習は自分の膿を出すところ」と言われました。

そのときはよくわかりませんでしたが、今思えば、「プロになる前に自分をよく知り、甘さを落としなさい」という意味であったと理解しています。

実習は作業療法士になるためのトレーニングの場だけではなく、対人援助職になるための自己覚知の場、青年から大人になる場でもあると思います。

俳優の武田鉄矢さんが、「今の自分を支えるのは過去にがんばった自分だけ」という話をしていました。実習でがんばることは未来の自分への投資なのです。

突然、自分が生まれ変わることはありません。自分を受け入れながらトライ&エラーをコツコツ実践していくことが、なりたかった自分、未来の自分をつくっていくのです。

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泉 良太

泉 良太

音楽の専門学校を卒業後、2007年に作業療法士の資格を取得。
都内リハビリテーション病院、救急病院で主に脳卒中に対する作業療法に従事。2015年より東京福祉専門学校の専任教員。
修士(医療福祉教育・管理学)。博士課程在学中。

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