【例文・会話例付き】栄養指導で相手のやる気を引き出すポイント
公開日:2022.02.03 更新日:2022.11.22
文:広田 千尋
(管理栄養士)
栄養指導を行っていると「相手にやる気が感じられない」「体重や検査値の改善が見られない」などの困りごとに遭遇することがあるかと思います。栄養指導をすること自体には慣れても、うまくいかなかったり成果が出なかったりすると不安になってしまうものです。
栄養指導でよりよい結果につなげたいなら、相手の「やる気」に焦点を当ててみましょう。
筆者は病院や保健センターで多くの方の減量や検査値の改善をサポートしてきました。この経験をもとに、具体的な会話例も交えて栄養指導のポイントを解説します。
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目次
栄養指導で大切なのは相手のやる気を引き出すこと
栄養指導では「相手のやる気を引き出すような声かけが大切」です。
相手が好ましくない食生活を送っていると、つい正しい方向へ誘導したくなりますが、ここはグッとこらえます。栄養士主導による一方的な栄養指導では、相手は”やらされている”ように受け取ってしまい、実際に取り組むことができなかったり、継続しなかったりしやすいものです。
一方、相手が自分で問題点に気づき、やる気をもって取り組んだことは継続しやすく、結果にもつながりやすくなります。
やる気を引き出すために、栄養士は「協力する」「手伝う」といったスタンスを心がけることが大切なのです。
栄養指導で話し方や話し始めが重要視される理由
具体的な栄養指導の会話例を紹介する前に、まずは栄養指導の基本をおさらいしましょう。
話し方はゆっくりハキハキ
緊張すると早口になってしまいがちですが、ゆっくりハキハキと話すことを心がけましょう。とくにご年配の方は、小さな声だと届きにくいこともあります。相手に合わせて声のボリュームやペースを調整しましょう。
また会話のなかで「えっと」「あの」などのつなぎ言葉が出てしまうと、聞き取りづらくなります。緊張するとそれらの言葉が出やすいため、リラックスして話すことを心がけてみてください。つなぎ言葉が口癖になっていないか、自分で意識してみたり、人に聞いてみたりして確認してみましょう。
スムーズな導入で緊張をほぐす
会話の導入でははじめに次のことを伝えましょう。
・相手の名前の確認
・自己紹介
・栄養指導が必要な理由
・予定している所要時間
・栄養指導後の流れまで
これからの流れを把握してもらうことで、相手の不安や緊張を軽減できます。
また第一印象は数秒で決まるともいわれているため、笑顔を心がけるのはもちろん、言葉遣いや身だしなみも気をつけておきましょう。
リラックスして話せる環境を用意
栄養指導の環境は職場によって場所が決められていることがほとんどですが、一度リラックスして話せる環境かどうか確認してみましょう。もちろん、相手のプライバシーを守れる場所であることが大切です。
話すときに座る位置は相手の正面でなく、お互いに90度の位置になるようにします。90度に座るほうがお互いにリラックスしやすく、自然なコミュニケーションがとりやすくなるためです。
机や椅子の配置など、現在の環境を見直してみるといいでしょう。
【シチュエーション別】栄養指導の会話例・事例集
続いて、3つの会話例を紹介しながら栄養指導のポイントを解説します。
会話例①諦めてしまいやる気が見られない
Aさん:今まで何回も指導を受けてきたけど、痩せられないしもう諦めている
栄養士:そんなこと言ってはダメですよ。痩せないと身体に悪いですよ。頑張りましょう
栄養指導では、このように諦めてしまっている方によく出くわします。Aさんはここで本音を話してくれていますが、栄養士はその気持ちを受け止めないまま、励ましの言葉を投げかけてしまっています。
まずは今までの努力をねぎらい、気持ちを汲み取って、理解者・協力者であることが伝わるように次のような感じで話してみましょう。
Aさん:今まで何回も指導を受けてきたけど、痩せられないしもう諦めている。
栄養士:今まで痩せようと努力されてきたのですね。そんななか、今日はお話の機会をくださってありがとうございます。
Aさん:うん、でも、もう頑張れないよ。やってもムダだよ。
栄養士:痩せるための決意、努力は並大抵のものではなかったと思います。なのに結果がついてこないと、Aさんのような気持ちになるのも当然だと思います。よかったら、今までされてきた方法だけでも教えていただけませんか?
諦めの気持ちをもちながらも栄養指導に来てくださる方は、「でもやっぱり痩せたい」という気持ちをもっていることがほとんどです。
しかし長年の生活習慣を変えるのは本当に大変なもの。結果を焦らずじっくりと話し、相手の前向きな気持ちを引き出せるような声かけをしていきましょう。
話していくうちに前向きな気持ちが見られれば、「長続きできる方法を一緒に考えてみませんか?」と聞いてみてもいいですし、最後まで態度が変わらないようであれば、「またよければ○週間後にお会いして、お気持ちや近況をうかがってもよろしいですか?」などと話して指導を終えてもいいでしょう。
会話例②理由をつけてなかなか実行できない
Bさん:この間の○○、忙しくてなかなかできなくて。
栄養士:やらなかったんですか? 忙しいことを言い訳にしてはダメですよ。
栄養指導で取り決めしたことを「忙しい」「ついつい」となかなか実行に移せない方も多いでしょう。
このようなときは相手を責めるのではなく、前回の栄養指導が一方的ではなかったか、また無理な行動計画でなかったか、振り返ってみてください。
また相手のやる気を引き出すには、上手に褒めることが大切です。うまくいかなかった場合でも褒められるポイントを探して、次のような前向きな声かけをするようにしましょう。
Bさん:この間の〇〇、忙しくてなかなかできなくて。
栄養士:お忙しかったのですね。お忙しいなか、時間を割いてお話に来てくださってありがとうございます。
Bさん:△△はやってみたんだけど、これも時間があるときにしかできないね。
栄養士:実際に△△されてみたことは素晴らしいことです。忙しいなかでもできるよう、やり方を一緒に考え直してみませんか?
体重や検査値の変化といった結果ばかりを見るのではなく、相手の行動の変化に焦点を当てて褒めることがやる気の源になります。
もし褒められるところが何もなければ、「ご様子を話してくださってありがとうございます」「うまくいかなかったなかでも栄養指導に来てくださってありがとうございます」などと、プラスの声かけをしましょう。
ささいな変化でも一緒に喜び、協力者である姿勢を見せ、自ら行動に移して継続できるようサポートを意識してみてください。
会話例③正しくないと思われる食生活を実行しようとする方
Cさん:テレビで、○○を食べなければ、あとは何を食べてもいいって聞いたので実行してみようと思います。
栄養士:それは△△△だから、ダメですよ。□□□□することが大切です。
テレビや雑誌、インターネットやSNSで見た情報を信じ、栄養士の言葉にはあまり耳を傾けてくれない方もよくいらっしゃいます。
しかしここで否定してしまうと信頼関係が築かれず、相手のやる気も削いでしまうものです。たとえば、次のような感じで話してみましょう。
Cさん:テレビで、○○を食べなければ、あとは何を食べてもいいって聞いたので実行してみようと思います。
栄養士:確かにそういう方法もありますね。Cさんが○○を食べない方法を実行したい理由を教えていただけますか?
Cさん:簡単だし、芸能人が効果があるって言っていたので……。
栄養士:そうなんですね。その方法は△△というメリットもありますが、××というデメリットもあります。〇〇という方法のほうが身体に負担がなく続けられますが、まずはCさんが取り組みやすいほうを試してみますか?
つい否定したくなる気持ちをこらえ、まずは相手の考えを知り、理解できるように努めます。
ただし信頼関係を築きたいからといって、相手の意見をすべて肯定すればいいというわけでもありません。ここは栄養士の腕の見せどころです。一度意見を受け止めたうえで、客観的に考えられる「正しい食生活」を示して、相手に選択してもらうようにしてみましょう。
このようにうまく声かけをし、せっかくもっているやる気を維持できるよう、アプローチの仕方を工夫してみてください。
オンラインでの栄養指導で大切にしたい3つのポイント
オンラインでの栄養指導や特定保健指導では、次の3つが大切です。
・声のトーン
・視線
・身振り手振り
基本的には対面と同じですが、画面越しでの指導はどうしても心理的な距離が生まれやすいため、対面以上に振る舞いを意識しましょう。
まず「声のトーン」はやや高めにし、聞き取りやすく、明るい印象を伝えられるようにします。
また「視線」はカメラを見て話すようにします。つい画面を見てしまうかもしれませんが、相手から見ると視線が合わないように感じられてしまうので、印象をよくするためにも視線を送る位置に気をつけましょう。
そして「身振り手振り」を交えながら会話することを心がけます。画面越しの会話はどうしても飽きてしまいやすく、集中力が続きにくいものです。指で数を数えたり、丸をつくったりするなど、画面に変化をつけられるようにしてみましょう。
相手のやる気を引き出して、よい結果に導こう
相手の「やる気」に焦点を当て、相手主導の栄養指導をすると、驚くほど結果が出るようになります。今回紹介したものはあくまで一例ではありますが、「栄養指導がもっとうまくできるようになりたい!」という方の参考になるとうれしく思います。
関連記事
管理栄養士の栄養指導とは|仕事内容から指導ポイント・職場探しまで
参考:『臨床栄養132巻6号2018年5月号「栄養指導に活かす行動医学の視点―患者のこころとからだを支えるために」(医歯薬出版株式会社)』

広田 千尋
管理栄養士
病院や保健センター、保育園などに13年間勤務した後に独立。現在はフリーランスとしてコラム執筆やレシピ作成を中心に活動中。インターネット上にたくさんの情報があふれるなか、専門家として正しい情報をわかりやすく伝えている。
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